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海堀あゆみさん「どん底があったから今がある。金メダルこそ、その証」【私の“ここから”#04】

2011年、FIFA女子ワールドカップで優勝し、日本に感動と勇気を届けてくれたなでしこジャパン。なかでもゴールキーパーだった海堀あゆみさんは、PK戦で強豪アメリカのシュートを2本セーブし、歴史的勝利に貢献した。そんな海堀さんが今年4月、日本女子サッカーリーグ(以下、なでしこリーグ)の理事長に就任。選手時代にどん底を経験したからこそ気づいた、サッカーへの想いと未来。
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Profile

海堀あゆみさん
かいほりあゆみ●日本女子サッカーリーグ(なでしこリーグ)理事長。日本女子プロサッカーリーグ(WEリーグ)理事、日本フットサル連盟理事、日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)特任理事も務める。小学2年生からサッカーをはじめ、中学1年生のとき、スペランツァF.C.高槻の下部組織に加入。高校時代は一時期サッカーから離れるも高校3年生の夏、チームに復帰し、ゴールキーパーに転身。19歳で日本女子代表に初選出。2008年、INAC神戸レオネッサに移籍。2011年FIFA女子ワールドカップ ドイツ2011に正ゴールキーパーとして出場し、優勝に貢献。2012年、ロンドン五輪で銀メダルを獲得するなど、選手として輝かしい記録を残す。2015年にシーズンを終えて引退。引退後は自身の経験をいかし後進の育成や地域創生活動をするなど、サッカーやスポーツの普及、発展に尽力している。

女子サッカーの魅力を多くの人に届けたい

━━2025年4月になでしこリーグの理事長に就任されました。職務としての重さはもちろん、男子サッカーとの違いが世間の目を集めることもあり大変なお仕事だと思いますが、いかがですか。

 

責任の重さを感じています。なでしこリーグはアマチュアの最高峰のリーグで歴史もあり、私自身も育ってきた場所です。今の日本の女子サッカーの土台を築き上げたのは、やっぱりなでしこリーグがあったからなんですよね。日本の女子サッカーを支えていくリーグとして、これまで以上に環境を整えていくこと、地域に根差したチームや選手一人ひとりの魅力を多くの人に届けていきたいです。

海堀あゆみさん

━━改めて女子サッカーの魅力というのは、どんなところにあると思いますか。

 

そうですね。まずは親しみやすさだと思います。ファン、サポーターのかたによく「選手と親しみやすい」と言われます。選手たちはみんなまっすぐで、笑顔が素敵で、仲間思いで。そういう温かさに共感してくださっているのではないでしょうか。


ピッチ上のことでいうと、パスや戦術、コミュニケーションなどを、より細やかにして行わなければ、チームとして成り立たないと感じています。そうしたテクニカルな部分も女子サッカーの魅力のひとつです。 そして、フェアプレー。日本の女子サッカーはファウルが少なくて、ワールドカップで優勝しながらフェアプレー賞も受賞した国というのは、世界的に見てもなかなかないんですよね。これは日本の女子サッカーが誇れるところだと思います。


現在、なでしこリーグは1部と2部が12チームずつで、計24のチームが全国にあります。チームごとのカラーがあって、地域に根差した活動をしているので、そこにも注目してほしいです。そして、昼間は別の仕事をしていたり学生として勉強と両立していたりと、いろいろな選手がいるのも魅力。そういった、選手一人ひとりのバッググラウンドも含めて、彼女たちを応援していただけたらうれしいです。

━━大変なお仕事ですが、ゴールキーパーの経験からリーダーとして今のように全体を見渡す仕事は得意なのでしょうか?

 

そうですね。前に出て引っぱるタイプというより、最後方から誰かを支える、バックアップするような役割のほうが得意なのかもしれませんね。実は、オフィスでも全体が見渡せる後方の席が好きなんですよ。誰でも、コンディションがいい時も悪い時もあると思うので、みんなの表情がよくわかる位置にいたい。そういうクセがついているみたいです。フロアの真ん中の席に座ると落ち着かないんです(笑)!

 

理事長という大役を任せていただいていますが、私ひとりの力ではできることは限られています。サッカーと同様に、みんながそれぞれの役目を果たしてこそ成り立つものです。そんな仲間がいるからこそだと思っています。

ワールドカップの時も、いいことも悪いことも、とことんチームで話し合ってきました。そういった経験があるからかもしれませんが、今もチームで対話することを大切にしています。意見がぶつかり合うこともありますが、「日本の女子サッカーをよりよくする」という想いがあればそれは当然のこと。得意なことも立場も違うからこそ、お互いが本気で話し合うことで同じ目線、目標を持つことができる。そして、その信頼関係があるからこそ、よりいいものが生まれる。このチームでこれからもっと女子サッカーを盛り上げていけると思っています。

選手としてのどん底と、偉大な先輩から学んだ闘う姿勢

海堀あゆみさん「どん底があったから今がある。金メダルこそ、その証」【私の“ここから”#04】_1_3
身長170㎝を超えるが、ゴールキーパーとしては決して長身ではなかった。その分、チームメイトとの連携を特に大事にしていた ©J.LEAGUE

━━海堀さんは小学校2年生ごろからサッカーを始めて、強豪チームに所属していたそうですが、高校の時にはサッカーを離れていた時期もあったそうですね。


はい。中学生の時、バブル崩壊などの社会的影響を受けて、所属していた企業チームが運営から撤退してしまいました。市民クラブになって環境が一変したことなどから、将来を描けなくなってしまいました。


さらにサッカーが大好きだからやっていたのに「勝たないといけない」というプレッシャーが強くなってきて、純粋に楽しめなくなってしまった。それで受験のタイミングでチームから離れて、高校ではテニス部に入りました。今思うとあの時、一度離れてよかったと思っています。続けていたら、ストレスを抱え込んで潰れてしまっていたかもしれない、サッカーを嫌いになっていたと思います。あの時の決断は、自分にとってすごく大きかったと思います。


━━そこから、どうやってまたサッカーに戻ったのですか?


戻るつもりはまったくなかったし、サッカーボールもまったく触ってなくて。普通に大学受験を考えていたんですけれど、高校3年生の時に幼なじみの友人に「もう一度、サッカーをやるべきだ!」と熱い想いをぶつけられて。「戻らないから」と何度も断ったんですけど、全然諦めてくれなくて、最後はその想いに動かされて、以前所属していたチームに戻ることになりました。


だから、今の私があるのは友人のおかげなんです。私は本当に友達に恵まれていて、自分以上に私のことを考えてくれる人たちにいろんなタイミングで出会って、救われてきました。


━━青春ドラマのようですね。そしてそこからゴールキーパーとしての人生が始まったんですね。


そうですね。紆余曲折ありましたが、その後、日本女子代表に選ばれて、福元美穂選手(現 岡山湯郷Belle)、山郷のぞみさんという偉大な先輩に出会えたことが、大きかったと思います。ふたりらはゴールキーパーとしての心得と、日本女子代表としての心得を教えてもらいました。


ゴールキーパーは最後の砦なので、ふたりは誰よりも練習するし、誰よりも準備する。チームのために何ができるかを常に考えている。その姿勢に私も突き動かされました。 2011年のワールドカップもふたりがいなかったら絶対優勝できなかったと思います。私はとにかくふたりにメダルをかけてほしいという思いで闘っていました。「誰かのために」「仲間のために」――という想いは、私の中では今でもずっと大きな原動力になっています。

  • 海堀あゆみさん「どん底があったから今がある。金メダルこそ、その証」【私の“ここから”#04】_1_4-1

    子供のサッカー教室などイベントや、地方創生にも尽力してサッカーやスポーツを普及・発展させる活動を続けている ©J.LEAGUE

━━現役時代、今のように女子サッカーリーグを引っぱる存在になるような自分の姿を想像していましたか。


いえ、想像していないです。誰も想像していなかったんじゃないかな(笑)。 引退してからは、大学(慶應義塾大学総合政策学部)に通ったり、地方でサッカーにかかわるお仕事をさせていただいたり、目の前にあることをひとつひとつ積み重ねていった結果として、今の役職に就かせていただいているという認識です。 ただ、2011年、ワールドカップで優勝した時に「もっと女子サッカーを盛り上げたかった」という思いも強く残りました。でも、選手としてやれることには限界があるなということでした。


結局、その時はブームを継続させることもできなかったし、プロ化もできなかった。だとしたら、今度は違う立場で、女子サッカー界を支えることはできないだろうかと考えるようになりました。特に、一度はサッカーを離れたという選手としてのどん底と、ワールドカップでの優勝と、この両方を経験したことが大きいです。


実はワールドカップで優勝した時の感動って、現役を引退してからのほうが感じることが多いんですよ。「元気をもらった!」「応援してました!」って、いまだに言っていただけることが多くて。ずいぶんボロボロになってしまいましたが、こうやって金メダルをお見せするのも、応援してくださったみなさんにお返しがしたいからなんです。そして、女子サッカーにかかわるすべての人や、子供たちの夢、憧れにつながり、未来へつながっていくことだと思います。サッカーが、そして女子サッカーが、一時的なブームで終わるのではなくて「ひとつの文化」として根付いていくように、次の世代につなげていきたいと思っています。

海堀あゆみさんのメダル
メダルと記念のユニフォーム。ユニフォームの左胸の星マークの数はワールドカップで優勝した回数を示す。

心を整える時間を大切にしたい

━━サッカーから離れた時間のことも聞かせてください。普段はどのように過ごされることが多いですか。


料理がすごく好きで、趣味はスーパーめぐりです(笑)。魚がおいしいところ、肉がおいしいところと、いろいろ回ったり。ちょっと余裕がある時は、コストコみたいな大型スーパーに行って買いだめしたり。今年のお正月には、おせちを5品、手作りしてみました! レパートリーも増えてきたので、今度、イベントでキッチンカーでもやろうかな(笑)。


━━理事長のキッチンカー、いいですね!(笑)お料理は現役時代からですか。


はい。コンディション作りのためにも、自分で作っていました。ゴールキーパーって、誰かがミスをしたとしても私が止めればミスがミスにならない。キーパーって、そういうポジションだと思うんです。だからどんな時も自分が冷静にどしっと構えておくための準備が大事だと思うんですね。


そのために自分と向き合う時間を大切にしていました。料理はそのひとつで、料理している時は自然に自分と対話できる。心が乱れていると料理が全然おいしくないし、すごくわかりやすいんです。引退後も心を整えることには気を配っています。ルーティンはいくつかあって、試合や仕事の日は髪をジェルで固めるとか、お気に入りのお香を焚くとか……朝の時間も大切にしています。


━━現役時代のイメージからストイックな印象がありましたが、とても繊細で、穏やかで。ていねいな暮らしぶりも素敵です! 


私はまわりの人には笑顔でいてほしいと思っているんです。それにはまず自分自身が笑顔でないといけないなと。そのためにも自分の時間を大切にして、ゆっくりと過ごすことが大事かなと思っています。私の周りの人たちが笑顔になったら、そのまわりの人たちも笑顔になって、笑顔の輪が広がっていく――そんな自分でありたいと思っています。

海堀あゆみさん
海堀あゆみさんのエンパワーメント
朝は紅茶を淹れて、心を整えます


朝のルーティンは、お気に入りの紅茶やハーブティーを水筒に入れて持っていくことです。 いろいろな種類の茶葉を用意しておいて、その日の気分で選ぶのも楽しみのひとつ。これは現役の時からの習慣で、ゆっくりと過ごして、自分と向き合う時間を作るようにしています。ほかにも移動中は、ワイヤレスのイヤホンで雑音をシャットアウトするなど、心を整える時間を大切にしています。

TWGの紅茶
忙しい中でも専門店に赴いて、茶葉を選ぶ時間も楽しむ。茶葉からゆっくり淹れる時間を大切にしている/本人私物
写真/河内彩  取材・文/佐藤裕美 編集/佐倉 光

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