【BOOK #03】思い通りにはいかないことが増えた今、最短距離ではない人生の味わい方を教えてくれる2冊

マリソル世代におすすめの本を週2冊ペースでご紹介! 今週は、計画どおりにいかないことや先行きが見えないことの続く世の中で、しっかり地に足をつけたくなる2作をピックアップ。

物語を慈しみ、プロセスを楽しむテクニックがここに

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『東京アンティークさんぽ』 カツヤマケイコ 双葉社 1,200円

女性誌を中心にさまざまな媒体で活躍する人気イラストレーターであり、好きが高じて自らもアンティークショップを営む著者が、約3年半かけて東京をはじめ関東・関西、さらにスペイン・バルセロナまで、40カ所以上の骨董市をめぐったリポート。マーケットリストもあり、実用的なガイドブックとしてももちろん役立つが、アンティーク探しのコツや楽しみ方がともに伝わる、読むだけでも楽しい一冊。

 もういいかげん、出かけたい! おしゃべりしたい! できるだけ密を避けつつ行ける場所はないかしら、と思い始めている人も多いはず。そんな時届いたのがこの本。イラストレーターの著者が、各地の骨董市をめぐった体験を紹介するコミックエッセイ。骨董市はまだまだ開催を見合わせているところがほとんどだと思うが、おうちにいながら骨董市めぐり気分を味わえる。

 
 「東京」というタイトルながら、東京の情報は半分程度。地図もないし、写真もほとんどないし、実用ガイドとしてはひと手間、自助努力が必要。でもそこも含めて愛おしくなるのだ、この本を読み終えた時には。骨董市で出会うヘンテコな品々。ヘンテコな歴史。ヘンテコな人々。それは効率とか機能性とか新しさとかとは真逆の、濃ゆい味わいをもつ。思えば規格品が誕生する前は、適当さも、中途半端さも、失敗も、欠陥も、本来愛すべき個性だったのではないか。
  

 会社の業務は今期目標達成できないかもしれないし、家では子供の学校もいつから平常授業になるか見えず、不安やイライラを抱えている人も多いかもしれない。そんな今こそ、思うようにいかない目の前のことを丸ごとおもしろがってしまうのはどうだろう? 本書のゆるやかさを見習って。

 

自分を信じて一歩一歩前へ進む、愚直な足取りのさわやかさ

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『食っちゃ寝て書いて』 小野寺史宜 KADOKAWA 1,700円

作家の横尾成吾はここ数年、鳴かず飛ばず。50歳を前に担当編集者から数カ月越しで書いた作品をボツにされ、担当編集者を変えられたところだった。新たに担当となったその井草菜種も、これまでヒット作を出したことがなくあせっていた。背水の陣に近い状態のふたりは、横尾のもちかけたひとつの物語に勝負をかけて取り組むことに……。日常を送りながら人生の岐路に淡々と挑むふたりの結末は?

 人生は努力や才能だけではうまくいかない。今回の新型コロナウイルス被害を例に出すまでもなく、社会の状況、周囲の環境、運や縁、さまざまなものが重なって今がある。何もかもかじ取りするなんて不可能だし、逆にどんなネガティブな状況でも自分ばかりを責めてはいけないと思う。

 
 とはいえ不運が続けば誰だって自信喪失する。この物語に登場するのは、そんな人生の谷を歩く作家と編集者。作家はいくら頑張って書いても、担当編集者や編集長、そして読者に認められなければ意味がない。一方編集者はいくら頑張ろうとも著者がいいものを書けなければ手も足も出ない。そんな自分だけではどうにもならない人生にもがきつつも、前に進む方法を探り続ける姿は、先行きの見えない、八つ当たりする先さえ見つからない今の世の中に、道しるべのように輝いて見える。

 
 ネタバレになるが、この作品は「作家と編集者、を描いた作品」を描く、作家と編集者の物語。何重にも入れ子になったマトリョーシカのような物語を読んでいると、その一番外側にいる自分が、どの階層に潜り込んで共感しているのか、ふと混乱するのも、本書の楽しい仕掛けのひとつだ。
 

 

吉野ユリ子

吉野ユリ子

よしの・ゆりこ●ライフスタイルジャーナリスト、エディター、ライター。出版社編集部を経てフリー。女性の豊かなライフスタイルをテーマに雑誌やWEB、広告を中心に活動。再び動き出した世の中に出遅れ、外向きの思考を忘れがちなこのごろ。本に叱咤激励してもらっている

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