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「リアルにこだわり、この先もずっとスタイリングしていたい」 スタイリスト 徳原文子さん【私のおしゃれフィロソフィ Vol.6】

人気ブランドを牽引するデザイナーやディレクターにインタビューを重ねてきた連載に、スタイリストが初登場。好きなことを仕事にする女性たちが増えている昨今、彼女たちの生き方やファッション、仕事での努力を取材した。
「リアルにこだわり、この先もずっとスタイリングしていたい」 スタイリスト 徳原文子さん【私のおしゃれフィロソフィ Vol.6】_1_1
マリソルをはじめ、多くの雑誌や広告などでスタイリストとして活躍する傍ら、ブランドのディレクションを務める徳原文子さん。プライベートでは中学2年生の男の子のママでもある超多忙な彼女が、ずっと走り続けるその原動力を探る。
______スタイリストという仕事につくきっかけは?
服が好きになったのは、おしゃれな母の影響が大きかったですね。小さい頃から母が買い物に行く新宿伊勢丹についていっては、着飾ったマネキンを眺めるのが好きでした。学生時代はDCブランドの最盛期。友達とデパートを巡ったり、下北沢やアメ横で古着探しをしたり、4人姉妹の3番目だったことで姉が買ってくる服にも憧れ、少し背伸びしたおしゃれを好んでいた時期もありました。
高校から付属の女子高に入り、大学では博物館学芸員の資格が取れるコースのある被服科に進学。もともと絵を描くことや工作が好きだったので、美術に関わる仕事に就けたらと思っていました。人生の大きな転機が訪れたのは、大学卒業の間際。高校時代からの友人に誘われて始めたアルバイト先で、スタイリストアシスタントを探していると誘ってもらったことで、自分の夢が見つかったと感じました。某メゾンブランドに就職をと思っていた矢先でしたが、母を説得して卒業と同時に当時、雑誌「CanCam」で活躍するスタイリスト大嶋みか氏のアシスタントに。この高校に入ってここでバイトをしていなければ、スタイリストになることはなかったと思うとすごく感慨深いです。
______どんなアシスタント時代でしたか?
被服科を卒業して役に立ったことは少しの素材や縫製がわかることくらいでしたから、スタイリストアシスタントの仕事は一から必死に覚えました。まずアポイント入れ、師匠が選んだものをピックアップ、コーディネートルームに戻って借りてきた服や小物をきれいに広げて、コピーを取り値段を控え、アイロンかけや靴の底張りと目が回るほどやることがいっぱい。そして撮影が終わると借りたものを返却するために夜中まで作業することも多く、その繰り返し。やることが多すぎて辞めたいなんて思う暇もなく2年間必死で働きました。それでも師匠が借りてくる最先端の可愛い服や小物を見るのが楽しみで、お店に並ぶ前に触れることができるのが私にとって最高の喜び! 愉快なアシスタント仲間と支えあえたことも、続けてこられた大きな理由だったと思います。
______念願のスタイリスト デビューして思ったことは?
アシスタントを卒業すると、「CanCam」編集部から仕事をいただきました。「CanCam」では当時、新人はまず読者スナップやメイクページを担当することが多く、人気のモデルさんに着てもらうファッションの企画に声をかけていただいた時は、本当にうれしかったですね。その月によっていただく仕事量も違ったので、とにかく次の仕事がもらえるのか不安でしかなかったですね。ファッションの仕事がない月は「CanCam」だけでなく、赤ちゃん雑誌で新生児のよだれを拭きながら撮影をしたり(笑)。とにかく声をかけていただいた仕事は無我夢中でやりました。

私はものすごく人見知りで、社交的なことがとにかく苦手。この歳になってそんなこといっている場合じゃないのですが(笑)。だから作品を持って自分から売り込みに行くことをしてこなかったのです。そんな私が今日まで仕事を続けてこられたのは、多くの人がつないでくださったから。私の仕事を雑誌で知った編集部の方やフリーのライター、カメラマンの方々が「一緒にやりませんか?」と声をかけてくださり、なんとか今までやってこられたんです。ありがたいですし、感謝しかありません。そんな皆さんとご一緒できている今、とっても楽しくお仕事をさせてもらっています。
______スタイリストとしてのこだわりは?
衣装としてのスタイリングに興味がないんです。あくまでもリアル主義。そして昔から雑誌でたくさん服をコーディネートすることがとにかく楽しかった。着回しの効く服が好きで、こうも着たいし、あんな風にも着たいと考えるのが好きですね。若い頃、これでもかというくらい着回しのテーマをやってきたので1カ月コーデなんてあたりまえ。3カ月分のコーディネートを作ったことも。今ではそこまでのコーディネートを組むことはなくなりましたが、そのことでより真剣に服と向き合うようになりました。

今もリアル主義に変わりはありませんが、年齢を重ねた分、服と価格のバランスについてはよりシビアに。“これはない”と思う服は提案しません。例えば、冬のボリュームコートの足もとに華奢なサンダルを合わせるとそれは素敵ですが、実際、普段にははきませんよね。そういうことがますます譲れなくなってきました(笑)。

______ターニングポイントは?
戻る場所がなくなってしまうとか、ファッションの流れが分らなくなってしまうなど、とにかく不安しかなかったので、出産の前後1カ月しか産休を取りませんでした。妊娠7カ月の頃でも冬のコート特集で大量のコートを集めましたし、産後1カ月でタイアップの撮影を受けていました。夫も全面的に協力してくれて、とにかく突っ走りました。いま思い返すと、子どもが小さかったときにやはりもっと相手をしてあげたかったと思いますね。

最近では、「マリソル」や「エクラプレミアム」で服作りのディレクションの機会をいただき、仕事の幅が広がりました。生地を選び、欲しかったものを作らせていただけることがこんなに楽しいとは。既存の服でスタイリングをするのとは違って、異なるリアルに踏み込む感覚でした。
徳原さんの手もとには、カルティエの腕時計とゴールドの細いバングルが光る。
______徳原さんといえばマキシスカート×スニーカーですが・・・
私が毎日の着こなしをどうやって決めているかというと、まず靴選びから。その日のお天気や仕事の内容で靴を選ぶと、ほぼスニーカーになることに気がつきました。仕事柄、動きやすさが最優先なのですが、化粧っけのない私にとってデニムではただカジュアルな人になってしまう。そこでロングスカートを合わせたところ、女らしくも見えるし、かがむ動作も気にならない、手をかけなくてもきちんとして見えるスタイルにたどり着いたと感じました。私にとってマリソルは等身大のスタイリングができる貴重な媒体。そこで私自身の日常から発生したこの組み合わせを提案させていただくように。多くの人に取り入れていただいてうれしく思っているんですよ。よく「素敵に見せるにはどうしたらいい?」と質問を受けるのですが、ただカジュアルな人に見えるのを回避するためにジュエリーや時計はつけるようにしています。
______仕事に対するこだわりは?
数年前のスタイリングを今見たとしても、同じように着たいと思えるクオリティを保ちたいですね。昔からパリ・ミラノ、ニューヨークなどで行われるコレクションに集まるおしゃれな人たちのスナップ記事が大好きでした。その中で、グレーのスウェットにひざ下丈のタイトスカートを履いて足元はポインテッドのヒールパンプス。パールのネックレスをしている人がいて、とにかく素敵で今も目に焼きついています。それと同時に“あぁこれでいいんだ”と思えた瞬間でした。
私自身が心がけているのは、立ち止まらないこと。アウトプットとインプットを常に行っていくことで、自分の中のリアルが更新されていくのだと感じています。

独り立ちしたときの不安感を今も持ち続けているという徳原さん。トップキャリアに甘んじることなく謙虚な気持ちを忘れずにいる姿勢が、多くのスタッフから愛され信頼される理由。徳原さんに忘れられない着こなしがあるように、彼女が提案したマキシスカート×スニーカーのスタイリングが、忘れられない着こなしとして多くの女性の心に刻まれていくはずだ。
<今日のスタイル>
マキシ丈スカートでのジャケットスタイルを着こなす徳原さん。

徳原さんがレディース部門のディレクターを務めるオーダースーツブランド「DIFFERENCE」。そこで仕立てたというダブルのジャケットとマキシ丈のタイトスカートという組み合わせが新鮮。「カジュアルに着られるスーツが欲しくてディレクションしたものをオーダーしました。ボックスシルエットでメンズライクなジャケットと、私のトレードマークともいえるマキシ丈のスカートにはやっぱりスニーカーを合わせます」。ショップでのオーダーはもとより、スマホアプリだけで採寸からオーダーまでが完了する画期的なシステムにも注目が集まっている。セットアップ¥41,800~、ジャケット¥29,260~・スカート¥14,630~/DIFFERENCE青山 ≫

<モチベ―ジョンを上げる3アイテム>
ロエベのスニーカー。
スニーカー選びには並々ならない思いのある徳原さん。「この配色に魅せられてしまった“ロエベ”のスニーカー。一度は忘れようとした一足でしたが、半年後くらいにまた出会ってしまって(笑)。ほぼスニーカーしかはかないので、パンプスやブーツを買うと思って思い切って購入しました。足もとが難しいと感じていたネイビーの着こなしに合わせたい」。
首もとにはハートが連なるゴールドのネックレスを。
「父は私が社会人になっても毎年お年玉をくれていました。それをずっと貯めていて、いつか記念になるものを買いたいと思っていたときに”マリーエレーヌ ドゥ タイヤック”のネックレスにひと目惚れ。ハートが連なるゴールドのネックレスは、もう10年以上肌身離さずつけている、お守りのような存在です」。
愛用中のリュックとマーケットバッグ。
「ブランドバッグも好きですが、つい手が伸びてしまうのは軽くて使い勝手のいい布製のバッグ。右は、残布で作られている”マルニフラワーマーケット”のもので、大阪に行ったときは必ずチェックしに行きます。左は、“エパーソン マウンテニアリング”のバックパック。超軽量のパラシュート素材で、気兼ねなく使えてあえてコーディネートのはずしアイテムとして活用しています」
 
撮影/山下みどり 取材・文/向井真樹

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