男はずるくて、女は情けない。そんな気分に生々しくハマってみる
『スーベニア』 しまおまほ 文藝春秋 1,600円
安藤シオは、30代半ばのカメラマン。時々ふらりと連絡をよこす年上の映像カメラマン文雄のことを、いつも心のどこかで待っている。大学時代の友人で妻子のいるイラストレーターの点ちゃんに偶然会い、文雄のことを相談するうちにキスされてしまう。そんなある日、大地震が起き、真っ先に連絡をくれたのは、10年近く前に付き合っていた角田だった……。せつなくてリアルな、大人になりきれない大人の恋愛小説。
STAY HOMEの間、道ならぬ恋のただ中の人たちは、その関係をどう受け入れてきたのだろう。秘めた愛がいっそう熟成するのか、現実をぶつけられて我に返るのか。まあ、そんなことはクリスマスやお正月に経験ずみか。主人公のシオが大好きな41歳の文雄は、得体の知れない男だ。どこで誰と住んでいるのかもわからない。聞けない。信じたさすぎて(こんな日本語ないが)、失いたくなさすぎて、何も聞けないのだ。こんなろくでもない経験、きっと誰にでもあるはずだ。少なくとも友人の経験なら何度か聞いたことがあるはず。シオのまわりもそんな話ばかり。客観的に聞けば明るい未来など絶対ないのに、目の前の甘い時間に逃げてしまう。本当に男はずるくて、女は情けない。でも、ひょっとして相手も本気なら、相手の男こそ、そう思っているかもしれない。だって結末の彼の態度は……と、うっかり私まで往生際悪く、期待してしまっている。みんなが認める相手だけが真実の愛なの? 親が喜ぶ結末じゃなきゃいけないんだっけ? いつか無理やり閉じた物語を、また開いてしまうような、妙にリアルな一冊だ。
ファッション雑誌とともに大人になった人必読! の女子論
『The Young Women's Handbook ~女の子、どう生きる?~』 山内マリコ 光文社 1,400円
雑誌やSNSの素敵なあの子にキリキリしちゃうあなたへ。雑誌『JJ』の連載として、巻頭を飾る特集コピーに対して著者が思うことをつづった想定読者25歳の女子たちと、あのころの自分へのメッセージのようなエッセイ。迷ったり不安になったりした時、お守りのようになる言葉が満載。「モテ」「女っぽさ」「ハイヒール」「インフルエンサー」……。私たちがかつて翻弄されてきた幻想(⁉︎)をひもとく!
Marisolを読む前、皆さんは何を読んでいただろうか? 人それぞれ通過してきた女性誌があって、そこには自分の「ありたい姿」「あるべき姿」があふれていたはず。本書はナイーブでちょっと残念な女子心を描かせたら右に出る者はいない(?)そしてファッション経験豊富な著者が、JJ読者に贈る、姉さんからのメッセージ。そこでは、赤文字ファンにかぎらず、ファッション誌を愛読して育ったすべての女性が、雑誌を通して築いてきた価値観がていねいにひもとかれていく。私たちはあのころ、何のためにおしゃれをし、メイクをしてきたのだろう。何をめざしていたのだろう。最終的な幸せって何だったのだろう? それは今の私たち自身に向けることもできる。「お仕事服」や「ていねいな暮らし」など、日々重ねる選択は、どんな心の声を映しているのだろう? 10年前の自分に祝福され、10年後の自分にも胸を張れる道だろうか? 「会ったことのないシスターたちへ」と書かれたこの本は、もしかしたら未来の自分からのメッセージかもしれない。か弱くて一生懸命で、すぐに何かに振り回されてしまう、自分の中の女の子にこの本を贈ろう。
吉野ユリ子