そう今夜も。
ママ「ケビちゃん、今日はね、ママのスペシャルメニューはカニよ!」
ケビ子 「キャー!ママ!カニとかってピースしないで!食べるの面倒だから心の底からいらないわ!」
ママ「んまー!じゃ、かに玉は?北海道産のカニ缶使うわよ?」
ケビ子 「北海道産か〜、ああ、思い出した。釧路の男……」
ケビ子 「釧路の男は、先輩と飲みに行った時になぜか同席してて、知り合ったのよ。その先輩は海外駐在してた時に一緒に現地で苦労した仲間で、かなりのイケメンで博学。憧れる気持ちを持ってたんだけど、ほら、ねえ。結婚してたのよ。奥さんお腹がこれで」
腹部が大きいジェスチャーをしながら続けた。
ケビ子 「学生時代の彼女と結婚したんだって。プロポーズは哲学の道って話よ。なにその道!無知の知だっけムチムチだっけ?そういう俺のフィロソフィー的な道かしら。とにかく、そんなわけで淡い気持ちを封じ込めたマジメなわたしってわけ。釧路の男はその先輩の大学の同級生だったのよ。西の横綱的な大学出身の二人でね、お酒も進んだらジョークのボケのレベルがアカデミックでつっこむのに神経を使うのなんの。まあ、そこまでネタを拾う必要もないんだけど、下っ端根性というか、雑草魂というか、ボケは拾わないとならないって思っちゃってるから、酔うに酔えない集中力で会話を聞いたの。もう寄り目よ!」
ママ「ケビちゃん、今と変わらないわね」
ママが微笑む。
ケビ子 「わかってくれるのはママだけよ~。それでね、その後、お開き近くになってね、なぜか連絡先を交換したの。ほんとになぜかよ。当時はまだガラケーのメルアドでね。別にいらないけど、と思いながら先輩に恥をかかせちゃいけないから、素直に従ったってわけ。そしたらその日以降、時々その男性からメールが来たの。一行、二行の連絡。ボケもオチもない代わりに必ず結び言葉があってね」
ママ「結び言葉?山、川、豊!みたいな感じかしら?」
ケビ子 「ちょ、ママ!山、川、豊!アメリカ橋!まで言ってよ~!豊の代表作じゃん!」
ママ「ごめんごめん!それでどういう結び言葉だったの?」
ケビ子 「そうそう、例えば『おはようございます、今週も頑張りましょう。釧路よ!』とか『来週あたり、また飲みませんか?都合の良い日を教えてください。釧路よ!』とか。こちらが都合の良い日を伝えると『了解です。では○日に。釧路よ!』と、まあこんな具合」
ママ「へえ……」
ケビ子 「この毎度結びに書いてある「釧路よ!」についてどう考えてもオチが見えなかったから、先輩にあの方は釧路出身か聞いたら違うって言うの。
釧路よ……
なんかもうボケを拾えない自分がもどかしいながら「釧路よ!」ってどういう意味ですか?と無粋だなと思いながら相手に質問しても、その方は教えてくれなくて。『釧路よ、は釧路よです。釧路よ!』なんてはぐらかされて終わり」
ママ 「なんか匂うわね」
ケビ子「事件性はないわよ!ところがある日、意味が通じないあまりにつまらなくなったのか結びの言葉に変化球を投げてきたの。
『おはようございます。今日は少し暑いですけど、がんばりましょう!夜露死苦!』
これで理解したわ。『釧路よ! → くしろよ! → よろしく! 』のカ行変格活用だったってわけ」
ママ「アカデミックね~!北川景子みたいな感じね!」
ケビ子「ママ、それって…ただカ行が多いだけよね?まあ、いいわ。それで、その人ね、それまで何回か二人で会ったりしてたけど、『釧路よ!』がなんなのか判明した途端、なんとも言えない気分になって『釧路よ!』を楽しめなくなっちゃってね。だんだんぶっきら棒になるこちらのムードにも気がつかず相変わらず送られてくる一、二行のメールに『釧路よ!』が。そのうち返事が面倒になって、だんだんフェードアウトよね」
ママ「釧路までフェードアウトね、それは」
ケビ子「ふつうに『よろしく』で良かったのに。飲み干せない話よね」
43歳で(やっと)結婚。
仕事で培ったフットワークと屁理屈と知恵をフル活用してゴールイン。奴さん(夫)は夢見る世話焼きロマンチスト。Instagram(@kbandkbandkb)