オードリー・タンに小学生作家がインタビュー!「トランスジェンダーと多様性」|Forbes JAPAN

10歳の小学生作家・秋元ういさんが、今興味があるという「トランスジェンダー」について、台湾のデジタル担当大臣であるオードリー・タンさんにインタビュー。オードリーさんは名前の由来や未来の社会について丁寧に語ってくれた。
この記事は2021年3月29日にForbes JAPAN Webサイトに掲載された記事を一部編集したものです。Marisol ONLINEとForbes JAPANはメディアパートナーとして相互提携を行っています。
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2018年、絵本『しょうがっこうがだいすき』が出版され、10万部を超えるベストセラーとなった。作者は、秋元うい。執筆当時小学2年生、これから小学生になるみんなに学校の楽しさを教えてあげたいという想いから筆を取ったという。
 
現在10歳になったういが次に興味を持ったのは、トランスジェンダー。夏の自由研究や当事者へのインタビューをもとに小冊子『小学生の私たちが知っているだけで、せかいを変えることができる。』を自費出版した。トランスジェンダーといえば、新型コロナウイルスの封じ込めで脚光を浴びた台湾のデジタル担当大臣、オードリー・タンがカミングアウトしていることで知られている。ういが是非取材をしたいとインタビューをオファーしたところ、OKの返事をもらった。
 
3月半ば、Forbes JAPANオフィスでういとオードリー・タン大臣の対談が実現。「オードリーの由来は?」「カミングアウトできたのはなぜ?」──10歳の作家ならではの質問に、大臣が丁寧に答えた。

オードリー・タンと秋元うい

虹とトランスジェンダー

 
秋元うい(以下、うい):こんにちは。私は現在10歳で、『しょうがっこうがだいすき』という本を書いた秋元ういと申します。

 

オードリー・タン(以下、オードリー):昨日ういちゃんが書いた本を読ませてもらいました。自分の意見や考えがはっきりと書かれていて、とても印象に残りました。

うい:実は、あるきっかけを通してトランスジェンダーに関心を持ったのですが、テレビや他の媒体を通しても、トランスジェンダーの情報がなかなか手に入りませんでした。そして、特に小学生がトランスジェンダーのことを理解できる本が少ないので、自分でも書いてみたいと思うようになりました。

オードリー:ういちゃんは意外に思うかもしれませんが、実はトランスジェンダーの人たちは世界中にたくさんいるんですよ。たとえば、虹は一つの国から見えるのではなく、世界各国どの国からも見ることができますよね。世界中から虹が見える現象と同じように、トランスジェンダーの人たちも世界各国に存在しているんです。

うい:オードリーさんは、男性であった時代に、自分が男性であることに特に何か強く感じたことはありましたか?

オードリー:もちろん、生理的には男性でしたが、だからと言って自分が特に男性だと意識したことはなくて、同じように女性になったからと言って、特に自分が女性だという意識も持っていないんです。そうした表に出てくる現象だけで自分の性が何なのかを決めるわけではないのです。

うい:女性になったときの気持ちは、どうでしたか?

オードリー:先ほども言いましたが、これはまさにダイバーシティ(多様性)の問題で、強いて言うなら、女性になってからは、自分の中に特に女性が持つ特有の感情が生まれてきたのではないかと思っています。たとえば、他の人たちの感情を組み入れる能力が増し、感情の認知度が豊かになった気がします。そして、繊細な気遣いを持つことで、もっとニュアンスを含んだ人間関係を築くことができるようになりました。でも、だからと言って特に自分が女性であることを意識しているわけではありません。

 

 

コンピューターが持つ「無性」に居心地の良さを感じた


うい:いつ頃から自分の本質は女性かもしれないと気付いたのでしょうか?

オードリー:最初に「もしかしたら?」と思ったのは、「男ならこうするべきだ」という周囲の期待に応えられない自分に気付いたときです。それと、12歳で初めてコンピューターと出会ったとき、男女の性別に関係ないところで動くコンピューターが持つ「無性」あるいは「両性」の要素に居心地の良さを感じたんです。

うい:なぜ、オードリーという名前を思いついたのでしょうか? オードリーという名前には何か特別な意味があるのでしょうか?

オードリー:オードリーの漢字名は「不死鳥」で、英語では「フェニックス」と言います。それは二つの性に分けられない言葉なんです。女性的な言葉の横にあると、男性的に映るし、逆に「竜」のような非常に男性的な漢字の横にあると女性的になる。性別が流動的で固まっていないし、特に性別を意識させないんですね。
 
あるとき、日本の友人からフェニックスは漢字で「鳳」と書いて、「おおとり」と発音すると聞いたことがあって、それが「オードリー」という発音と似ていたので、「オードリー」という名前を選びました。

 

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うい:なぜ自分がトランスジェンダーだとカミングアウトする勇気を持つことができたのでしょうか?

 

オードリー:それは、ひとえに自分の周りに素晴らしいコミュニティーがあったからだと思います。最初に自分で会社を立ち上げたときも、職場の仲間が皆カミングアウトの経験を持つLGBTQIの人たちだったんです。彼らができるのなら自分にもできるはずと思わせてくれる「安全な場」と「サポートする仲間」の存在が大きかったですね。

 

うい:「普通(ノーマル)」とか「当たり前」という言葉は、その逆の仲間外れを作ってしまうのではないかと思いますが、オードリーさんは「ノーマル」の意味をどのようにお考えですか?

 

オードリー:台湾のパブリックセクターは男女の比率が3分の1というのが普通だったのですが、だんだん女性の比率を40%にするのが普通になり、現在は42%が女性という状況です。何が普通であるかは社会やコミュニティーの動きによって決められるのです。

 

ただ、コミュニティーの中にも色々な人たちがいるので、その概念をそのまま当てはめることはできません。たとえば虹には赤が含まれているけれど、「赤」と限定することはできません。虹は様々な色が入り混じった「マルティカラー」という表現をした方が理に叶っていますね。

  

うい:私のような子供たちがもっとトランスジェンダーについて知った方が良いですか?

 

オードリー:「男の子だから男らしくするとか、女の子だから女の子らしくする」というステレオタイプの権化を乗り越えるためにも、年齢にかかわらずもっと皆が知るべきことだと思っています。

 

うい:特にどんなことを子供たちに伝えていくと良いでしょうか?

 

オードリー:「生物学的な特徴が必ずしも自分たちの運命を決めるわけではない」ということを伝えることができれば良いですね。

 

うい:もっと色々な人たちがトランスジェンダーに関心を持ち、正しい知識を持つことができれば、トランスジェンダーの人たちも皆幸せになれると思いますが、どのようにしたらそのような状況を作れるのでしょう?

  

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皆がトランスジェンダーになる社会へ

 

オードリー:皆が少しずつトランスジェンダーになることが大切だと思っています。たとえば、台湾では「1922」という組織を作っていた男の子がいて、学校では男子全員が青いマスクをしていたのに、彼はたまたまピンクのマスクしか持っていなくて、ピンクのマスクをつけることをすんなりと受け入れてもらえなかったんです。

  

ところがある日、医療従事者を含めて、大臣を含める厚生省機関の人たちが全員ピンクのマスクをつけてきた。おまけに、大臣は、「小さい頃にピンクパンサーが好きだったので、ピンクのマスクがとても気に入っている」と語ってくれて、そうこうしているうちに、政府機関の人たちは皆自分が好きな色のマスクを身に着け始め、世の中の様子が少しずつ変わってきたんです。

 

これをジェンダーメインストリームと呼んでいるのですが、このように自然な形でトランスジェンダーが皆に理解され、ダイバーシティを受け入れることで世の中がトランスジェンダー化していけば良いのではないかと思っています。

 

うい:トランスジェンダーの人にとって、性別とはどんな存在ですか?

 

オードリー:トランスジェンダーにとっての性別(ジェンダー)とは、虹の色のようなもので、自分の中にある色々な経験を表現するということだと思います。

 

うい:男性はごく普通に社会的に成功している人が多いですが、女性にはそういう人たちが少ないので、オードリーさんのような存在は皆に明るい希望を与えているのではないかと思います。では、オードリーさんが目指しているコロナ後の世界について少しお話ししていただけますか?
 
オードリー:台湾は既にポストコロナの時代入っていると思います。もちろん、ポストコロナの時代でも、まだ完全に自由になっているわけではありませんが、私たちの社会には今、明らかに二つの大きな変化が起きていると思います。
 
一つはインターナショナルコネクションがオンライン化して、トランスカルチャー時代に入ってきていること。二つ目は、たとえば気候変動や男女平等など、現在世界中で起きている様々な問題をいろいろな国の人たちが協力し、世界が一体となって解決しようとする新しい世代が生れてきているということ。どちらもコロナパンデミックから生まれた素晴らしい進化だと思っています。

 

子供を尊重し、自立を促す教育を

 

うい父:自分自身の経験を踏まえてうかがいたいのですが、子育ての大切さについてはどのようにお考えですか?

 

オードリー:振り返ってみると、両親はいつも自分を一人の大人として扱ってくれていたと思います。自分が何か変えたいとか、抗議したいことがある場合にも、なぜそうなのかという理由を理論立てて説明すると、両親はいつもそのサポートをしてくれました。もちろん、ただ要求するだけで、合理的な説明がなければ受け入れてくれませんでしたが、いつも私の個人としての感情を尊重して、子どもが持っている世界観に干渉したりすることはありませんでした。

 

その年齢に叶った範囲で自立を促す教育をしていれば、子供は自然に成長していくものだと思います。そうしないと、その子が自分の世界観さえ育てられないような精神的に成長しきれない「子供大人」になってしまうのではないかと思います。

 

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うい母:トランスジェンダーとしての葛藤や、それが原因で起きた不登校など、いろいろな問題があったと思います。そんなときに救いになったご両親の対応があれば、教えて頂けますか?
 
オードリー:自分の場合、自宅教育(ホームスクール)ということに関して、社会、学校、両親から理解され、支援されていたという点でとても幸運だったと思っています。中学校の先生が「インターネットを通して独自にリサーチをして学びたいと言う自分の気持ち」を理解してくれたので、そのお陰で両親の心配も減ったと思います。自分がやりたい形で学習することができたし、家族やコミュニティーからのサポートをもらうこともできました。
 
自分自身の体験から言っても、大人がさまざまな考えを聞く耳を持つことが何よりも大切なのではないかと思います。たとえば、思い込みや定義づけで勝手な判断をすることを避け、何を心配しているのかをお互いに話し合い、確認し合うと事態は必ずや好転してくるのではないかと思います。
 
うい:ありがとうございました。トランスジェンダーについても、いろいろと理解することができました。これからもオードリーさんから教えて頂いたことを基に、自分たちがやれことをやって行きたいと思っています。
 
オードリー:こちらこそ、貴重なお時間をありがとうございました。

 

<Profile>

オードリー・タン(唐鳳)◎現在中華民国のデジタル担当大臣を務める政治家及び、プログラマー。2005年、Perl6のHaskellによる実装のPlugを開発し、「台湾のコンピューター界における偉大な10人の一人」とも言われている。
 
秋元うい◎2010年に岐阜県で生れ、現在10歳の絵本作家。8歳のときに『しょうがっこうだいすき』を出版して10万部を売り上げるベストセラーとなる。

 

文=賀陽輝代 構成・編集=谷本有香
Forbes JAPAN 編集部

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1917年にアメリカで創刊したビジネス誌「Forbes」の日本版として、
2014年6月より「フォーブス ジャパン」と題し新創刊しました。(世界38カ国にてライセンス版を刊行)。「世界から日本に、日本を世界へ」をテーマに、グローバルな視点を持つ読者たちに向け、フォーブス本国版、各国版の記事をキュレーションし、日本オリジナル記事と共に構成。ビジネス、経済、投資、アントレプレナー、ランキングの記事を掲載していきます。フォーブスが取り上げる人物の人生には必ずストーリーがあり、そのストーリーから「未来を切り開くメッセージ」を読者へ届けます。

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