日本人初のBBCレポーター・大井さんに聞く、キャリアと子育てのこと|Forbes JAPAN

イギリス公共放送BBCの日本人初のレポーター・大井真理子さんが語った、母親としての自分だけでなく、1人の女性、ビジネスパーソンとして尊重される場所を見つけることの大切さについて。
この記事は2021年3月6日にForbes JAPAN Webサイトに掲載された記事を一部編集したものです。Marisol ONLINEとForbes JAPANはメディアパートナーとして相互提携を行っています。

SDGs、気候変動対策、脱炭素社会──。これらの言葉を聞いて、綺麗事だと思う人がいるかもしれない。しかし、世界的なパンデミックを経験し、ビジネスを含めた様々なセクターが「ソーシャルグッド」な活動に舵を切り始めた。その流れの中で無視できないのが、30歳以下を中心としたZ世代だ。他の世代と比べても社会貢献への意識が高いと言われている彼ら。本記事では、U30世代のための政治と社会の教科書メディア「NO YOUTH NO JAPAN」のメンバーが、社会に感じるモヤモヤを第一線で活躍する大人にぶつけ、ソーシャルグッドについて一緒に考えていく。

 

イギリス公共放送BBCの日本人初のレポーターの大井真理子さんにキャリアと子育てについてインタビュー。3児の母でありながら、シンガポールを拠点に世界を飛び回るキャリアウーマンだ。
 
実は日本の育児休業制度は世界的にも優れているにも関わらず、男性の育休取得率は2019年度には過去最高の7.48%だったが、未だに少ない。職場をはじめ社会全体でもジェンダー平等が実現されていない状況だ。これから就職をするU30世代の私たちの抱える不安も交えながら、キャリアと子育てが両立できる社会のつくり方について考えたい。

 

次女を出産後、8週間で仕事復帰した。その後は隔週で産休取得し、今回の連載の取材日は産休中だった
次女を出産後、8週間で仕事復帰した。その後は隔週で産休取得し、今回の連載の取材日は産休中だった

子どもを産むのに完璧なタイミングなんてない


NO YOUTH NO JAPAN 田中舞子(以下、NYNJ田中):今回のテーマについて、U30世代のメンバーからいろんな意見を集めてきました。その中で就職活動をしているメンバーが、「女子はやっぱり育休制度とか福利厚生が大事でしょ?」という風潮を感じているそうです。今はやりたい仕事を基準に会社を選んでいるけど、将来を考えると福利厚生も気にした方がいいのか?そもそも、なぜ女性だけがこんなことを言われるのか?と、すごくモヤモヤします。

大井さんはキャリアを積む中で、いつ頃から子育てについて考えていましたか。

大井真理子(以下、大井):まだそんな風潮があるんですね!私は、留学先のオーストラリアで報道の仕事に魅力を感じ、この分野でキャリアを積みたいと思いました。24歳でBBCに入社した時は、まだ出産や子育てについては詳しく考えてなかったですね。

上司や周りの先輩からは、「特にこの業界はキャリアだけを追っていると、子どもを産むタイミングを逃してしまうから、20代のうちから考えたほうがいいよ」というアドバイスをもらいましたが、入社したての頃だったので聞き流していましたね。いま考えると、大切なアドバイスだったと思います。

BBCは女性の上司が多く、産休や育休についてもよく考えてくれる会社です。でも、子どもを産むのに完璧なタイミングなんてない。どうしても女性のキャリアアップに影響が出てきます。私は憧れだったニューヨークでの勤務期間にいまの夫にプロポーズされ、その後のロンドン勤務中に長女を妊娠していることがわかりました。子どもができたことは嬉しいけど、キャリアアップの最中だったので困ったのも事実です。しかし、周りには同じような経験をしてきた女性の上司がたくさんいて、「心配しないで」と声をかけてくれました。

NYNJ 続木明佳:特に報道という仕事は、何か起こったら現場に行ってレポートをするなど、予想外のスケジュールが多く、子育てをするには大変な印象があります。
 
大井:そうですね、特に出張が1番大変です。幼い子どもを置いていくことに罪悪感はありますし、頻繁に母親がいなくなってしまう状況を子どもにどのように説明するか悩みました。でも、嘘をついて誤魔化すのではなく正直に言った方がいいと私は思っています。だから、3歳の長男にも「ママが働いてお金を稼ぐからご飯が食べられるんだよ。これが資本主義なの」と伝えています(笑)6歳の長女は私の仕事を理解しているようです。

 

2018年、歴史的な南北会談を韓国と北朝鮮のDMZ(非武装地帯)からライブ中継した
2018年、歴史的な南北会談を韓国と北朝鮮のDMZ(非武装地帯)からライブ中継した

NYNJ 田中:メディアで取り上げられている「キャリアと子育てを両立する女性」は、みんなスーパーウーマンですごい方たちという印象です。大井さん自身、普通のお母さんと一緒だなと思うことはありますか。

 

大井:以前、他メディアでコラム連載を書いていた時に、ヘルパーを雇っていることを書くか迷いました。でも、実際彼女がいないと、いまの生活は成り立たないので、その存在をないように扱うことはよくないと思って書いたんです。案の定、一部の人からは「母親失格だ」という意見が返ってきましたが、記事を読んでいる方々の「この人はなんで両立ができているの?」という疑問にちゃんと答えたかった。私の両立生活は、人の手助けのおかげで、いまが成り立っていることは声を大にして伝えたいです。

 

次女を抱えるヘルパー。彼女がいるからこそ、子育てをしながらキャスター業を続けられるという
次女を抱えるヘルパー。彼女がいるからこそ、子育てをしながらキャスター業を続けられるという

本当のジェンダー平等とは?女性なら誰でもいいわけではない

 
NYNJ 和倉莉央:キャリアと子育てを両立できる社会を作るために、ジェンダー平等の考え方は不可欠だと思います。しかし、2020年の日本のジェンダーギャップ指数の順位は153カ国中121位と、世界の中でも目立って悪いですよね。どのようなところが改善されるべきなのでしょうか。
 
大井:日本の全てが悪いとは思わない反面、私が日本を見ていて感じるのは、会社に対して「それ、おかしくないですか?」と言いづらいカルチャーです。この中で声をあげて女性蔑視の風潮を変えていくことは、とても大変なことだと思います。
 
あとは、女性が活躍できる場所を作ることも大切です。BBCでは「50:50プロジェクト」といって番組出演者の男女比を等しくするプロジェクトをしています。海外では多くのメディアが参加しているのですが、日本からは1社のみ。なぜ日本のメディアは参加してくれないのかなと思います。このプロジェクトを通して、女性のゲストを増やすことの難しさも分かりました。私たちが戦い続けなければ変わらないと感じます。

 

NYNJ 田中:確かに、女性が活躍する場所を作ることは大事ですが、本当のジェンダー平等を目指すならば女性であることだけを理由にオファーするのはちょっと危ないなと思います。日本がこれからジェンダー平等の社会をつくっていく上で、このような誤った方向にいかないか心配です。「女性だから」ではなく個人のパフォーマンスを評価して機会を提供するような社会になってほしいです。
 
大井:日本にはすでに優秀な女性がたくさんいるので、声を上げにくい現実の中で、どれだけ活躍してもらえる環境をつくれるかということが重要だと思います。50:50にするために女性だから選ぶ、というわけではないですよね。
 

「だから女性は......」の風潮を変えていく

 
NYNJ 和倉:東京五輪パラリンピック大会組織委員会の森喜朗前会長の発言からも、日本に根付くジェンダー差別の風潮を感じます。大井さんはあの発言から何を考えましたか。
 
大井:個人的には、全く驚きのない発言です。97歳で亡くなった私の祖父も、家の外で言ったらジェンダー差別と捉えられるようなことを時々言っていました。その世代の人たちを変えていくのは難しいと思います。でも、オリンピックの関係者としてあの発言をしたことで、海外のメディアも反応した。管理職や政治家といったポジションに女性がつけないこと、その事実自体が流されてしまうことをなんとかしないといけません。

 

日本社会として父親が家事を手伝うのがえらい、という風潮も変わってほしいです。いま住んでいるシンガポールでも、子どもが幼稚園で熱を出した時に先に電話がかかってくるのは私、母親です。生放送があって絶対に出られない時間があると伝えているにも関わらず。こういう時は故ルースベイダーギンズバーグ判事がおっしゃっいていた言葉「この子にはもう1人親がいるので、そちらにお願いします」と伝えますが、共働き家庭が多いシンガポールでも、幼稚園側も父親にかけるのはハードルが高いのか、母親父親のステレオタイプが変わるには時間がかかると感じました。

妊娠35週目まで飛行機で飛び回り、各地からリポート。写真は2017年5月、東京から
妊娠35週目まで飛行機で飛び回り、各地からリポート。写真は2017年5月、東京から

NYNJ 田中:日本では「産休や育休を取りづらい」「職場に迷惑をかけるから肩身が狭い」という声があるのもすごく悲しいことだなと思います。このような声に対して、どう思いますか。
 
大井:そもそも日本は少子化なのに、子どもを産む人に対してそんな思いをさせていることがおかしいですよね。BBCだと現場でレポートをする特派員はみんなの憧れなのですが、私が長女を妊娠している時にちょうどその募集があったんです。
 
履歴書の1行目に「妊娠中だからそれが不利になるならば、私を選ばなくて大丈夫です」と書いて提出したところ、上司にすごく怒られました(笑)「こんなことを言う必要はない。良い候補者だと思ったらあなたを雇うし、他に優れた人がいたらその人を選ぶだけだ」と。要は、妊娠中であっても本人が行けると言えば行かせてくれます。全ては本人次第なんですね。

 

2017年、BBCワールドニュースに出演時
2017年、BBCワールドニュースに出演時

私たちは、どういう世界を次世代に残しているんだろうか

 
NYNJ 続木:私たちの世代は、就活で企業選びをする際やそのほか日常的にも何か選択をする時に、それが「ソーシャルグッドであるか」つまり、社会に良い影響をもたらすかを特に強く意識する世代だと言われています。今回の企画は「U30世代とソーシャルグッドを考える」なのですが、大井さんは「ソーシャルグッド」と聞いて何を考えますか?
 
大井:母親の立場として、皆さんや私の子どもたちの世代が社会貢献について考えなきゃいけない状況にしてしまっているのが申し訳ない、というのが最初に抱く思いですね。6歳の長女が、水を出しっぱなしにしている3歳の弟に対して「そんなことしたら地球がなくなっちゃうよ!」と言っているのを見て、私たちはどういう世界を次世代に残しているんだろうと考えてしまいます。私も報道という仕事を通して、何ができるのか最近特に考えているところです。
 
NYNJ 続木:「申し訳ない」というのは、私たちにとって新鮮な視点です。最後に、これからキャリアを選択していく若者たちにキャリアと子育てに関して伝えたいことを教えてください。

 

大井:私が入社当時、上司に言われたアドバイスを伝えたいです。子どもを産める時期は限られているから、キャリアを追う中で子どもが欲しいかどうかを考えておくことはとても大事。仕事と両立することに関しては、「me time(自分の時間)」を持つことも大切だと思います。
 
子育てが中心の生活になると、自分が自分でなくなってしまう感覚になることがあるんです。例えば、昔の私だったら絶対にやりたかったワシントン特派員などの仕事も、子育てを考えると無理かなと思ってしまう。でも、あれだけ憧れていた仕事を応募もせずに諦めるなんて私らしくないんですよ。だから、大きなプロジェクトに集中するようにしています。家に子どもを置いて出てくることに罪悪感を感じることもあったけれど、私らしくいられるように好きな仕事だから続けられる。キャリアと子育てを両立するためにも、皆さんには自分が大好きな仕事を選んでほしいなと思います。

 

夫のスカイ・ニールさんと家族で記念写真。子育てでは「子供を必要以上に子ども扱いしない」がモットーだ
夫のスカイ・ニールさんと家族で記念写真。子育てでは「子供を必要以上に子ども扱いしない」がモットーだ

取材を終えて

 
3人のお子さんを育てながら仕事を続ける忙しさを、生き生きと楽しそうに語る大井さんの姿に勇気をもらいました。私たちU30世代も未だに「家事は女性がするものだ」という風潮から抜け出せていません。就活の面接、親からの一言、ドラマのワンシーン、様々なところで無意識のうちにその風潮を受け入れてしまっているからだと思います。でも、私たちのつくりたい社会は、子どもを持たない人も、産んで仕事を続ける人も、性別に関係なく個人の自由が認められる社会です。大井さんのお話からも、母親としての自分だけでなく、1人の女性、ビジネスパーソンとして尊重される場所を見つけることの大切さを学びました。

 

大井真理子●「BBCワールドニュース」の日本人初のレポーター兼プレゼンター。1981年東京都生まれ。シンガポールを拠点に、アジア発の朝のニュース番組「アジアビジネスレポート」のプレゼンターを担当。取材拠点はアジア全域に渡り、時事ニュースのほか、経済、自然災害、無差別テロの現地報道から特集の制作まで幅広く行う。BBC.comへの記事執筆や、ドキュメンタリー番組の製作も担当。

 

文=田中舞子(NO YOUTH NO JAPAN)
NO YOUTH NO JAPAN

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U30世代のための政治と社会の教科書メディア
Instagramを中心にU30世代のための政治や社会の教科書メディア(@noyouth_nojapan)を運営。2019年7月参議院選挙の際、若い世代の投票率を上げるためにアカウントを開設し、どの政党も応援しない中立な立場で選挙に関する情報を発信。社会問題や政治について解説を続け、現在フォロワー約5.5万人。
その他にも、「若者が声を上げ、その声が響く社会」をビジョンに掲げ、U30世代が政治や社会について知ってスタンスを持って行動するための入り口づくりを実践。イベント運営や地方選挙での投票啓発、政治家と若い世代の対話の場づくりに取り組み、大学生を中心に、全国の10代・20代約70名で活動している団体。

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