ー10年まえから韓国で活動させていただいていて、日本と韓国を行ったり来たりしつつの活動だったのですが、韓国ドラマへの出演の間が少し空いていた時にオファーしていただいたんです。メッセージ性が濃い上質な作品で、ぜひ参加したいと思い出演を決めました。
●ウィットに富んだ台詞に笑え痛快で、実話ベースのストーリーには切なく泣かされました。才色兼備の若き天才肌、UDC分析チーム長ソク・ジニを演じる上でどんな準備をされましたか?特に気を配ったところは?
ーメッセージ性が明確にあって、中心にあるテーマはシリアスなんですが、ドラマとして多くの方に観てもらうために、UDCチームのシーンの中で、ちょっとホッとするようなシーンを作っていかないといけないね、という話がよく出ていました。楽しくするためのアイデアを、台本の読み合わせの頃から皆で話し合ったり。私は研究者の役だったので、参考になる文献や映像を見たり、父が研究者なので、連絡して話を聞いたりしました。専門用語の多い外国語のドラマと言うことで、私はまだ韓国語の台本を読むのに時間がかかるので、2019年は台本の読み込みと、作品の全体像をつかむことに日々を費やした感じです。
●ドキュメンタリーで知られる監督が手掛ける初となるドラマでしたね。
ー映像としても、韓国ドラマとしては斬新で、隠れて撮っているような距離感のアングルだったり、ある意味遠くから引いた直接的で分かりやすくない絵だったり、視聴者の皆さんにも新鮮に映ったんじゃないかなと思います。ドキュメンタリーを見ているように気持ちが入りやすかった部分もあったんじゃないかなと思います。それはパク・ジュンウ監督ならではだと思いました。
●錚々たるキャストとの撮影現場の雰囲気はいかがでしたか?
ー雰囲気はとても良くて、ただ、私が驚いたのは結構なアドリブの多さです。本番になって急にやると言うよりは、現場で、今日はこのシーンを撮るけど、台本にはこう書いてあるけど、こう言った方がいいよね、僕がこう言ったら、君はこんな風に応えるよね、こういうシーンを作っちゃおうよ、といった感じでアドリブが生まれ続けてました。韓国ドラマはアドリブが多いとなんとなく噂では聞いていたんですが、以前演じた役ではあまりなかったので、今回初めてそれを目の当たりにしたんです。台本が変わるのは面白くもあり、それに対応することに翻弄されつつたくさんのことを学ばせていただきました。自分が出ていないシーンも、台本を読んでからオンエアを観ているので、びっくりするシーンが多かったです(笑)。この現場を経験してから韓国ドラマを観ると、あれ?これアドリブかなあ、と、アドリブを探すのが楽しくなりました。
●主演のパク・ジニさんは「ジャイアント」「記憶~愛する人へ~」「リターン-真相-」など個人的に好きな女優さんのひとりなのですが、彼女との共演はいかがでしたか?
ー全体を見てお芝居をしてくださる。主役としての凛とした芯が通ったお芝居をしつつも、周りをリードしてくださったり、面倒を見てくださったり、余裕のある方でした。30代になるとなかなか現場で末っ子になることはないけれど、UDCチームの中では私がいちばん年下で、皆さんに可愛がっていただいた感じでした。外国語ということもあって不安もあったので、甘えられる先輩方がたくさんいて、ありがたい現場でしたね。
●「ドクター探偵」に出演していちばん心に残っているのはどんなことですか?どんな学びや収穫がありましたか?
ーアドリブだったり、新しい場面を作るのがいちばん多かったのがポン・テギュさんだったんですが、むやみにするというのではなく、全体を俯瞰で見て、こういうシーンが加わったら、
次のシリアスな部分が生きるんじゃないか、深みや深刻さが伝わるんじゃないかとか。絶対的に全体を見ての判断で面白かったです。毎回、こうきたか!みたいな驚きの連続でした。アドリブはその場での柔軟な対応、洞察力や瞬発力がいることで、それをまじかに学べました。
ーお芝居していなかったら藤井美菜としての人生しか解らないのが、演技によって研究者にも奥さんにも母にもなれ、いろいろな人の人生を経験できるところが醍醐味で、魅力のひとつだなと思っています。もともとの私は保守的でしたが、このお仕事をしていると、どんな経験も仕事に生かせると思えるので、いろいろなことに挑戦して楽しめるんです。興味がなくてもとりあえず経験してみたら、何か新しい感情を味わえるんじゃないかな、そういうワクワクを日常的に味わえるのがいいなと思っています。難しいと感じるのはいつもです(笑)。先輩方が全体を見て作品を面白くしようとされていたので、昔だったら自分の役に重きを置いていましたが、私も全体を見てどうしたらこのシーンが生き生きしたものになるんだろう、と考えるようになりました。バランスだったり、現場に行かないとわからないことも多いので、準備する段階も大変ですが、現場の集中力がすごく必要だなと思います。何が正解かなとギリギリまで考えてますね。
●こんな役をやってみたいというのはありますか?
ー30代になって求められることが変わってきました。母親や妻の役が増えていて、実際の私生活では経験していないことを演じるのも楽しめるようになってきたところです。10代、20代は似たような役が比較的多かったんですが、この勢いでいろいろなジャンル、幅広い役を演じられたらいいですし、そう求められるような存在でありたいです。
●どんな褒め言葉がいちばん嬉しいですか?
ー変わったね、と言われるのが嬉しいです。9歳からこの仕事をさせていただいていて、長くやればやるほど、どう変われるかな、成長できるかなという、自分自身と向き合わなくてはいけない職業だなと思っているんです。でも人間そんなになかなか変われないので、根は変わらないんですけど、自分としては幅を広げたいといつも思っていて。自分は何ができるかな、という
可能性をずっと探しています。韓国語だったり、少しずつ幅は広がってきていて、その作業は俳優である以上ずっとやり続けたいですね。なので、変わったと言っていただけると、日頃何かをコツコツ探していたことに意味があったんだなと思います。
●最近何か大切にしていることはありますか?
ー無になることが大切だなと最近気がつきました。完全に無にはなれないんですけれど、ちょっとずつヨガを初めて、20代の時にはヨガの良さがわからなかったんですが、無心になれる。
脳のデトックスになる気がしてきたんです。その時間が必要なんだなってわかってきて。リセットされるというか。大人になったということなのか(笑)、ストレッチもできて、呼吸も深くできるようになって。歯を食いしばったり、集中すると息も浅くなっていたと思うので、リセットする意味でも大事なんだなと気づきました。
●知られざる特技、また苦手なことはどんなことですか?
ー韓国ではバラエティ番組で何度も披露したことがあるので知られているんですが、特技は一輪車です。日本では流行った時期がありましたが、韓国でできる人がほぼいないので(笑)。苦手なこと、というか、ダンスが上手くなりたいんです。最近”踊ってみた”系も多いですし、一応バレエを習っていたこともあるのですが、向いている方に入らないみたいで(笑)。どうしても上手くならないんですが、踊れる方に憧れの気持ちがあります。
ー「クイーンズ・ギャンビット」に痺れました。改めて、エンターテイメントが、人の人生を輝かせたり、変えるくらいの力があるなあ、夢のある仕事だなと再認識して、新たな目標ができた作品でした。私にとって韓国語を習うきっかけが「冬のソナタ」だったように、人生のその時その時に出会う作品がありますよね。役者として観ても、楽しかったし、美術や映像、脚本だったり全てのバランスが素晴らしく印象的でグッときましたね。韓国のドラマだと、新しい作品ではないんですが「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」を観ています。ちょうど「ドクター探偵」の撮影が終わった頃、韓国で放映されて周りの女子たちがきゃあきゃあ言っていたのですが(笑)、バタバタしていてまだ観ていなかったので。キュンキュンできる大人の女性と年下男子の恋愛物語で、会食が多いところや、ちょっとした仕事の合間にカフェに寄ったりとか、女性が働きにくい所など、韓国の会社員の姿がリアルに描かれていて、韓国に行った気分になれるんです。
●最近ハマっていることはありますか?
ー半身浴をしながら携帯でNetflixのいろいろなコンテンツを観るのがマイブームです。水分も補給しながら。汗もかけるし、ストレッチもできて一石二鳥です!
●よく聴いているアーティストは?
ーOfficial髭男dismさんにハマっています。去年のステイホーム時期、散歩中によく聴いていました。できることが限られたステイホーム時期をいい時間にしたいなと思っていた頃、日本の音楽に向き合え、まっすぐな歌詞が孤独だった心に沁みたんです。大ファンになりました。今思えば宝物のような時間でしたね。とはいえ、ステイホームがずっと続くのは辛いですよね。海外に行くと刺激もたくさん受けますし、語学も頑張れて勉強にもなるので、毎年1度海外に旅することを目標にお仕事を頑張っていたんです。NY、台湾、フランス、と続いてましたが、去年はどこに行こうかなと思っていた矢先に海外に思うように行けなくなってしまって。ちょっと寂しいですね。海外で暮らすと、日本の良さや日本らしさもいまいちど見直すこともできて、発見が多いです。
ーイランイランの香りが好きです。
●韓国語もマスター、台湾でも活躍とグローバルに活動していらっしゃいますが、韓国のドラマやK-POPにハマって韓国語の勉強を始めた読者へのアドバイスがあれば教えてください。
ー私の場合、日本で韓国語をまず勉強して、ある程度話せるようになってから韓国に行ったんですが、現場で撃沈しました(笑)。韓国人の友人を作ってコミュニケーションをとり、会話のやりとりをする中で生きた言葉を学んで身につけていくのが近道かなと思います。
●気分転換法やモチベーションの上げ方はありますか?
ー食べ物が元気をくれます。現場に入ると自分の時間や自由が制限されますが、合間合間で美味しいものさえ食べていれば元気が出ます。いちばん好きな食べ物は明太子です。
●いつも女神のように美しい美菜さんのビューティーティップスを教えてください。
ースキンケアは、自分の肌質や体質をまず理解するところから始めるのが大切だと思います。仕事柄以前から意識はしていましたが、結局、人それぞれ肌質は違うので、やみくもにいろいろ試すより、自分を知って、肌質や髪質に合ったものを使うのがベスト、と、だんだんわかってきたところです。私の場合は乾燥肌なので、こまめに保湿したりパックをしています。基本的なことをていねいに毎日続けるのがいちばん効果がある気がします。続ける強さってあるんだなと。
●好きなブランドやデザイナー、スタイルはありますか?
ーCLANEという大人カジュアルのブランドが好きなので、定期的にチェックしています。ZARAにも行きますし、自分にご褒美的にステラ・マッカートニーにも宝物探しに足を運びます。
●今32歳の美菜さん、10年後のマリソル世代にはどんな自分でありたいですか?
ーマリソルには大人綺麗なイメージがすごくあるので、そんな、女性らしさを失わず、芯の強い女性にずっと憧れていて、そうなれたらいいなと思います。30、31歳の頃は30代の自分に戸惑っていたのですが、32歳になってだいぶしっくりしてきたので、40歳に向けて、今できることを大人ならではの楽しみ方でやって行けたらいいなと思っています。
●韓国でお気に入りの場所があれば教えてください。
ー2019年、「ドクター探偵」の撮影をしていた頃、ソウルの聖水洞(ソンスドン)がホットなエリアとして注目されていたんです。古い工場や倉庫をリノベーションしたカフェができたり。おしゃれな店も増えているでしょうから、またのぞきに行きたいなと思います。