メゾンの歴史を守りたい ヴィタリー・テタンジェ社長と家族の奮闘|Forbes JAPAN

シャンパーニュ界においてトップ3に入る「テタンジェ」。テタンジェファミリーが率いるメゾンの歩みを振り返る
この記事は2021年7月11日にForbes JAPAN Webサイトに掲載された記事を一部編集したものです。Marisol ONLINEとForbes JAPANはメディアパートナーとして相互提携を行っています。
テタンジェファミリー
テタンジェファミリー

パリの国際機関で働いていた当時、世界中から集まる政府高官のレセプションや、事務局長主催の新年会の場に華を添えていたのが、老舗のメゾン「テタンジェ」のシャンパーニュだった。
 
こうした華麗なイメージのテタンジェは、シャンパーニュ界においてトップ3に入る規模の大手であるが、その長い歴史には、山あり谷ありの歩みがある。

 

長い歴史を持つメゾンの歩み

 
メゾンの歴史は、1734年まで遡る。最古のシャンパーニュ・メゾンの設立は1729年であり、テタンジェもそれと等しい歴史を持つメゾンの一つだ。
 
1932年、ピエール・テタンジェがメゾンを取得し、テタンジェ家による家族経営となった。それ以降、順調に成長を続け、シャンパーニュ生産のみならず、ラグジュアリーホテルのクリヨンや、クリスタルメーカーのバカラを傘下にもつなど、事業は多角化し、拡大した。

 

Brut Prestige
Brut Prestige

しかし、2004年、思わぬ事態が発生する。家族間の意見の不一致により、株主であるピエール・テタンジェの子孫らが、シャンパーニュを含む事業全体を、米系ホテルを傘下に持つスターウッド・キャピタルに売却する決定を下したのだ。スターウッドの買収目的がホテル事業にあり、買収後、シャンパーニュ造りに力を入れないことは予期できた。
 
そこで、メゾンの大事な歴史を守るべく立ち上がったのが、ピエールの孫であるピエール・エマニュエル・テタンジェだった。
 
テタンジェのブランドを維持すべく、家族での買い戻しをひそかに計画した。最上の畑を含む数々の資産やブランド価値の高い老舗メゾン売却とあり、多数の入札者が現れたが、ピエール・エマニュエルは、銀行などの助けを借り、落札に成功。2006年、メゾンは家族の手に戻った。

メゾンの歴史を守りたい ヴィタリー・テタンジェ社長と家族の奮闘|Forbes JAPAN_1_3

その後、ピエール・エマニュエルの手腕により、メゾンのブランド力は強化された。そして2020年、メゾンは、娘のヴィタリーに託された。
 
シャンパーニュの長い歴史と発展は、ヴーヴ・クリコのマダム・クリコやルイ・ロデレールのカミーユ・オルリー・ロデレールなど、女性の活躍なしには語れない。こうして、今の時代に、大手メゾンの新社長に女性が就任したことは、シャンパーニュに新しい風を吹き込むものと歓迎されている。

 

シャンパーニュで育ったヴィタリーだが、母親の影響でアートなどに興味を持ち、シャンパーニュの経営とは全く無縁で、特に興味もなかったという。学生時代はアートを学び、その後もその世界でキャリアを築いた。
 
転機となったのは、2004年のメゾンの売却劇だ。ヴィタリーはこう振り返る。
 
「父が奮闘する姿を間近で見て、自分も力になりたいと思いました。家族が買い戻してから、手伝いたいと申し出ました。父は、最初反対しましたが、徐々に認めてくれたのではないかと思います」
 
結果として、この売却からの買い戻しは、家族の絆を深めることになった。

ヴィタリー・テタンジェ(左)
ヴィタリー・テタンジェ(左)

ヴィタリーは、まずは、マーケティングのコンサルタントとしてメゾンに参画。生来のカリスマ性と魅力的な人柄で、次第にメゾンの“顔”として認知されるようになり、周りの信頼も得て、2020年に社長に就任した。

 

特級村のブドウで造るシャンパーニュ

 
テタンジェのプレスティージュ・キュヴェが、「コント・ド・シャンパーニュ(Comtes de Champagne)」だ。シャンパーニュの最良のブランドブラン(シャルドネ100%で作るシャンパーニュ)の一つである。
 
コント・ド・シャンパーニュは、クラシックで重厚。単一収穫年のシャルドネ100%で、高品質で優良な年にしか造られない。
 
テタンジェは、シャンパーニュ中に広大な自社畑を持ち、長年の契約農家や協同組合からのブドウとあわせて、ワインを造る。コント・ド・シャンパーニュは、その中でも、シャルドネの銘醸地と名高いコート・デ・ブラン地区にある特級村のブドウのみが選ばれている。
 
直近のリリースは、長期熟成の可能性を持つ、偉大なヴィンテージとなった2008年。成熟したリンゴ、洋梨の果実に、カスタードやレモンタルト、若干の香ばしいコーヒーやキャラメルのニュアンスが加わった、壮大なスケールのワイン。シャンパーニュ好きなら飲むべき逸品だ。

Comtes de Champagne 2008
Comtes de Champagne 2008

ヴィタリーには、マーケティングを担当する兄がいる。そして彼女は、「わたしたち家族にとって、誰が社長かは関係ありません。これからも家族で力を合わせて前に進みます」と話す。
 
家族で一丸となってメゾンを引っ張っていく、今後のヴィタリーの活躍とテタンジェの躍進に期待したい。

 

文=島悠里、写真=ワイナリー提供、島悠里
島 悠里

島 悠里

ワイン・シャンパンの分野で記事を執筆。米国ニューヨーク州弁護士。サンフランシスコ・ベイエリア在住。慶應義塾大学卒業後、外資系投資銀行勤務を経て、米国ロースクール留学。その後、国際弁護士事務所勤務を経て、国際機関勤務のためパリに駐在。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート。ワインの国際的な資格であるWine&Spirit Education Trust(WSET)の最上位資格であるLevel 4 : Diploma取得。

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