物事には始まりと終わりがある。 だからこそ〝今〞にすべてを注ぐ
過去にはスポットの当たらない“どん底”を経験。そこから這い上がり、自ら道を切り開いてきた、紅ゆずるは“逆転のスター”だ。今でも語り継がれているのが、入団7年目で挑んだ『ANNA KARENINA(アンナ・カレーニナ)』。初めての大役を前に「これがダメなら退団する」という決意と覚悟を胸にすべてを注いだ芝居は高く評価され、それが彼女の役者人生を変えた。
「冬の時代を経験していなければ今の私はいないと断言できる。そこで培った覚悟はトップスターになった今も変わらず私の中に存在しているんです」
常に高い温度で作品と向き合い続ける役者だ。いい舞台を作るために、稽古場で思いきり恥をかきながら全力でぶつかる、役をつかむまでとことんもがく。そのスタイルはずっと変わらない。役作りのため、日々、いろんなものに触れることを意識している彼女だが、最近は古事記に興味があるそうだ。
「もともと神社や仏閣が好きで読み始めたのですが、最近はその延長で、日課の早朝ウォーキング中に神社やお寺をめぐるように。そこで手を合わせる時間は、今の自分がどうありたいのか、何を求めているのか、自分自身との対話にもつながる。自分と向き合い見つめ直し、まっさらな気持ちで一日をスタートさせることができるんです」
トップスターという重責を担いながら自分と向き合う日々。就任から約1年、今の心境を尋ねるとこんな答えが。
「トップに就任してからは改めて残りの宝塚人生を考えるようになりました。宝塚での大切な時間を思いきり苦しみ思いきり楽しもうと。同時に、自分は何を残せるのか、次の時代のことを考えるようにも。以前は前だけ見て走っていたけれど、今は前と後ろを見ながら進んでいる、そんな毎日なんです」
後輩に残したいのは「個性を大事にしてほしい」という思い。「これだけは自信がある」と胸を張れるものがなかった、ほかの人にはないもの、自分だけの何かを模索しながら歩んできた。そして手に入れた明るく親しみやすいキャラクターを武器に多くの人を魅了。紅さんもまた “個性の人”だ。
「下級生には皆が同じではなく自分だけの何かを見つけてほしい。だからこそ、ふだんから自由な空気の中で組の皆の意見には耳を傾けるようにしています。迷った時は多数決。星組は常に挙手制ですから。そんなトップスターは私だけかもしれませんけどね(笑)」
Profile
くれない・ゆずる●2002年、星組に配属。舞台人としての実力はもちろん、自称「宝塚の中では人間界に近い」親しみやすいキャラクターも魅力。宝塚の枠を超えてバラエティ番組やトーク番組での活躍も。冬の時代を乗り越え、経験と実力を積み、2016年、星組トップスターに就任