
長谷川京子さん
はせがわきょうこ●俳優。1978年生まれ。16歳の時に雑誌『CanCam』の専属モデルとしてデビュー。2000年、TVドラマ『らぶ・ちゃっと』で俳優業をスタート後、数々の話題作に出演。2021年にランジェリーブランド、「ESS by(エスバイ)」を設立し、プロデューサーを務める。
ランジェリーを通して、自分を愛することの大切さを伝えたい
━━ご自身のブランド「ESS by」について、どんな思いでモノ作りをしているのですか?
ブランドを立ち上げたときから、“自愛”というテーマを掲げてきました。と言っても、それは後から気づいた部分もあって。肌に直接、洋服よりも先に触れるものとしての下着って、すごく特別だなって思っていて。心臓を包み込むっていうことが、なんだかとても象徴的に感じて、自分を守ってくれるような存在なんですよね。
どうしても、洋服とかアクセサリーのほうが目に見えるものだし、そこに先に意識が向きがち。でも本当はもっともっと肌に近い部分にこそ、自分を大切にする気持ちが表れるんじゃないかなと思います。私の場合、すごく気に入っている下着を身に着けているときは、まるでおまじないをかけられているみたいな気分になるんです。外からは見えないけど、心のなかでは「私、ちゃんと自分のこと大事にしてるな」と思える。
おしゃれをしているときの幸福感とはまた違う、もっと内側から満たされる感覚というものが、私自身、下着を作り始めてから気づいたことでもあるんです。だから、もっともっと深く“自愛”というテーマを掘り下げていきたいなと思って、「ESS by」を続けています。自分に優しくすること、自分をちゃんと愛すること。その入口としての下着――そんなふうに感じてもらえたらうれしいです。

━━ランジェリーにこだわった理由は?
私が届けたいメッセージが一番伝わりやすいアイテムだと思ったからです。洋服になると、メッセージは乗せられるけど、流行りの影響が大きいんですよね。季節もあるし、そのときは良くても、次のシーズンにはもう着られなかったりとか。でも下着って、そういうサイクルから少し離れていて、ちゃんと“残っていく”もの。だからこそ、普遍的なメッセージを込められるアイテムとして、とてもよかったなと思います。多少のトレンドはあるけれど、なによりも、先ほども言いましたが心臓の上に身に着けるものだから、そこに宿る意味がある気がして。
私の作っているものは全部シームレスです。私自身がシンプルなものが好きっていうのもあるけど、ファッションとの親和性──ストーリーを持ったものを作りたいという思いが強くて。でも、これからは、レースとかも取り入れたいですね。例えば、シースルーの服の下に着て、透けても可愛いなとか。実際キャミソールのシリーズもあるけど、それにジャケットをはおったら、もうそれだけでお出かけできるよねっていう感覚。そういう、ちょっと“下着とファッションの間”にあるような存在を、私はずっと作りたいと思います。

━━モノづくりのアイデアはどこから?
ファッションが好きなので、日々、ファッションを通して「あ、これ作ったらよさそう」と、ピンとくるものがあるんです。正直、そんなに“ネタ帳”みたいなものは持ってないです(笑)。でも、だからこそ、その都度「こういうのがあったらうれしいよね」とか、「今こういうのが流行ってるよ」という声を周囲の人たちにもらいながら、コミュニケーションの中で「あ、それワクワクするかも」と思えたものを形にしている感じです。
実際にアイテムの試着もします。特にショーツなんかは、必ず身に着けてみて、「もうちょっとウエストの位置高いほうがいいかも」とか、「ヒップのライン、もう少し削っても可愛いかも」とか。自分で確認しながら、ちょっとずつ微調整しながら作り上げていきます。でも難しいのが、買ってくださるかたの声も大事にしたいし、かといって、それに寄りすぎると、なんだか“自分らしさ”がなくなってしまう気もして。中途半端になってしまうというか……そういうジレンマは正直いつもある。やっぱり、売れなきゃ意味がないというビジネス的な現実もあるけど、それだけじゃない部分も大事にしたいし。そこは、毎回せめぎ合いですね。本当に難しい。だからこそ、この仕事はおもしろいのかもしれませんね。


アカデミー賞の受賞作品から感じた、現代女性のリアル
━━長谷川さんにとって“自愛”とはどういうものですか?
“自愛”とは、自分を愛することだけど、私はそれは必ず他者への愛にも繋がっていくものだと思っています。自分自身を愛すと、自然とまわりの人のことも大切にしたくなるし、優しくなれる。だから、まずは自分を大事にすることから始めて、そこから愛がどんどん円を描くように広がっていく。その愛のサークルみたいなものが、社会の中で少しずつ広がっていくといいなと思いますね。
でも、それはすごく難しいことなのもわかっています。よく、「自分を愛せない人は人も愛せない」とか言うけど、現実はそんなに簡単じゃない。毎日が忙しかったり、心の余裕がなかったり、いろんなストレスや環境のなかで、そもそも“自分を大切にする”というところに至れないこともたくさんあると思う。
さらに今を生きている女性の場合、社会の中で“こうあるべき”みたいなプレッシャーがすごく多いでしょう。そういう息苦しさとか、無意識で背負っている役割とかが、自分自身を愛することへのブロックになってしまっているんじゃないかなと。だからこそ、もっと“自愛”という言葉の中にある本質──どうして人は自分を後回しにしてしまうのか、どうしたら優しさを自分に向けられるようになるのか──。
そこをもう一度掘り下げていきたいと思っています。「ESS by」を通して、そのヒントみたいなものを、静かにでも届けられたらいいなと。
━━今年のアカデミー賞の受賞結果からも何か感じることがあったとか。
私、映画を観るのが好きで、アカデミー賞でノミネートされた映画は毎年ほぼ全部チェックしています。今年もたくさん観たのですが、女性が主役の映画もいくつかありました。過去の女性を描いた映画とは少し違っていて、単なる“女性を描いた映画”というよりも、共通して“怒り”みたいなものを感じて。
もちろん、喜びとか希望も描かれているけど、その奥底には、女性たちの怒りとか、“そろそろいい加減にしなさいよ”みたいなメッセージがあるような気がして。ああ、これは私自身も感じていたことだし、世の中の空気としても女性たちがもう黙ってないぞという、そういう声が映画を通しても表れてきているのかなと思いました。
怒りと聞くとネガティブに聞こえるかもしれないけど、私はそうは思っていなくて。むしろ、ちゃんとその怒りに光を当ててあげることが必要だと思うんです。そこを掘り下げずに、“多様性は美しいよね”みたいな、きれいな言葉だけで終わらせてしまうのはもったいない。もっとその手前にある葛藤や痛みを見つめることが、本当の意味での“違いを尊重する”ことなんじゃないかなと思います。

好調なメンタルバランスをキープして、いつだってワクワクしていたい!
━━俳優業とブランドビジネス、それぞれのおもしろさを教えてください。
俳優業とブランドビジネスは、全然違います。同じクリエイティブだけど、でも俳優業はゼロからじゃないんですよね。すでに役があり、セリフもあります。その中で動いていくから、自分ではどうにもならない部分もある。例えば、自分はこう映りたいと思っても、カメラ位置によっては自分のプランどおりに映らないし、撮った映像がどう編集されるかも監督次第。自分ひとりじゃコントロールできないことがいっぱいあります。でも、その中に参加することで、私ではない役柄の心情を探ることができる。それがすごくおもしろいし、すごく好き。
ブランドビジネスのほうは、完全に“自分”なんですよ。自分で決めて、自分で責任を取る。決断も全部、自分。これはけっこう重い。だからこそやりがいがあるというか、自分の輪郭がはっきりしていく感じがしています。これからはブランドの経営にも携わることになったので、全然違うフェーズに入って来たなと。これまでやってなかったことに今、チャレンジしていて、しんどいこともあるけど、ワクワク感のほうが強いですね!

━━キャリアを重ねてきて、仕事への向き合い方にも変化はありましたか?
20代は、もう本当にひたすら、いくらでも仕事できたんですよ。とにかく経験を積みたかったし、そういう時期だったなと思います。そして、30代は私の場合、子供を産んで子育てのフェーズに入っていて、それで今、40代。もちろんまだまだ仕事したいです。したいですけど、“楽しいことだけやりたい”って思うようになってきました。自分が“ワクワク”することをちゃんと選んでやっていきたいと。
自分にとって精神的に疲れる現場のダメージが、若い頃よりも明らかに大きくなってきて。20代の時は“はい、次!”って切り替えられたんですけど、今は残る。あ、これ、あんまり無理してやらないほうがいいなと。だから、ちゃんと“楽しめること”を選んだほうがいいなと思うようになりました。私自身が現場を楽しめたら、それはまわりにも伝わるし、「長谷川さんと仕事できて楽しかった」って思ってもらえたら、それがまた次に繋がっていくと思う。なんか、そのほうが健全じゃないかなって。無理して頑張りすぎるよりも、楽しんでる人と一緒に仕事したほうが、絶対空気も良くなるし、続いていくと思うんですよね。
━━メンタルバランスを整えるために心がけていることは?
内省すること。内省は、本当にやってよかったです。いや、もう絶対やるべき。誰にとっても必要だと思います。私、去年の年末か今年の年始ぐらいに、“自分史”みたいなものを書きました。今に至るまで、自分の記憶に残っていることを全部、思い出して。それを“可視化”するんです。すると、“あ、自分ってちゃんと頑張ってきたじゃん”とか、“大丈夫かも”って、思えたりする。不安になっている時は、つい見えなくなっちゃうけど、書き出して目に見えるようにすると、少し気持ちが落ち着くようになりました。
去年とか、すごく不安になった時期がありました。理由のない不安。ほんとに何が不安かもわからないのに、結構深いところまですごく落ちちゃって。でも結局、自分を一番助けてくれたのは、自分自身でした。“自分史”を書いて、ちゃんと自分を見つめてあげること。それと瞑想。たぶんこの2つが、私にはすごく効きましたね。
━━「ESS by」でもワクワクするプランをお考えだとか?
話したいことがいっぱいありすぎて、どこから話せばいいのかな(笑)。もちろん、下着は引き続き大切なアイテムですが、もう少し広げて、お洋服だったり、家の中で使うものだったり…うん、その先のことも実は考えていて。でもそこはちょっとまだ先すぎるから、今はあんまり大きな声では言えないけど(笑)。
イメージとしては、今までのブランドのホームページは“下着のブランドのサイト”だったんですが、それを“おもちゃ箱”みたいな場所にしたいんです。“モノ”じゃなくても、メディアが入ってもいいし、情報でもいいし、とにかくいろんなものが詰まってて、開けた人がちょっとワクワクするような、そんな箱にしたい。将来的には、“私たちが作ったものを売ります”という一方通行の関係じゃなくて、“あなたも何か入れてみて”みたいな、横の関係が生まれる場所にできたらいいなと思っています。
女性としての本能を刺激する、赤いリップとネイル
赤は私にとってはすごく特別な色。元気になって、女性性を揺さぶられる瞬間をくれるもの。自分が“いいな”って思った赤には、自然と手が伸びますね。おもしろいのは、同じ“赤”でもマットなのか、ツヤがあるのか、青みが強いのか、黄みがあるのか、それだけで雰囲気がまったく違ってくること。そこもすごく興味深い。“なんか違う”って、脳よりも先に感覚でわかることがあるんです。この赤のリップ、好きだったはずなのに今日はなんか違うかも……とか。理由はうまく説明できないけど、なんか違う。それって理屈よりも先に、自分の本能が反応している感じがします。

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