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若者たちに「貫禄ある姉さん」と呼ばれるようになっていた、私【小説・じゃない側の女 番外編~溜めない側の女 Vol.1】

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【連載第1回】植田真木(うえだ まき)43歳。勤続20年の管理職ともなると、時には「貫禄ある姉さん」と呼ばれることもあるけれど……少なくとも顔に、貫禄はいらない。と思うのだ(全3回)
若者たちに「貫禄ある姉さん」と呼ばれるようになっていた、私【小説・じゃない側の女 番外編~溜めない側の女 Vol.1】_1_1

「真木は久々に会った人に、『うわ! 変わったねー』って言われるのと、『うわ! 変わらないねー』って言われるの、どっちが嬉しい?」


「それはその意味にもよるでしょ、あと相手のトーンとか」

「もー、直感で答えて。どっちがいい? ほら、すぐ答える!」

「うーん……じゃ、『変わらないねー』かな。だって、称賛の『変わったねー!』を今の自分がもらえる想像ができないから」

「相変わらず、真木の自己評価は低いねえ」

と苦笑する今日の理沙は、ノーカラーのふんわりシャツワンピに、細身デニムのレイヤード。きゅっと締めたウエストと、ボタンを多めに開けてパンツのシルエットを見せる美バランスは、なんとも絶妙。

アパレルブランドと金融。そんな所属業界の違いをはるかに超えた“女っぷり”の圧倒的な差に、私は思わずのけぞりそうになりながら、ふと思う。

いや、どうやら昨今、自分が知らない間に『変わっちゃった』こともあるらしい……と。

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つい先日のこと。長く重たい会議でぐったりした私は、終わるや否や、猛烈にカフェインを欲し、ひとりオフィス近くのスタバに駆け込んだ。濃い目のコーヒーを手に、店の大きな窓から見上げた空は真っ青で。

はぁー……思わず、深いため息をついて、ソファに体をうずめた。あぁ、今日はこんなにいい天気だったのか。気づかなかった。なにせ朝からずっと、窓のない会議室で喧々諤々……。

絶対今、あたしの交感神経はMAX優位状態だ。最近寝付きも悪いし、自律神経のバランスは相当ひどいことになっているだろう。そうだ、こんな時は、深呼吸が良いと聞いたような。コーヒーの薫りの中、目をつぶって、ゆーっくり深呼吸。鼻から吸ってー、口からゆーっくり吐く、スーッと吸ってー……

「あのぉ、う、植田さん!」

「うわっ、びっくりした」

急に名前を呼ばれ、ガバッと目を開けると、そこにはたっぷりとホイップクリームがのった季節限定フラペチーノを手にした女子がひとり。

「す、すみません、急にお声かけてしまって!」

いえ、ちょっと深呼吸したかっただけです……と、その時間すら持てない自分に、ちょっぴりせつなくなりながらも、かろうじて微笑む。

「あの、私、実は先ほどの会議でご一緒していて。すぐにご挨拶したかったんですが、なんだかそんな雰囲気じゃなかったもので……」

そりゃそうだろう。楽しいワイワイ親睦会じゃないのだ。とあるトラブルについて、事実確認、原因追及、対策立案……そこそこの立場にある人たちが、代わるがわる、てんこ盛りの言い訳と、華麗な責任転嫁を繰り広げる、殺伐とした会議だったのだから。


「場が荒れた時、『そろそろ自組織主語ではなく、お客様主語で話しませんか?』って、植田さん一言だけおっしゃいましたよね? あれ、痺れましたぁ」
 

いえいえ、言わずに済むなら、できれば私もそんな発言お控えしたく……おこがましくも、やむなく口を挟んだまでのことでして……。

「男子からも女子からも、植田さんってほんと貫禄あるよね、って私たちの代では評判で」


「え……? 私?」


「はい。今日みたいな場でも、臆さず慌てず忖度せず。怒声につられて感情的になることもなく、いかなる時もどーんと動じないといいますか」

「どーんとって……」

「たまに恫喝する男性管理職より、よっぽど大物感がある姉さんだねって」
 

出たー、“姉さん”。

私は見知らぬ若者たちに、知らない場所でもはや「姉さん」と呼ばれるようになっていたのか。それも、「貫禄ある姉さん」と……。

うわー……。


 

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