アートを通してルールを考える「ルール?展」、ディレクターの狙いとは|Forbes JAPAN

東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTで開催中の「ルール?展」。展示会に込めた思いをディレクターチームにインタビュー
この記事は2021年7月6日にForbes JAPAN Webサイトに掲載された記事を一部編集したものです。Marisol ONLINEとForbes JAPANはメディアパートナーとして相互提携を行っています。
「ルール?展」展覧会ディレクター(左から)田中みゆき、水野祐、菅俊一
「ルール?展」展覧会ディレクター(左から)田中みゆき、水野祐、菅俊一

7月2日から東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTで「ルール?展」が開催している。
 
法律、文化的背景に基づいた規則やマナー、家族のルール、マイルールなど、日常のあらゆる場面で私たちの行動を形づくる「ルール」。新しいルールの見方・つくり方・使い方を考える展示を行うというが、ルールについて考えることで見えてくるものとは一体なにか。
 
展覧会ディレクターチームの3人、法律家の水野祐、コグニティブデザイナーの菅俊一、キュレーターの田中みゆきに、展示を通して伝えたい思いを聞いた。

 

  

──目まぐるしく社会が変化する現代において、ルール自体も転換期を迎えていると思います。いまルールはどのように変化していると考えますか。
 
水野祐(以下、水野):決められたルールをただ守れば効率よくこなせる時代から、既存のルールを疑い、修正し、自分たちで新しく規定する必要がある時代になってきていると思います。法律でいうと、だいたい戦後にできてから70〜80年経っていて、建て増しでは無理がきていることが顕在化しているのかなと。

 

菅俊一(以下、菅):自分の年齢や立場の変化も大きく関係すると思っています。子どもの時は常に大きな存在がいて、基本的にはルールに従わざるを得ない状況の方が多かった。でも年齢を重ねると自分が決める側になってくる。そういう時に、じゃあ何をどう決めるのか、と立ち向かうことが増え、ルールについて考える真剣味が増してきたような気がします。

 

コグニティブデザイナー 菅俊一
コグニティブデザイナー 菅俊一

──必ずしも守れない理由があったり、ルール自体に疑問を感じ、息苦しさをおぼえる人もいると思います。社会の変化に呼応したり多様性を尊重するには、ルール自体に柔軟性が求められるのではないかとも思います。
 
田中みゆき(以下、田中):日本ってひとつの商品のバリエーションが多いですよね。例えばコンビニには、抹茶ラテにキャラメルラテに、とラテだけでたくさんの種類が用意されて、色んなニーズに対応しようとするじゃないですか。こちらから何も言わなくても選択肢が豊富で、わかりやすく、綺麗にお膳立てされている。
 
普通に生活する分には、戦って権利を勝ち取ったり、制度を疑問に思ったりしなくても便利にやってこられていたというか。多くの人にとっては「なぜこの仕組みはこうなっているんだろう?」などといちいち思わなくても生きられる国。でも、その代償がいますごくきていると思います。 

会場風景(ギャラリー2)(撮影:吉村昌也)
会場風景(ギャラリー2)(撮影:吉村昌也)

菅:ルールがあるからこそ変な物が出てくる、みたいな例が日本は多い気がして、それはある意味での魅力になっているのかなと。さっきの話だと、いざラテが人気だとなると、そのラテというルールのなかで何かを作ろうと、いろいろ変なものが出来ていくわけですよね。クリエイティビティと言っていいかわからないけど、こういった日本ならではの誤用があるからこそ、面白い状況になることはあると思います。やっぱり人は制限があると挑戦して、どうにかそれを乗り越えて面白く、良くしていこうとする。
 
田中:ビジネスではそういう面白さがあるのに、なぜ政治だったり、本当に必要なところにそれが反映されないのか、とは思いますよね。
 
菅:そうですね。チャレンジや提案は、あらゆる社会実践の場面で本当は表れないといけないと思います。
 
水野:ルールって面白く楽しく捉えることもできますよね。ゲームのルールとか、人との関係を円滑にするための暗黙のルールとか、あるいはSDGsもルールによって社会を変革していこうとするポジティブな例だと思うんです。だけど法令とか、学校や会社の規則の話になると、みんな途端に窮屈でできる限り遠ざけておきたいものになってしまう。

展示を通して、ルールは面白く扱ってもいいし、ただ従うだけでなく、より良くなるように作り変えてもいいものなんだと、少しでも思ってくれる人が増えたらいいなと思います。ルールって特別なものではなく、仕組みのひとつです。ある種のメタ的な思考をもって、仕組み自体を面白く捉えて見られる人が増えてほしいなと。

 

法律家・弁護士 水野祐
法律家・弁護士 水野祐

──目には見えない「ルール」というものを展示にするのは難しかったのではないですか。
  
水野:とてもチャレンジングでした。

 

これまではルールというと、どうしても最終的にはリテラシーや教育の話になり、説教臭くなってしまっていた。でも「みんなルールについてリテラシーや意識を高くもって行動しよう」という表現ではこぼれ落ちてしまうものがたくさんあります。
 
だから今回の展覧会では、来場者のみなさんが展示に自ら巻き込まれてアクションを起こすような体験を通して、ルールを一緒に考えたり、作っていく楽しさを感じられるようなものとして企画しました。
 
田中:ディレクターチームの3人とも、合理性に美しさを感じて、そこに重きを置くタイプなので、根拠なく「ただ美しい」といった理由で展示したものはひとつもないです。
 
菅:合理性に重きを置くというのは、なんとなくそうなっているものに対して「なんで?」と問うのが当たり前になっているという感じです。
 
人間が決めたルールには全て目的や意図があって、そうしたものをちゃんと読み取らないといけないなと考えています。長く使われているルールって、なんでそれが作られたのかが消えちゃうんですよ。とりあえず昔からあるからという理由だけで生き残っていたり、使われていることがすごく多いので、そこに対して「なんで?」と思えることが大事なんじゃないかなと改めて思いましたね。
 
再考して、変化を加えても、上手くいかないこともあると思います。でも「変えてもいいんだ」という状況のほうが前に進みやすい気がするんですよね。だから変えることに慣れる、変わることが当たり前になっていく、というモードに多くの人がなることが大事なんだろうなと感じます。

 

キュレーター・プロデューサー 田中みゆき
キュレーター・プロデューサー 田中みゆき

──田中さんは作家としてご自身も作品を出展なさっています。作品について解説して頂けますか。
 
田中:2013年にリミニ・プロトコルというカンパニーがつくった舞台「100%トーキョー」を、来場者自らが主役となって体験できるようにつくり変えて展示します。その作品は、年齢や性別などの東京の人口比率をそのまま表した100人を集めて、ステージ上で生で意識調査をするものです。「子どもがいる・いない」などアンケートのような質問もあるのですが、例えば「今週泣いた」といった数字以上のものを想像させる質問もあり、小さな選択や思いを持った他者が集まって社会を構成していることが見えてきます。

ダニエル・ヴェッツェル(リミニ・プロトコル) 田中みゆき 小林恵吾(NoRA)x 植村 遥 萩原俊矢 x N sketch Inc.「あなたでなければ、誰が?」(撮影:吉村昌也)
ダニエル・ヴェッツェル(リミニ・プロトコル) 田中みゆき 小林恵吾(NoRA)x 植村 遥 萩原俊矢 x N sketch Inc.「あなたでなければ、誰が?」(撮影:吉村昌也)

そこに今回は来場者自身が主役となって参加してもらいます。来場者は鑑賞者となることもできますが、出演者となる場合、自ら何かを選択せざるを得ない側に立たされるんです。さらに選択を行うと、その場にいる人たち、あるいはこれまでの来場者や他の調査結果と比べて、その選択が多数派かどうかが示されます。
 
この作品を展示したいと思った意図は、「あなたでなければ、誰が?」というタイトルが表す通り、たとえ当事者意識をもっていなかったとしても、自分たちが日々何かを決める一役を担っていることを意識してもらう、最初の体験になればいいなと思ったからです。

 

──「ルール?展」を開催することで、社会にどのようなメッセージを発信したいですか。
 
水野:目まぐるしく変化する社会情勢のなかで、ビジネスでも、日常の生活でも、既存のルールを疑ったり、距離をとったり、新しく作り直したり、というようにルールに対するものさしや、ルールメイキング思考が求められているように思います。この展示を通して、そうした思考に触れることができるはずです。
 
ルールが決まっているからこそ、そこから逸脱できるし、決まったものがあることによって新しいものの差分を作っていくことができるような気がします。まず何か課題にアプローチする時に、これまでそれが扱われてきたフレームやルールを見出して、そこから一個外せば新しいものができる。ある種ルールは、新しいものを作るひとつの手段でもあると思うのです。

丹羽良徳「自分の所有物を街で購入する」(撮影:吉村昌也)
丹羽良徳「自分の所有物を街で購入する」(撮影:吉村昌也)

菅:そう思います。人間って決まったことに従いやすい性質がある。だから僕の場合、その性質を利用して、あえて自分自身に制約を敢えて課すことで、考えることを意図的にずらして、普段考えないようなことを考えるようにしていくみたいなことを普段からやっています。制約を自分でデザインすることによって、自分の行動をアップデートすることができる。
 
どんな小さなことでも、自分の意志で決めてやるのが大事だと思っています。例えば長い映像作品を立ったまま見ていると、すごく疲れるじゃないですか。疲れたらその場に座ってしまえばいいと思うんですよね、自分で決めて。でもなかなか実行に移せない自分がいたりする。
 
「ルール?展」ではそういった状況になった時に「座っても良いのでは?」と考えて行動できる自分を発見するきっかけになるような仕掛けも入れています。
 
自分で決断して実行することを積み重ね、決断することに慣れることがこれから生きていく上で大事な気がするんですよね。小さなことを積み重ねていくと、自分の生き方や社会に対してのアプローチの仕方が変わってくるんじゃないかなと、ちょっと期待しています。小さなさざ波でも起こしていかないと世の中は良くならないので、ほんの些細であってもそのきっかけになれれば嬉しいなと思います。

アートを通してルールを考える「ルール?展」、ディレクターの狙いとは|Forbes JAPAN_1_8

田中:ひとつのやり方がある時に、そうではないやり方があることを想像してほしいと思っています。自分はこういう風に生きているけど、そうじゃないこともあり得た、ということをどれくらい想像できるかがすごく大事だなと。
 
1人の能力を高めていくことももちろん大事ですが、社会全体が豊かになる方法を考えていかないと、もうどうにもならなくなってきている。どのくらい他者の範囲を広げて考えられるか、という意味でいろいろなルールやルールへの思考を知ることが、この展示のひとつの役割としてあるのかなと。
 
体制や仕組みを含め、こんなにルールが信頼を失っている時代はないのではないかと思います。権威的な存在がやることは全て信頼が担保されている、という時代はもう終わっていて、信頼を得るには互いの地道な努力が必要だということをみんな認識しているはず。なのに同意しかねる一方的な要請が続くことで、体制やルールを信じられなくなっている。
 
そうした社会のリアリティーが強すぎるなかで、どれくらい「ルール?展」を楽しんでもらえるかはちょっと心配でもあります。ただ、この状況を直接的に変えようとするとかではなく、一人ひとりが「そもそもルールってなんだっけ」という視点から、自分の周りにあるルールに意識を向けることを楽しんでもらえたらいいなと思います。

文=河村優 写真=苅部太郎
河村優

河村優

Forbes JAPAN Web編集部。
大学4年時から同編集部にてインターンを行い、卒業後入社。1997年東京都出身。早稲田大学文学部卒。関心領域はアメリカ文学・文化、ファッション、ステレオタイプ、まちの歴史。

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