35歳からの顔は、自分自身が作り上げていくもの
とりわけ飛行機の中で隣に座った年配の女性に、自分のことを喋り続けてウンザリされる、というあたりがひどくリアルで、プライドの高い自信家が傷つき不安定になったとき、大体自分のことをしゃべり続け、ウソや誇張も混じった自慢話になることを、それはシニカルに描いていて何だか切なくなる。ただ不思議なことに新たな金持ち男との出会いに、次なるセレブ生活の可能性を見出すと、急にバランスのいい魅力的な女に戻るのだ。しかしその可能性が絶たれそうになると、またすぐバランスを崩し、何とも言えないイラついた表情になる。その時、顔立ちも肌そのものも肌の色も瞳の光自体も、全てがイラついて見えるのだ。ケイト・ブランシェットはまさにこの表情でオスカーをとったのだろう。なるほど女はこういう顔になってしまうのだと、見ていてドキドキしたもの。女の顔には、幸不幸と、心のバランスと、そして美しさのトライアングルがあって、それが常にその人の印象を作り変えているのである。
若い頃の顔は生まれ持ったもの、でも35歳からの顔は、自分自身が作り上げていくもの。それも、人の顔は衰えていく過程で日々の心の状態がその形に反映されるから。つまり35歳から、心穏やかに生きている人は穏やかな顔に、毎日笑顔で生きている人は、上向きの笑顔顔に、不機嫌に日々イラついている人は危ない不機嫌顔に……まさにそのイラついた顔は『ブルージャスミン』参照のこと。肌は内臓の鏡と言うけれど、顔立ちは心の鏡、つくづくそう思う。心の向きが筋肉の向きを変え、心のこわばりが筋肉をこわばらせ、また肌自体もこわばらせる。不安定な心が、総毛立ったようなキメの乱れをもたらしてしまうのだ。