50万部超えの『繊細さん本』、ヒットが必然だったワケ|Forbes JAPAN

HSP(Highly Sensitive Person=とても敏感な人)について書かれた本がベストセラーに。なぜこれほどまでにヒットしたのか、ヒットの舞台裏について聞いた。
この記事は2021年2月9日にForbes JAPAN Webサイトに掲載された記事を一部編集したものです。Marisol ONLINEとForbes JAPANはメディアパートナーとして相互提携を行っています。
『「気がつきすぎて疲れる」が驚くほどなくなる 「繊細さん」の本』(2018年7月、武田友紀著、飛鳥新社刊)
『「気がつきすぎて疲れる」が驚くほどなくなる 「繊細さん」の本』(2018年7月、武田友紀著、飛鳥新社刊)

「機嫌が悪い人がいるだけで緊張する」、「相手が気を悪くすると思うと断れない」、「疲れやすく、ストレスが体調に出やすい」、「細かいところまで気づき、仕事に時間がかかる」──。

これは、累計50万部以上売れたベストセラー本、HSP(Highly Sensitive Person=とても敏感な人)がラクに生きる方法を伝授する、『「気がつきすぎて疲れる」が驚くほどなくなる 「繊細さん」の本』(2018年7月、武田友紀著、飛鳥新社刊)の帯に書かれている内容だ。

日本で数少ないHSP専門カウンセラーであり、自身もHSPである武田友紀氏が、普段のカウンセリングの中で一番多く聞く相談事がこの4つだという。

発売後一年の売り上げは3万部程だったという同書だが、現在では50万部を突破し、2020年の年間ベストセラーランキングでも総合ランキング入り(トーハン調べ、総合16位、ビジネス書3位)するなど、異例のヒットを記録した。

同書担当編集者の矢島和郎氏は、シリーズ売り上げ100万部以上の寝かしつけ絵本『おやすみ、ロジャー』や、菅内閣総理大臣が愛読書として挙げているロングセラー本『リーダーを目指す人の心得』など、数々のベストセラーを世に送り出してきたヒットメーカーだ。その矢島氏に、同書がなぜこれほどまでにヒットしたのか、ヒットの舞台裏について聞いた。

 

きっかけは、一般人のツイートから

 

企画したのは、同書発売の約1年ほど前。その頃ツイッターで、ある一般ユーザーのHSP(とても敏感な人)に関する投稿が何万リツイートもされ、話題となっていた。程なくして、NHKの番組「朝イチ」でもHSPが取り上げられるなど、世の中に少しずつHSPが認知され始めていた頃だった。矢島氏も、そこで初めてHSPの存在を知ったという。

当時のHSPに関する書籍は、エレイン・N・アーロン博士の『ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ。』や長沼睦雄氏の『敏感すぎて生きづらい人の明日からラクになれる本』など、医者や研究者などの専門家が著者の本しか存在しなかった。

そこで矢島氏は、一般の人でも気軽に手にとり、実生活で役に立つHSPの実用書を作ろうと思い立った。そして、本の著者として適任な人を探していたところ、見つけたのがHSP専門カウンセラーである武田氏だったのだ。

 

企画者は、「非・繊細さん」だった

 
そんな矢島氏だが、自身はまったくHSPではないという。

「元々心理学には興味があったのですが、私自身はまったく繊細さんではなくて(笑)。繊細さん診断テスト(同書のP.28。全部で23問。そのうち12個以上当てはまればHSPと言われている)があるのですが、やってみたところ、一つしか当てはまりませんでした。

HSPではないのですが、私には別の悩みがあって。片付けが苦手で、鞄の中がぐちゃぐちゃだったりして、『なんでだろう』と思っていたところ、多動気味で片付けが苦手な性質をもつ人がいるということを知り、『自分が悪いわけじゃないんだ』と思えたことで気が楽になった、という経験があって。なのでHSPについても、その存在を知ることで『自分がおかしいわけじゃないんだ』と気づいて楽になれる人がいるのではないか、と思いました」

飛鳥新社取締役編集長、『「繊細さん」の本』編集担当 矢島和郎氏
飛鳥新社取締役編集長、『「繊細さん」の本』編集担当 矢島和郎氏

魔法のネーミング「繊細さん」にヒットの秘訣あり

 
こうして非・繊細さんによる繊細さんの本の企画が誕生した。

では実際に、どういった人が同書を購入しているのだろうか。

「この本で初めてHSPを知った、という人が非常に多いです」と矢島氏は話す。その理由について、「『繊細さん』というネーミングが大きかったのでは」と言う。

「繊細さん」という言葉は、元々武田氏が自身のHPで使用していた。矢島氏は初めて目にしたときピンと来るものがあり、同書でもこの言葉をそのまま使用した。「HSP」だと少々硬い印象だが、「繊細さん」という表現を使うことで柔らかい印象になり、より幅広い人に届けることができた、と矢島氏は話す。

 

一番多い「会社での悩み」にフォーカス


矢島氏には前提として、「初めてHSPを知る人のための本」にしたいという思いがあった。そのため同書ではまず、HSPについて非常に丁寧に説明されている。

その上で、この本では「How to」を大きな柱にした。「How to」、すなわち「どうしたらいいのか」が明らかにされていることこそが、「医師や研究者ではなく、カウンセラーが書くHSPの本の意味なんです」と矢島氏は言う。

この点に関しては、武田氏のメーカー勤務、会社員経験が大いに活かされているという。自身もHSPとして組織で働いた経験から、「HSPの人が会社で働いているときに、どんな状況に陥ると大変か」ということを、武田氏は身をもって理解しているのだ。

また、武田氏が同書を書く前から600人以上をカウンセリングしたなかで、一番多かったのが「仕事関係の相談」だったという。そのため、同書でも会社での悩みにフォーカスした。

 

 

本の中に「!」や「〇〇のせい」がないワケ

 

同書を読んだ「繊細さん」の中には、その「読み心地の良さ」に魅了された人も多いだろう。それには理由がある。繊細さんが読むことを想定して作られているため、文章の非常に細かい表現までこだわり抜いて作られているのだ。

一番わかりやすい例が、実用書では多用されやすい「!(びっくりマーク)」が極端に少ないという点だ。これは、強い刺激が苦手な繊細さんのために、極力柔らかい印象をもたせたい、という武田氏のこだわりだという。

「〇〇のせい」や「〇〇してしまう」といった表現をほとんど使っていないのも特徴だ。こうした表現には自責の意味が含まれているため、「繊細な結果出てくる行動がすべて悪いわけではない」、という武田氏が考える繊細さんの前提条件にそぐわない。

また、「生きづらい」という表現を使用しなかったのも、武田氏の意見だった。

「それまでのHSPの本で『生きづらい』は多用されていたので、私もこの言葉を使おうと提案しました。そしたら武田さんに『実際に相談に来る人で、生きづらいと言う人は誰もいません』ときっぱり言われたんです。なるほど、と思い、この言葉は使用しないことにしました。私が繊細さんではないということもあり、言葉や表現のキモの部分を武田さんにお任せすることができたのも、この本が売れた理由の一つではないかと考えています。本って、編集者があまり何もしない方が、上手くいくんですね」と矢島氏は言う。

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こうした言葉の表現に対する武田氏の強いこだわりは、「この本をお守りにしています」や「初めて自分をわかってもらえた気がした」といった読者の声につながっている。

 

まさかのあの人も? 「繊細さん=大人しい」は間違い


ここまでの矢島氏の話を聞いて、この本はやはり、自分を繊細さんだと感じた人に読まれている、ということがわかった。

しかし普段、繊細さんとして生きていると、「周囲に理解してもらえない」と感じたり、自分と似た繊細な感覚を持ち合わせている人は少ない、と感じている人は多いのではないだろうか。それでも、多くの人が同書を手にとったのは、「一見、繊細さんには見えないような人でも、実は繊細さん」の場合があるということなのか?

矢島氏によると、その可能性は往々にしてあるという。「繊細さんと聞くと、大人しい感じの人を想像されがちですが、感度が高いということなので、社交的な繊細さんも存在します」。

その代表的な例と言えるのが、お笑いタレントとして活躍するロンドンブーツ1号2号の田村淳氏だ。

武田氏が、田村氏がパーソナリティを務めるラジオ番組に出演し、HSPの話をしたときのこと。その話に物凄く共感した田村氏は、その後自身のSNSで紹介するほど「繊細さん」を気に入ってくれたのだという。

田村氏といえば、数多くの番組でMCを務め、トークも達者でまさに社交的なイメージの人物だ。しかしそうした人でも、自身の内に秘めた繊細さをどこかで感じながら日々を過ごしているかもしれない……田村氏は、その最たる例であると言えるだろう。
 

 

非・繊細さんに傷つけられることも。でも「悪気」はないことが多い


自分自身ではなく、身近に繊細さんがいる、と感じた人が同書を買うケースも多いという。

社内教育の一環として使用する企業があったり、医師が患者にすすめたり、周囲に繊細さんがいるかもしれないので、知っておく必要があると思い購入するなど、その理由はさまざまだが、特に身近な存在である「家族」のために買う人が多いという。

同書では、非・繊細さんについての説明もあるため、繊細さん、非・繊細さん双方が読むことで相互理解につながるのだという。

矢島氏は最後にこう打ち明けた。

「なぜこの本がここまでヒットしたのかというのは、正直よくわかりません。ですが、武田さんが言うには、もしこの本が提供したものがあったとするならば、『世の中への安心感』だったんじゃないか、と。なるほどと思いました。

『世の中は辛くて怖い場所なんだ』と感じながら生きている人はたくさんいる。でもこの本で繊細さんたちは『自分が悪かったわけじゃないんだ、他にも繊細さんはたくさんいるんだ』ということや、『非・繊細さんも悪気があるわけじゃなく、自分と違うだけなんだ』と知る。そして『世の中は安心して住める場所なんだ』という希望を、この本を読んだ人に与えることができたのかもしれない、そう考えています」

Forbes JAPAN 編集部

Forbes JAPAN 編集部

1917年にアメリカで創刊したビジネス誌「Forbes」の日本版として、2014年6月より「フォーブス ジャパン」と題し新創刊しました。(世界38カ国にてライセンス版を刊行)。「世界から日本に、日本を世界へ」をテーマに、グローバルな視点を持つ読者たちに向け、フォーブス本国版、各国版の記事をキュレーションし、日本オリジナル記事と共に構成。ビジネス、経済、投資、アントレプレナー、ランキングの記事を掲載していきます。
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取材・文=長谷川寧々 編集=石井節子

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