ファッションのプロは、どんなものを大切にし、そこにどんな考えがあるのだろう? 長く、丁寧に服を着ることは、真の意味でのサスティナブルにもつながる。だから、今こそ考えたい。本当に自分が愛おしいと思うものと、それが教えてくれる、自分らしいスタイルの軸について。
PROFILE
広告代理店勤務を経て、スタイリストに。女性誌のほか、モデルや女優からも絶大な支持を得る。モードからヴィンテージまでを自在にミックスし、リアルなモードを提案。マリソルでは、知花くららさんの連載「くららと着物と日々のこと」のスタイリングを担当。プライベートでは2児の母
スタイルは「ノールール」。装う自由に挑戦し続けたい
ハイブランドからヴィンテージまで、自由にミックスしつつ、それをリアルなコーディネートに落とし込むスタイリングは圧巻。ご本人の、小柄ながらどんな服でも自分色に着こなす姿も、 「さすがファッションのプロ!」と誰もがうなるパワーをもつ女性。
"とにかくファッションが大好き”と言う長澤さんだが、スタイリストになる前は、地元の北海道にある広告代理店でOLをしていたという意外な経歴をもつ。
「父親がすごく厳しくて、私のやりたいことは全部ダメと言われるような家庭で育ちました。ただ、母親はとてもおしゃれで、私は物心ついたころからファッションが大好きで。高校時代には、モード誌を読んだり、映画や音楽などのカルチャーに刺激を受け、自由におしゃれを楽しみたいと思っていた反面、親はそれを許してはくれないような環境でした」。
いったんは、親の願いどおりの道に進むべく、会社勤めをしたものの、ファッションへの情熱を捨てきれず、"ここを離れないと自由がない”と一念発起して上京。スタイリストのアシスタントにつき、この業界への道を歩み出したという。
「私のスタイルは、ひと言で言えば"ノールール”。自分の中でルールを作らず、どんな服も自由に着るのがポリシーなんです。もちろん、自分らしさの軸はあるけれど、"私はこういう服は着ないとか"私には着こなせないかも”などと思わずに、気になったものはトライして、軸の振り幅を広げてみる。ファッションで自由に表現することを、なにより大切に思っているのは、選択の自由が少なかった家庭環境に起因しているのかもしれないですね」
〝セルフヴィンテージ〞になるかどうかが選択基準
長澤さんのスタイルは、"ベーシック”とか"モード”といった言葉ではくくれない。しかし、今回撮影した大切なモノたちを見ると、確かに"長澤流”の軸が感じられる。
「自分が好きなモノの軸って、大きくは変わらないと思うんです。私の場合は、例えば柄の服とか、アシンメトリーとか、個性がはっきりあるモノが好き。若いころはコムデ ギャルソンやヨウジヤマモト、今はそれにドリス ヴァン ノッテンやジルサンダーなどといった海外のトップメゾンの服が加わり、選ぶブランドの幅が広がってきました」。
モノを買う時、必ず考えるのは、"60歳くらいになった時の私が、これをかっこよく着こなしているかな?”ということ。
「もともとヴィンテージアイテムの"味”が好きなので、自分が使っていくうちにいい感じに育ってきて、数十年後"セルフヴィンテージ”になるだろうと思えるものを買っています。最初から"長く着たい”と思って買うのではなく、 "結果として長く着ていた”というのがいいなと思うんですよね。未来の自分を想像して買って、10年後、20年後に"やっぱりずっと着ていたな”って答え合わせをするような感覚かな」。
安かろうと高かろうと、好きだと思えば値段は関係ないけれど、将来、セルフヴィンテージにしたいと思うと、自然とトップメゾンのものが多くなる。
「やっぱり"本物”にはモノとしてのパワーがあるんですよね。デザイナーや職人など、たくさんの人の手のぬくもりとセンスが宿っていて。私はモノの裏側にある丁寧な仕事のひとつひとつを、とてもリスペクトしているんです。セルフヴィンテージとして、何十年も使い続けたいと思ったら、やはり素材そのものの質のよさや、いつまでも古びることのないデザイン性がいる。そういう意味で"本物”であることは、私のモノ選びの大事な要素かもしれません」
10年前に買った服でも「今」の着方に変えてみる
クローゼットを整理することはあるけれど、"断捨離”という言葉は使わないという長澤さん。
「私のクローゼットには、10年、20年選手のものもたくさん。私は体形があまり変わっていないということもあると思いますが、好きだと思って買ったものは、時間がたっても、やっぱり"私、まだコレ着るよね”って思うものばかり。でも、買った当時とは、自分のテンションは変わっているから、同じコーディネートで着ることはないですね。どんな服とレイヤードするのか、どんな靴を合わせるのか、どんなヘアスタイルにするのか……その組み合わせによって、印象はがらりと変わるし、例えばボタンだけつけ替えてみたら、表情が全然違って見えるかもしれない。これから先は、ジュエリーや時計の輝きを頼りにするのもいいかなと思っています。そういうふうに、新しいスタイリングにチャレンジしたり、年齢に応じたアレンジをしていくことで、その時その時の自分にフィットさせていくのがとても楽しい。洋服は、私という人をつくるもの。白髪になった時に、大事にしてきた服を、もっともっとかっこよく着ていたいなと思っています」
■ドリス ヴァン ノッテンのコート
60歳の私がこれを着ていたらかっこいい!とひと目惚れ
5~6年前、「可愛い!」とひと目惚れした、ドリス ヴァン ノッテンのフェザー柄コート。 「デニムに合わせてもいいし、リトルブラックドレスの上にはおってもいい。60歳になった時、こんなコートを着てたらかっこいいなと思って」
■マノロ ブラニクの靴
ただそこにあるだけでもたたずまいが個性的な靴が好き
3~4色の配色のハイヒールは、ともに3年以上前に購入。「私にとっては、靴は履いていない時のたたずまいも大事で"いい顔"しているものが好き。マノロは大人の女性に映えるエレガントさがあると思います」
■ロエベのワンピース
ドレッシーになりすぎない絶妙なバランスのドレス
ステッチ入りのレザーベルトがロエベらしい、ブラックドレス。「深いVあきの下にレースのボディスーツを着て、インナーを見せる前提でオールブラックで統一。胸もとがあいていて、腕もウエストもタイトで女らしいんですが、ハリのあるマットな質感がマニッシュ、レザーベルトがカジュアルと、フォーマルな要素から少しずつマイナスされていく、絶妙なバランス感が好み。パーティのドレスコードに合わせて、ピンヒールにしたりニーハイブーツを合わせたりしています」
■グッチのバッグ
バッグに関しては実用性を重視
上のファスナーを開けると、トートタイプになるスクエアボストンは、ヴィンテージライクなデザインに惹かれて2年ほど前に購入したグッチ。「バッグは実用性を重視。書類やiPadがちゃんと入る、かちっとしたデザインが好き。お気に入り3個くらいをローテーションしています」
■ヴァレンティノとジル サンダーのジャケット
計算されたテーラリング+デザイナーの個性で買う
無類のジャケット好きという長澤さん。黒は昨年買ったヴァレンティノ、グリーンは3 ~ 5 年前のジル サンダー。ともにテーラリングの美しさは随一。「ジャケットは10年以上愛用しているものもたくさん。流行ではなく、計算されたテーラリングとデザイナーの個性を重視」
■ヴィンテージジュエリー&時計
ヴィンテージの輝きをその日の気分でレイヤード
ヴィンテージやコスチュームジュエリー、メンズジュエリーなど、気分によってたくさんレイヤード。特にリングはいくつもの指にしたり、関節にしたりと、つけ方で遊んでいる。「時計やジュエリーは、20代から少しずつ大切に集めてきました。手もとにじゃらっとつけます」
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