2015年に国連で採択されたSDGs。貧困やジェンダーギャップ、海や陸の豊かさを守る環境保全など「持続可能な社会を実現するための17のゴール」が 掲げられている。この流れを受け、ファッション界でもサステナブルを意識した取り組みが目立つように。その現状をファッションジャーナリストの藤岡篤子氏に語ってもらった。
ふじおか・あつこ● ファッションジャーナリスト。fロジェクト代表。新聞からファッション誌まで幅広いメディアに執筆。神戸芸術工科大学客員教授
ファッションは時代を敏感に映し出す鏡でもある。ジェンダーレスやダイ バーシティの流れには、即座にプラスサイズやトランスジェンダーのモデル、 あるいは、ヒジャブをかぶったイスラム女性や難民キャンプ出身のモデルが ランウェイに登場し、多様性への素早い対応を見せた。そして今、ショー会 場を彩るのは、リサイクルされた圧縮段ボールのベンチシートや海洋廃棄物 のプラスチックから創作されたアート作品、追跡可能なハッシュタグやQRコ ードをつけた樹木などである。
温暖化や海洋汚染など地球環境に対する危機意識は、私たちにとって、長らく大きな課題であった。手探り状態が続く中、その長い導火線に火をつけ たのは昨年9月23日、国連気候行動サミットで、スウェーデンの高校生環境 活動家であるグレタ・トゥンベリが行った演説であった。くしくもミラノコ レクションの最終日でもあり、翌日のパリコレクションの初日には、グッチ やサンローランを擁するケリンググループが、グループ全体で完全なカーボンニュートラル(CO2のオフセット)を最優先課題にして、削減を目ざすとの 声明を出したのは偶然ではないだろう。
コレクションでも、デザイナーたちのサステナブルへの意識は高く、さま ざまなアイテムや演出にメッセージが忍ばされた。なかでもショー会場にい たるまでISO認証を取得したグッチは、その代表的なブランドだ。招待状は簡 潔に名刺大のリサイクル紙を使用、コレクションの製作から、モデルや運送、 招待客にいたるまで、ショー開催にかかわるすべてのCO2発生をカウントし、 オフセット(相殺)するために、ミラノ市内に2000本の植樹を行った。
ディオールでは、ムッシュ・ディオールが愛した英国式庭園のイメージを 再現するため多種多様な162本の樹木が会場を飾った。すべての木々に追跡 可能なQRコードをつけ、ショー終了後は、しかるべき都市整備計画地へと植樹されるよう、大自然の命をつなげるプロジェクトを組んだ。
ほかにも多くの若いデザイナーたちが意欲的に、「サステナブル」に踏み 込んでいる。クレージュはブランドアイコンであるビニールをエコビニール へと技術革新し、アマゾンで絶滅を危惧されていた巨大魚ピラルクーを救う基金を立ち上げた。海洋廃棄プラスチックの脅威を、会場作りで訴えたミラノのマルニ、廃材として捨てられていた革やウールの切れ端を、最先端の技術で圧縮して新素材として蘇らせ、ブルゾンやトートバッグを作ったサンロ ーランやマックスマーラ。
ラグジュアリーとサステナブル。ムダを承知の洗練の連続の上に築かれた 贅沢と持続可能な削ぎ落とされた簡潔さ。この相反する両者の間には、問題は山積みだ。だが、サステナブルへと大きく舵を切ったラグジュアリーファ ッションにとって、今、踏み出した一歩は、まだ入口にすぎないが、かけが えのない明日へと向かう希望の第一歩なのである。
■GUCCI
原材料から環境に配慮。ショーもカーボンニュートラル
メタルフリーレザーや再生カシミア、オーガニック繊維など持続可能な方法で原材料を調達するほか、 廃棄物を再利用する循環型経済プロジェクトを推進しているグッチ。 生物多様性の保護地区の保全と回復も支援している。2020年春夏コレクションではサステナブルイベ ント認証を取得し、ショー開催によるCO2排出量をミラノに2000本植 樹するなどして相殺するカーボン オフセットに成功した。
■TIFFANY & CO.
売上利益は100%寄付。 野生動物保護を支援
自然との力強いつながりを大切にしているティファニーは、売上利益の100%が 野生動物保護ネットワークに寄付される 「ティファニー セーブ ザ ワイルドコレクション」を2017年から発表している。 K18ローズゴールドとスターリングシルバーで作られた象やライオン、サイの立体的なチャームで、これまで予定を上回る 500万ドル以上を寄付している。
■FENDI
持続可能な方法で生産されたコットンを用いたカプセルコレクション
クチュールコレクションでアップ サイクル素材を採用したり、ホリデーシーズンのディスプレイで再 利用可能なポリエチレンを使用したりとサステナビリティに積極的なフェンディ。「FF GREEN」カプセ ルコレクションでは、非営利法人 BCIコットンによる、持続可能な 方法で生産されたコットンを用いたジャカード素材を採用している。
■PRADA
将来のナイロン生産に向け、アイコンバッグを再生ナイロン繊維で再現
プラダは海から回収されたプラスチック廃棄物などを再利用した再生ナイロン繊維ECONYL®を用いたプラダ Re-Nylonコレクションを発表した。2021年末までにプラダのすべてのバージンナイロンをRe-Nylonに変えることを目標に掲げ、 Re- Nylonバッグの売り上げの一部はUNESCOと提携し海洋サステナビリティに関する教育プロジェクトに寄付する。
■STELLA McCARTNEY
ブランド設立当初から サステナブルを追求
2001年の設立以来、レザーやファーをいっさい使用せず、代替素材やオーガニック素材、再生資源の活用などサステナブルブランドの代表格といえるステラマッカートニー。2018年に発表したループスニーカーは、アッパーとソールをテクニカルに設計されたフックと特別なステッチで接合している。 接着剤不使用のため、各パーツを分解できるのでリサイクルが可能だ。
■DIOR
ショーで使用するだけでなく未来の風景を作る木々に
原産地の異なる約70種約160本の木々をショーの舞台装飾にしたディオール。園地栽培に取り組むアーティスト集団、アトリエ コロコとのコラボレーションで、使用された木々はショーの終了後、都市整備計画地などに植林され、未来の自然を守る存在となる。木に下げられたタグはQRコードつきで、種類や原産地、再植地がわかる仕組みに。
■MARNI
海洋廃棄物を再利用した会場装飾。 環境問題へ警鐘を鳴らす
2020春夏はサステナブルを強く意識したコレクションを発表したマルニ。メンズのショーで使用した海洋廃棄物の ペットボトルを、アーティストのジュ ディス・ホプフがヤシの葉に再利用して会場装飾にした。素材もオーガニッ クコットンを使用するほか、デッドストックとなっていた過去の生地を再利用したルックも登場し、力強いメッセージを発信。
■3.1 Phillip Lim
天然繊維を使用し、使用後はきちんとした形で地球に戻す
「サステナブルとは完璧ではなくバランス」とい う哲学をもつ3.1 フィリップ リム。2019年秋からはエキゾチックレザーとファーを禁止にし、レザーはミートトレードの副産物として出るものを使用している。2020春夏から植物タンニンでなめす クロムフリーレザーを採用し、土壌汚染を防ぐとともに環境への配慮へとつないでいる。
■Courrège
ブラジルのNPOと協力してサステナブル素材を調査開発
エシカルな素材の調査と開発を行っている クレージュは、アマゾンの川や湖に生息する世界最大の淡水魚ピラルクーのフィッシュスキンをレザーの代替素材として使用。 廃棄されることの多いパイナップルの皮をレザー風に加工した素材や、マッシュルームや海洋藻類との混合で作られ、環境負荷を10分の1に抑えるバイオプラスチックを使用したバッグも発表した。