私にとってチェジュ(済州)島は、20年ほどまえに初めて訪れた韓国。女性誌の旅取材で、新羅ホテルに滞在し、日本語の堪能なタクシーの運転手さんにあちこち案内されすっかり魅了された島です。美しい海、石垣、雄大な景色と馬、柑橘ハルラボン、アマダイの干物にアワビのお粥、焼きタチウオ、黒豚、カラフルな五日市、、、。宝物のように美しい島に、その後も旅取材やプライベートで幾度も通い、2019年秋には路線バスと徒歩で一周したことも。2018年、2019年に、ヤン監督が『スープとイデオロギー』のチェジュ島での撮影中に行ったという、地元出身のスタッフのお勧めの巻き貝の鍋の店を監督のSNSで知り、あまりにも気に入って2度足を運んだほど親しみのある島。大阪で暮らしてきた監督のオモニ(母)が18歳の頃に体験した、済州四・三事件のことは、うっすらと聞いたことがあったけれど、いまでは若者の集うカフェやレストランで賑わうエウォルが、まさに最も犠牲の多かった村だったことを知り衝撃でした。人間の憎悪は、いつになったら無くなるのでしょう。愛に満ち、愛に気づく、人の温かさが愛おしくなる作品です。監督も、このタイトルに「思想や価値観が違っても一緒にご飯を食べよう、殺し合わずに共に生きよう」という思いを込めたといいます。「映画が世界に対する理解や人同士の和解に繋がると信じたい、私の作品がポジティブな触媒になることを願っている。」とも。
撮影監督は、加藤孝信さん、編集はベクホ・ジェイジェイさん、音楽監督は、『タクシー運転手 約束は海を越えて』『KCIA 南山の部長たち』などで知られるチョ・ヨンウクさん。チェジュ訛りなど吹き替えや衣装といった細部まで、こだわりの賜物というアニメーションも素晴らしいです。そしてエグゼクティブ・プロデューサーは、出演もしている監督の夫である荒井カオルさん。「兄 かぞくのくに」(ヤン ヨンヒ著・小学館)も是非合わせて読んでみてください。