私は、12月半ばから急に相次いだ家族の体調悪化、自分自身もインフルエンザが長引くなどさんざんな日々が続き、年内にやりたかったことの10分の1もできない何とも気の滅入る年末を過ごしていました。
ブログももっと書きたいことがあったのですが、やっと体調が戻ってきたので、気を取り直して今年のマイベスト3冊を、2025年に出版された本縛りでご紹介します(写真クリックでAmazonのページに飛びます)。
渡邉康太郎「生きるための表現手引き」
自分の感性に全く自信がなく、「表現」や「アート」といった言葉に勝手に劣等感を抱きがちな私なのですが、この本は実に平易に温かい言葉でその劣等感を取り払った上で、順序立てて表現技法そのものの解説とそれを続けるための心の持ち方についてまでを教えてくれました。
この一冊を読んだだけで、アート論や表現論の講義を一年間受けたくらいの知見を得た気分です。
私たちはつい、経済活動など「生きのびる」ための行動のみを重視しがちですが、気づけばそれだけに一生の大半を費やしていたとすれば、何ともさみしい。社会的な価値のあるなしではなく、他人にとっては取るに足らないかもしれないけれど、「生きる」ために自分にとってはどうしようもなく気になるものごとこそを大切にしていきたいと思いました。(既に感性が摩耗している私にとっては、社会的な価値から切り離して物事に価値を見いだすこと自体が、なかなか難儀しそうではあるのですが……)
水村美苗「無駄にしたくなかった話」
非常に寡作な作家であるため、水村さんの文章に触れられるだけで嬉しく、舐めるように読みました。
フランスやアメリカでのきらびやかな文化的交流や、漱石に関する講演、加藤周一氏の追憶など、華々しい記録の中に、身体的不調、老い、身内の不幸などどうしようもない現実が垣間見えながらも、全体としてとても美しく、著者の教養に裏付けられた格調高い一冊でした。
こういう本に触れると、自分も少しでも気高くありたいという気持ちになります。
朝井リョウ「イン・ザ・メガチャーチ」
推し活、ポリコレ、陰謀論……、現代日本の当たり前の風景としてここにあるものに内在する歪みを切り取って、目の前に突きつけてくれた作品でした。
とはいえ気軽に読めるので、未読の方がいらっしゃったら、ぜひ読んでいただきたいです。2025年の日本の現実が、自分の目とは違う角度で見えてくるかもしれません。
2026年も素敵な本にたくさん出会えますように!


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