今の私を築き上げてくれた、 愛あるダメ出しと叱咤激励
初の宝塚体験は小学6年生。テレビで観た『ベルサイユのばら』に衝撃を受けたその日から、彼女の照準は宝塚の舞台に定まったまま。新人公演の主演を5回務め、本公演でも早々に大役を演じ、スター街道を突き進んできた雪組の彩風咲奈さん。今までも幅広い役を演じてきた彼女だが、最近はより貫禄のある“大人の男”が似合うように。
「昨年から今年にかけて『ファントム』で、父親役のキャリエールを務めさせていただきました。その経験は私の中でとても大きくて。宝塚でも多くのお客さまが楽しみにしている演目であり、皆さんの期待値もとても高く、銀橋(※) の名場面ではお客さまの“来るぞ!”という気持ちがこちらにも伝わってきたほど。私にとっては今までにないほどプレッシャーを感じた作品でもありました。同時に、自分と向き合い戦う毎日だったからこそ、そこに打ち勝つ力を手に入れた自分を感じているんです」
そして「それまで風に揺らいでいたものが、しっかりと地に根ざし、揺らがなくなった」と言葉を続ける。
「よく言えば自由、悪く言えば行き当たりばったり。その日の自分のコンディションや気持ち、“今日はこう演じたい”を芝居に反映させてしまうことが今まではよくありました。でもそれは時に役の芯からはずれてしまい、自己満足で終わってしまうことも。気持ちで演じるのはもちろん大切なことだけれど、積み上げてきた土台がないと、役として自由に生きることはできない。自分と向き合う中で大切なことに気づかされ、役作りのアプローチも変わりました」
早くから注目を集めてきた彼女がよく口にするのが「私一人の力ではない。多くの方々に支えられて今の自分がいる」という言葉だ。大役を目前に弱気になるたび「だったら私が代わりに演じるよ」とハッパをかけてくれた同期、叱咤激励してくれた上級生。男役として歩み始めたばかりの彩風さんを厳しく鍛え上げてくれた元雪組トップスターの水夏希さんは今も観劇のたびに“愛あるダメ出し”を届けてくれるそう。
「実は、行き当たりばったりの役作りを最初に指摘してくださったのも水さんなんです。日によって、泣ける時とそうじゃない時がある。気持ちがそこまで届かなかった理由を、どうすべきなのかを、ちゃんと考えなさいと。水さんが観客席に座る日は今も一番緊張します(笑)。同時に、本当にありがたいことだと心から感謝しているんです」
舞台で大きな羽根を背負う今も、進化することを忘れない。それは、彼女の輝きが増し続けるひとつの理由。「今までは“やってみよう!”とジャンプしていたけれど、それじゃあ届かない場所があることを知り、着実に階段を一歩一歩上がりながら目ざすようになりました。その一歩をていねいに大切にしながら、これからも成長し続ける自分でありたいと思っています」
編集部注※銀橋(ぎんきょう)…宝塚大劇場、東京宝塚劇場の舞台前面、オーケストラと客席の間にある花道のような通路のこと
【この記事はMarisol 2019年10月号より掲載されたものです】
Profile
あやかぜ・さきな●2007年、宝塚歌劇団に入団。雪組に配属。抜群のスタイル、幅広い役を演じる実力、舞台上で放つ圧倒的な存在感を武器に早くから注目を集めてきた男役スター。最近は大人の男の貫禄を備え、その輝きに磨きをかけるばかり
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