仏製ドラマ「Lupin/ルパン」がヒット!Netflixは「外国語の壁」を超えた?|Forbes JAPAN

全編フランス語のNetflixのオリジナルドラマが、強力なアメリカ作品に並んで、世界制覇を成し遂げた!これは何を意味する?
この記事は2021年3月2日にForbes JAPAN Webサイトに掲載された記事を一部編集したものです。Marisol ONLINEとForbes JAPANはメディアパートナーとして相互提携を行っています。
仏製ドラマ「Lupin」がヒット!Netflixは「外国語の壁」を超えた?
主人公アサン役を演じるのはフランス人俳優のオマール・シーだ(Netflixオリジナルシリーズ『Lupin/ルパン』独占配信中)

作品のタイトルは「Lupin/ルパン」。日本でもよく知られているあの「怪盗ルパン」からインスパイアされた作品で、英語以外の外国語ドラマとしては最大のヒットを生み出しています。

 

これはNetflixがリードする「グローカル」ドラマの時代を象徴する出来事と言えるでしょう。グローカルとは「global(地球規模)」と「local(地域的)」を合わせた言葉で、ある国や地域の人だけでなく世界中の視聴者を惹きつけるコンテンツづくりを意識するという、いまや世界190カ国以上に展開するNetflixが推し進めてきた戦略です。

 

「Lupin/ルパン」の成功は、今後、英語以外の作品にも、世界的大ヒットのチャンスがあることを意味するのでしょうか?

 

初動再生数7000万世帯の仏製ドラマ

 

Netflixオリジナルシリーズ「Lupin/ルパン」は、1月8日から全世界配信が開始されました。すると、28日間に7000万世帯で再生され、フランスをはじめ、ブラジル、アルゼンチン、ドイツ、イタリア、スペイン、ポーランド、ベトナムなど世界数10カ国の「TOP10(総合)」で人気第1位を獲得。世界で最も会員数の多いアメリカでも、第2位をマークしています。

 

7000万世帯での再生は、日本でも話題になった「クイーンズ・ギャンビット」(アニャ・テイラー=ジョイ主演)の初動再生数を上回る数字です。「Lupin/ルパン」より2週間前に配信された「ブリジャートン家」が8200万世帯再生で、いまのところNetflix最大の1カ月当たりの初動再生数ですから、それに続く世界的大ヒットとなった作品と言えます。

 

「Lupin/ルパン」は、20世紀初頭にフランスのモーリス・ルブランが発表した推理小説シリーズ「怪盗紳士アルセーヌ・ルパン」に想を得て、現代版としてよみがえらせた作品。全編フランス語、キャストもフランス人で固めたドラマシリーズです(現在パート1第5話まで配信中)。

 

Netflixオリジナルシリーズ『Lupin/ルパン』独占配信中
Netflixオリジナルシリーズ『Lupin/ルパン』独占配信中

これまでも、Netflixからは、スペイン発のドラマシリーズ「ペーパー・ハウス」(パート4エピソード8まで配信)など、世界的人気を得た外国語作品が生み出されていますが、圧倒的な再生数を残す作品の大半は英語によるものか、ハリウッド俳優が出演するアメリカ発ものでした。

 

もちろん、これはNetflixだけの話ではありません。長年にわたって、アメリカのドラマが世界でも人気を得やすいということは周知の事実でした。だからこそ、なぜ「Lupin/ルパン」のような外国語作品がこれほどの素晴らしい結果を残すことができたのかという疑問が生まれてくるのは当然で、その理由も知りたくなります。

 

 

成功のポイントは主演とクリエイターの才能

 

「Lupin/ルパン」が大ヒットした答えのひとつは、オンライン上で開催されたフランスの国際ドラマ祭「SERIES MANIA」で、2月10日のフォーラム「RENDEZ-VOUS」に登壇した「Lupin/ルパン」の製作陣の発言にありました。

 

監督のルイ・ルテリエと、Netflix・フランスの国際オリジナル作品ディレクターであるダミアン・クーヴルール、製作したゴーモン・テレビジョン社長兼プロデューサーのイザベル・ディジョージが顔を揃えて、成功の理由について明かしたのです。

 

「主演のオマール・シーのスター性とイギリスのクリエイターであるジョージ・ケイ(原作&製作)の才能が成功へと導いた。『アルセーヌ・ルパン』を現代に生きるルパンとしてキャラクター化し、フランスらしいエッセンスを注入しながら、ファミリー向けエンターテイメントに仕上げたことも大きかった」

 

これはクーヴルールの発言ですが、つまり大ヒットに結びついた理由は大きく3つ。1つは主演俳優オマール・シーの魅力、2つ目は作品のクリエイターであるジョージ・ケイの実力、そして3つ目は、フランスが生み出した「怪盗ルパン」というキャラクターをいまの時代にうまくアレンジして、再生させたことです。

 

まず、主演のオマール・シーは、フランス映画「最強のふたり」(2011年)で主人公の1人であるスラム街出身の青年の役を演じてブレイクしたフランス人俳優。この作品でフランスのアカデミー賞にあたるセザール賞の主演男優賞を受賞した実力派です。国際的にも注目され、「ジュラシック・ワールド」(2015年)など、ハリウッド作品にも数多く出演しています。

 

「Lupin/ルパン」では、父親の敵を討つセネガル移民の息子であるアサン役を演じています。父親から託された「怪盗ルパン」が愛読書で、そこから着想を得て、巧みな知恵とユーモアでエレガントに強盗を働くその姿は、ダークヒーローの大泥棒であるにもかかわらず、観る者に共感を抱かせるほどです。

 

Netflixオリジナルシリーズ『Lupin/ルパン』独占配信中
Netflixオリジナルシリーズ『Lupin/ルパン』独占配信中

それはフランス社会のなかに存在する、アフリカ系フランス人をはじめとするマイノリティに対しての偏見や格差に対して、クリティカルなメッセージが込められてもいるからです。そんな重要な役割を担う主人公に、オマール・シーの起用は欠かせないものであったと言えるでしょう。
 
次に、原作と、製作にも深く関わっているジョージ・ケイの存在です。彼はイギリス出身で、犯罪スリラーものを得意とするいまノリにノッているクリエイター。サンドラ・オー主演のドラマシリーズ「キリング・イヴ/Killing Eve」の脚本やNetflixオリジナルシリーズ「クリミナル」の企画者として、国際的に評価されている作品を次々と手掛けており、ローカル言語や文化を活かしてスリリングな物語を紡ぐストーリーテラーでもあります。
 
「Lupin/ルパン」では、ドラマの世界へと一気に引き込むため、重要な初回の舞台に、フランス文化の象徴とも言える「ルーヴル美術館」を選んだあたりも絶妙の設定。何よりも単なる犯罪ドラマに終わらせず、父親と息子の深い絆を描くファミリーエンターテイメントとしたことも、どの国のどの言語の視聴者でも作品の理解を深める助けとなっています。

 

Netflixオリジナルシリーズ『Lupin/ルパン』独占配信中
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「ルパン三世」が先鞭をつけたキャラクター再生

 
3つ目の成功要因である「怪盗ルパン」というキャラクターの再生についてですが、実は日本が生んだコミックそしてアニメの「ルパン三世」が、その先鞭をつけていると言っても過言ではないと思います。
 
そもそも「怪盗ルパン」というキャラクターは、少なくともアメリカ人には馴染みがなく、この名前を冠したアメリカ映画は1944年に公開された「ルパン登場(Enter Arsène Lupin)」を最後に製作されていません。つまり「怪盗ルパン」は、アメリカ人にとっては、ほぼ無名のキャラクターと言ってもいい存在でした。
 
そんなアメリカでは知る人ぞ知る「怪盗ルパン」というキャラクターを、実はコミック及びアニメ大国の日本が、主人公をアルセーヌ・ルパンの孫という設定にして、いち早く蘇らせていたのです。
 
先の「SERIES MANIA」のフォーラムでも、「日本の『ルパン三世』こそ、ルパン再生の元祖である」とあらためて紹介されていました。
 
また、2015年にはイタリアで「ルパン三世」の新作までつくられました。そのお披露目発表会がフランス・カンヌの国際テレビ見本市MIPCOMで催された際、世界各地のメディア関係者やジャーナリストが現場に殺到した様子を筆者も目撃しています。 

  

今回のドラマシリーズ「Lupin/ルパン」の成功によって、日本のクリエイターたちが世界に先駆けて「怪盗ルパン」というキャラクターの再生に成功していたということにスポットが当たり、その先見性を誇りに思わざるを得ません。
 
日本の「ルパン三世」、そして今回の世界的人気を博したドラマシリーズ「Lupin/ルパン」、つまりこれは、「怪盗ルパン」がブレにくい鉄板のIP(Intellectual Property=知的財産)であることを意味しています。
  
いま、世界のドラマ製作業界では、世界各地にある強力なローカルIPの発掘に力を入れています。例えば、BBCのドラマシリーズ「SHERLOCK(シャーロック)」(2011年〜17年)はその成功事例になります。
 
前述のように、NetflixがローカルIPをグローバルに広げるグローカル戦略に目を向けていることは明らかです。英語圏以外の外国語作品への投資も増加していることや、世界各国へのローカルオフィス拠点の拡大や人材強化がその現れです。
 
その結果として、スペイン、ドイツ、韓国などから続々と世界的なヒット作品が生まれて、今回はフランスからも大成功を収める作品がつくり出されたというわけです。
 
フランスではNetflixへの加入者は900万人まで増え、「Lupin/ルパン」のようなヒット作を生み出す必要に駆られていたかもしれません。そうだとしても、英語圏に比べるとマイナーなイメージがつきまとっていた外国語作品が着実に支持され始めていることを証明できた功績は大きいと思います。
 
外国語作品にとって「Lupin/ルパン」がブレイクスルーのきっかけになったと振り返る日はそう遠くないかもしれません。シーズン1の後半6話以降の配信は今夏が予定されています。ひき続き英語圏以外の外国語作品に注目が集まっていくなかで、日本発の作品の世界的成功の可能性にも期待したいところです。

 

文=長谷川朋子
長谷川朋子

長谷川朋子

メディア/テレビ業界ジャーナリスト
国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。最も得意とする分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。フランス・カンヌで開催される世界最大規模の映像コンテンツ見本市MIP現地取材を約10年にわたって重ね、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威ある「ATP賞テレビグランプリ」の「総務大臣賞」の審査員や日本で唯一のコンテンツマーケットTIFFCOM2020専門家構成員を歴任、業界セミナー講師、行政支援国際プロジェクトのファシリテーターなども務める。

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