週休3日制を「阻む人」と「普及への条件」とは?|Forbes JAPAN

政府内でも議論が展開されている「選択的週休3日制」。今後の新しい働き方の1つとして広まるのだろうか
この記事は2021年6月1日にForbes JAPAN Webサイトに掲載された記事を一部編集したものです。Marisol ONLINEとForbes JAPANはメディアパートナーとして相互提携を行っています。
Westend61 / Getty Images
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東京都内にある東証1部上場企業に勤めるAさんは今年、「副業」の一環として新たな会社を立ち上げた。勤務先が新たな人事制度を導入したのに伴い、1週間の休日がこれまでの2日から増えたからだ。

 

これまでも会社の承認を得て副業を手掛けていた。だが、新制度では毎週、いつの曜日に休みを設定するかも社員の裁量に委ねられており、柔軟な働き方が可能だ。

 

新型コロナウイルスの感染拡大で「本業」がすべてリモートワークへ移行。通勤に費やす時間を仕事へ充てるなどの余裕ができたことも起業の決め手になった。「本業」の給与は据え置き。1週間の労働時間も従来と変わらない。休みが増えた分、1日の所定労働時間も増加したためだ。それでも、Aさんは「(チャットやオンライン会議などの機能を備えたツールの導入で、)電話対応など即時性の高い仕事が減った」と在宅勤務のメリットを強調する。

 

同じく都内のIT企業で働くBさんも勤務先の働き方改革の恩恵に浴した1人。週休3日制の導入時には育児や家事だけでなく、資格取得の勉強に充てる時間が増えたという。1週間の所定労働時間は減っても、従来と変わらない水準の給与を手にすることができた。

 

「パソコン1台あればなんでもできてしまう」(Aさん)。コロナ禍に加え、休日増が労働形態の多様化を後押しする。政府内では「選択的週休3日制」の導入を検討。希望すれば週5日の勤務を週4日に減らすことができる仕組みだ。

 

日本マイクロソフトは2019年夏に「週勤4日 週休3日」を柱とする実践プロジェクトを実施した。同年8月の毎週金曜日に特別有給休暇を全社員に付与。社員の効率化に対する意識改革などを狙ったもの、という位置付けだった。給与にはまったく影響のない仕組みで、「週勤4日になった分、4日間の労働時間が増えたなどの報告はなかった」(同社広報)。

 

実施後のアンケート調査では、社員の約92%が「週勤4日 週休3日」制度について「評価する」と回答。休日を利用し、受講中のMBAのプログラムで自動車工場の見学に参加したり、実家の豆腐屋のECサイト立ち上げに挑戦したりした社員もいた。

 

宅急便大手の佐川急便も2017年6月からドライバーの一部に週休3日制を導入。休日が多い分、1日の労働時間は長くなるが、給与は週休2日制勤務と変わらない。運送業界の人出不足は深刻だが、「新たな人材層の確保が可能になり、“週休3日”というフレーズで求人広告効果も高くなった」(同社広報)などと説明する。

  

もっとも、こうした例はあくまでも先駆的な取り組み。「休日増で社員がリフレッシュし、仕事へのやる気も出ることで生産性向上につながる」などと効果に大きな期待を抱くのは短絡的かもしれない。厚生労働省が2020年に実施した「就労条件総合調査」によると、完全週休2日制よりも休日の日数が実質的に多い制度を採用しているのは全体の8.3%にとどまる。
 
同制度の採用がさほど広がっていない理由の一つは、受け入れ側に抵抗感が強いことだろう。週休3日制は大きく3つのパターンに分かれる。1. 休日を増やして労働時間を減らすが給与は据え置き、2. 休日を増やすが労働時間も増やして給与は変えない、3. 休日を増やして労働時間を減らすが給与も減、だ。前出のAさんは2、Bさんは1のケースにそれぞれ該当する。
 
問題なのは3のケースだ。給与減は受け入れられないと考える社員が多いとみられる。たとえ「副業」に力を入れても、「本業」と合わせた収入が必ずしも従来水準を上回る保証はない。3の仕組みを適用する企業は「コスト削減が目的」と受け止められてしまう可能性もある。
 
理由の2つ目は社員に対する評価である。Aさん、Bさんの働く会社はいずれも仕事の成果や結果に基づいて評価や処遇を行う成果主義を採用している。年度初めに目標を策定し、年度末にどの程度達成したかによって評価が決まる仕組みだ。労働時間の長さは評価の判断材料にならない。だが、成果主義が日本の企業社会の主流になったとは言い難い。いまだに「労働時間ありき」の会社も少なくない。
 
営業職などでは働き方の見直しに対する顧客側の理解も不可欠。時間を度外視して、要求し続ける顧客は存在する。また、同じ会社でも週休3日制と週休2日制の併用となれば、勤怠管理などの面でよりきめ細かな制度設計も求められよう。
 
一方、成果主義のなじまない職種もある。「警備や医療機関の当直など、時間を割くことそのものが付加価値を生む仕事の場合には、1日少ない労働時間で同等の付加価値を生むこと自体が難しい側面もある」(第一生命経済研究所の星野卓也・主任エコノミスト)。
 
コロナ禍で警察、消防、看護師、介護に携わる人々など日常生活を支えるエッセンシャルワーカーの忙しさは増すばかり。こうした状況下ではそもそも週3日制導入など難しく、人材難がなかなか解消されないという悪循環に陥っている面もありそうだ。
 
週休3日制普及のカギとしてもう一点、指摘したいのが企業風土の変革だ。「マネジメント層に対するトレーニングやコーチングが充実しているかどうかが重要」とBさんは振り返る。優先されるべきは休みを取れるような職場環境の醸成だろう。マネジメント層にそうした問題意識の共有を促す必要がある。
 
しかるに、有給休暇の完全消化すらままならない企業が少なからず存在している。「週休3日制の普及が目的であってはならない」と第一生命経済研究所の星野氏は釘をさす。

 

文=松崎泰弘
松崎泰弘

松崎泰弘

大正大学表現学部教授
1962年東京生まれ。2018年4月から大正大学表現学部教授。フリー・ジャーナリストとしても活動。大学卒業後、ラジオたんぱ、北海道放送、東洋経済新報社で30年あまりに渡り、経済記者・編集者として勤務。金融市場や欧州経済などの取材が長く、ニューヨーク駐在経験もある。東洋経済では「オール投資」編集長、市場経済部長、証券部長など歴任。現在、東京MXテレビ2(ストックボイス制作)の「東京マーケットワイド」に毎週金曜日午前、キャスターとしてレギュラー出演。著書に「お金持ち入門 資産1億円を築く教科書」(実業之日本社、共著)。東洋経済オンライン、朝日新聞などにも記事を執筆。学生時代は体育会ラグビー部に所属していた。趣味は多品種大量飲酒。

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