自分が決めたリミットまで1か月。幸いイベントの多い時期でもあり、何かしら桃色の進展があるのではと期待に胸が膨らむ。
年末年始休暇はこれまで以上に頻繁に会っていた。
すると当時実家で暮らしていた奴さんの母親が、息子の不在の多さに「彼女でもできたなら家に連れてきなさいよ」と突然のミコトノリを発した。
突然のお誘いに除夜の鐘が200回くらい鳴ったような煩悩のあれこれが頭を巡って当日に思いをはせたが、あくまでも「遊びに来なさい」と言う体であり、年末までに結婚を決めるのだ!と自分で決めたリミットは過ぎてしまい、一人うなだれた。
そう。これは結婚の挨拶でもなく、「オッス!オラ、ケビ子!」のご挨拶だから、と手土産や服装にも出すぎないよう気を配った。ここで全力を出してしまったら結婚の挨拶の時にボロを着て、へぼいお菓子を持っていくことになってもまずいのだ。
悩みに悩んで既婚者の知り合いにたくさんヒアリングを実施。手土産ノウハウはやはり経験者はすごい。機会があればぜひ紹介したいものだ。
結局私は和光の焼き菓子セットを風呂敷で包み、奴さんのお父さんが好物だというビアードパパのシュークリームも開店前から並んで買った。
服装は白襟にネイビーのワンピース。髪もまとめてネイルもベージュピンクに塗り直し、メイクもドギツイ女豹メイクから女子アナメイクに変えた。
「し、しつれいします」声がひっくり返った。すごい緊張する!と思いながらも気を持ち直し、ここには確か30回目くらいの入室よね?といった慣れた体でポーカーフェイスで部屋に入る。
通り一遍の挨拶を終え、出された果物とクレープを遠慮なく頬張りつつ、クレープの数を数えながら一人当たり2個は食べても良さそうだと思っていると、奴さんのお母さんが少しモジモジしながら切り出した。
「そ・れ・で・・・いつごろ籍をいれるの?ハワイで結婚式なんて良いんじゃない?」体をテーブルに乗っける勢いで前のめりながら。
「俺もハワイがいいなと思っていた。これからそういう話をするところ」と奴さん即答。
部屋中を見渡し、ドッキリカメラを探すが見当たらない。
「へっ?そうなんですか?そうなんですね」と素っ頓狂な声で返事をする。そんな会話、今まで何もしてないぞ。
奴さんは「じゃ、そういうことで」
そ、そ、そういうこと?
このやりとりで結婚が決まってしまった。
年末までに結婚を決めたいと思っていたが、1月入ってすぐに結婚が決まった。
決まった、というよりも決まってしまった。しかしほぼ結果にコミットしたと言ってよい状況が私を喜ばせた。
奴さんコメント「母ちゃん何を言うんだ!とびっくりした一方でよく言ってくれた!ナイスアシスト!と思って流れに乗った」
奴さん母コメント「お菓子を風呂敷に包んで来るなんて、今どき珍しいしっかりした方だと思ったわ。お菓子の趣味も合っておいしかった♪」花より団子派で意気投合らしい。
その後はもうジェットコースターのようであった。翌週は私の姉家族と会食。姉は喜びのあまり、得意のいっこくどうの物まねを披露し、時差腹話術で「おめでとう」と言ってくれた。
翌々週は私の実家に挨拶に行き、満漢全席のようなもてなしに家族の喜びを感じた。姪っ子甥っ子は奴さんに鈴なりになり、母は奴さんを紹介するなり泣き出した。
ウルッって感じじゃなく号泣。号泣しながら奴さんの腕を掴んで言った。「ありがとうございます!ありがとうございます!」
あたかもどっかの樹海で遭難した娘、ケビ子。もう無理かとあきらめかけたところ、運よく発見され、母親が捜索隊にお礼を言う、みたいなシーンのような感じ。そんな感じの号泣&サンキュー。
「東京で仕事して自立してたら結婚なんていいんだよ」
「ろくでなしを選ぶくらいなら一人でいいんだよ」
「ケビ子みたいなふざけた女を面倒見たい男がいるかね、いや、いないのだよ」
などと結婚できない娘をどうにか合理化しようといいんだよいいんだよと言っていた。
しかし、いざ奴さんを連れて行くと号泣である。心配かけたな。結婚って自分だけのことじゃないんだなって実感した。
43歳で(やっと)結婚。
仕事で培ったフットワークと屁理屈と知恵をフル活用してゴールイン。奴さん(夫)は夢見る世話焼きロマンチスト。Instagram(@kbandkbandkb)