柴咲コウ
しばさきこう●2001年に映画『GO』で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞。以降、『世界の中心で、愛をさけぶ』『容疑者Xの献身』『信長協奏曲』などで確かな演技力を発揮し、幅広い役柄を自在に演じてきた。音楽活動でも「月のしずく」「かたちあるもの」などのヒット曲を持ち、表現者として多彩な才能を発揮。また、2020年ドラマ『35歳の少女』や2022年NHK大河『鎌倉殿の13人』などに出演。2025年はドラマ『スキャンダルイブ』で主演を務め、主題歌「Awakening(feat. LITTLE)」も担当。同年11月3日からは全国17都市をめぐるライブツアーを開催。俳優・歌手・レトロワグラース代表として幅広く活躍している。
映画の出演が家族との関係を見直す気づきに
━━主演映画『兄を持ち運べるサイズに』が11月28日(金)に公開されます。疎遠になっていた兄の訃報を受けた妹が、「兄の終い」に奔走する中で、家族との関係を見直していく物語です。作家・村井理子氏の体験談をもとにしたノンフィクションエッセイの映画化ですが、理子役を演じていかがでしたか。
私の中ではあまり“演じた”という感覚がないんです。理子さんは夫と2人の息子がいて、お弁当を作ったり、家族の面倒をみたりしながら作家としての仕事もきちんして、たくさんの役割をこなしているんですね。でも、変な甘えがないというか、人に寄りかかりすぎない。そういうところが自分の中にもあるなと感じたんです。
私は家族と暮らしていないので、そこは違うんですけれど、私も日々マルチタスクをこなしていて。お芝居をやっている時や、歌を歌っている時、自分の会社の社長として会議に出ている時もある(笑)。そして忙しくても日々の生活をおろそかにしたくないという思いもあるんですね。そこが理子さんと共通しているので、すごく自然にできたというか。それは映像にも表れているんじゃないかと思います。
━━確かに普段スクリーンで見る姿とはちょっと違う“素”の柴咲さんを垣間見たような気がします。また、作品を見て「家族」というものの難しさや温かさを痛感しましたが、ご自身はこの作品に出て、「家族」についてあらためてお考えになったことはありますか。
家族って近いからこそ、エゴのぶつかり合いになってしまいますよね。親に対しても「これ、やったほうがいいって言っていたのに、なんでやっていないの!?」なんて、つい言葉もきつくなる(笑)。でも、それが相手を思いやってのことだったとしても、相手にとってはただの押しつけにしか感じない時もあると、最近気づきました。
親も年を取り、自分も年齢を重ねるわけで、変わらざるをえない部分も出てきます。相手に要求ばかりしていたらお互い苦しいだけだから広い心で受け入れることが大事だなって。親との関係を見つめ直す気づきをこの映画からもらったなと思います。
━━それにしてもオダギリジョーさん演じるお兄さんが本当にいい加減でひどくて。とても受け入れられないかもしれません(笑)。
自然環境への思いが結集した北海道暮らし
━━10代でデビューして以来、俳優として、またアーティストとしても第一線で走り続けてきた柴咲さんですが、これまでのキャリアで悩んだり、行き詰ったりしたことはありますか。
━━若いころから周囲に流されずに自分のペースを調整できていたところに意志の強さを感じます。しっかりリフレッシュできていたから、浮き沈みがあってもリカバーされたんでしょうね。
━━北海道の別宅はYouTubeでも公開されていますが、自然と調和した暮らしぶり、素敵です! 家の建築資材は国産のものを使ったり、生活スタイルもミツロウラップを使ったりと、サステナビリティにこだわっているのが伝わってきます。
━━サステナビリティにこだわりすぎて苦しくなったりすることはないですか。
ブランドを立ち上げて課題にチャレンジしたかった
━━2018年には自身がディレクションを手がけるサステナビューティーファッションブランド「MES VACANCES」を立ち上げました。「旅するように暮らす」をブランドコンセプトに掲げ、心・体・環境の調和を大切に、ものづくりや情報発信を通じて持続可能な調和社会の実現を目ざしています。さらに、原料や素材、生産背景にも徹底的にこだわり、購入することで社会貢献につながるアイテムを展開しています。どんな思いがこめられているのでしょうか。
そう考えた時、「衣・食・住」の生産背景を見て見ぬふりをすることもできるけれど、めぐりめぐって自分に返ってくると思ったら、やっぱり見過ごせないなって。それで自分たちでブランドを立ち上げて、実際にどんな課題があるのか体験してみようと思いました。そしてその課題を解決するために、今できる最大限の努力ができたとしたら、それって社会にとってもいいことだし、自分にとっても最高の生き方だと思ったんですね。
もちろんそう簡単にはいかないから、次々と問題が出てきて、解決法を模索し続ける状態ですけれど、頭を抱え込むのは、「こうしたらイケるんじゃない?」ってポジティブにトライしていくことがすごく楽しくてわくわくします。
━━これもまたトライ&エラーの繰り返しですね。素晴らしい勇気と行動力です!
━━俳優、アーティスト、企業家とさまざまな顔をもち、それぞれに真摯に向き合っている柴咲さんですが、最後に「この先、こんなふうに生きられたらいいな」「こんな人になっていたいな」というイメージがあったら教えてください。
━━柴咲コウさんの好きな言葉、座右の銘を教えてください。
常識って時代時代で変わるもので、今までありえなかったことが2年後には常識になっているかもしれない。AIなんかもそうですよね。今はまだ懐疑的な部分もあるけれど、これからはAIとの付き合い方もどんどん変わってきて、あっという間にAIを使って何かをするのが当然の時代になると思う。だから「常識を疑え」というのは、ボジティブな意味で常々思っています。
大きな女性の顔が素敵な現代アート
最近、家のインテリアががらりと変わったんですね。以前は重厚な感じだったのが、ミックスカルチャーというか、アジア系の雑然とした雰囲気のものに惹かれるようになって。最近買った大きな現代アートもそのひとつ。海外のアーティスト作品で、女性の大きな顔があって、ちょうど目のところにピンクのネオンがびよ~んってついているんです。これまで人の顔の作品って飾ったことがなかったんですけれど、この作品の女性はある意味、自分の分身のように感じていて、見るたびにすごく力をもらっています
━━それでは最後に、マリソル読者へメッセージをお願いします。
40歳って「不惑」とか言うけれどウソですよね(笑)。一番悩み多き年ごろじゃないかと思います。だから「頑張っているね!」って、自分自身をほめてあげてください。1日の終わりに、「よくやっているね!」「偉いね!」って、毎日、自分に声をかけよう!
取材・文/佐藤裕美 編集/MIYUKI KIKUCHI
カタログ最新号
特集を見る