それと新鮮だったのは、いい年をした、普通のサラリーマンの話だったこと。思い起こせば25年前、私が初めてサンフランシスコに行ったとき、ひげ面のおっさんたちが手をつないで歩いているのを見てびっくりしたもんです。だって当時はボーイズラブといったら、『風と木の詩』みたいな美しい少年たちの物語だと思っていたから。でも、それこそ幻想で、恋に年齢も性別も関係ない!おっさんとおっさんも恋に落ちるんです。
というわけで、今週紹介する『君恋 社会人編』は、社会人のボーイズラブをテーマに、10人のマンガ家が短編を書き下ろしたアンソロジー。ほのぼのした純愛あり、ハードなラブシーンありと内容はさまざまですが、その中でパクチー先輩がキュ~ンときたのは、日高ショーコ先生の『Magic Hour』。
主人公の佐倉と同僚の有村は、同期入社のサラリーマン。同じ部署で働き、プライベートでも一緒に飲んだり、登山したり。口には出さないものの、お互いに強く惹かれ合う関係。でも有村の死によって、二人のあやふやな関係は、突然、終わりを告げます。
泣いたり、わめいたり、騒いだり……そんな大袈裟な場面はまったくなく、淡々と話は進んでいくのだけれど、それがかえって胸に響くというか。男同士だからとか関係なく、そもそも人を好きになる気持ちって、とってもプライベートで密やかなもので、内に秘めた思いの深さは、当人にしかわからないものだと気づかせてくれる作品でした。
それにしても「スーツ×スーツ」はやっぱり萌えます。これから会社で仲良さそうにしている男性社員を見て、いろいろ妄想を膨らませてしまいそうな自分が怖い。『君恋 学生編』も同時発売になっているらしいけれど、断然、社会人編がセクシーだと思う! あっ、それと急に濃厚ベッドシーンに突入する作品もあるので、電車とかで読むと恥ずかしいかも(笑)。おうちでこっそり読むことをおすすめします。
それでは試し読み、どうぞ~!
漫画大好きライター。女性誌や男性誌でインタビューやカルチャー企画を担当。手塚治虫の「W3」でマンガ愛に目覚める。「パクチーが持つ効能のように、みなさんの体内の毒素を排出してくれるような漫画を紹介していきたいと思います」