そして、ユリさんは「私はあなたと結婚したい」と宣言する。
「かなり驚いていましたけど、そこで『結婚を前提に付き合おう』と言ってくれました。ただ、その後は、私からひと言も結婚をねだりませんでした。“武士に二言はない”じゃないけど、何度も言うと軽くなるし、女性から何度も言わせるような男じゃないと信じて(笑)」
実際、この思惑はズバリ当たった。
「最終決断は彼にまかせて、私はできるだけスムーズにコトが進むよう、さりげなく配慮して行動しました。具体的には、彼との予定はすべて最優先させるとか、2人の間で話し合いはしても大きくもめないとかね。あまりにも、スムーズに関係が深まるものだから、彼も『運命かな?』って」
会社を立ちあげたばかりだったユウジさんは、最初は結婚願望はあまりなかったという。それでも、ユリさんとの結婚に前向きになっていったのは、2人の関係が負担になるどころか、支えになったからに違いない。
「彼の仕事を応援したい気持ちは強くありましたね。私自身も仕事を本気で続けてきたから、理解できるところもあるし。うちは父も自営業者なので、彼のように自分の事業に挑戦している人を間近で見て心から尊敬していたんです。いつか結婚するなら、そんな男性の参謀みたいな妻になりたいって思っていました」
初夏に出会って付き合い始めた2人は、季節ごとに着実に仲を深めた。翌年のお正月、彼の家族に新年のご挨拶したことも後押しとなり、約半年で結婚にいたることに。
トントン拍子とはいえ、思慮も責任もある40代同士。結婚にあたって、迷いや障害はなかったのだろうか?
「もちろん、結婚前にいろんなことを話し合いました。まず40代としては、子供をどうするかは早めに考えないといけないなと。私は欲しいと思っていなかったけど、彼やご両親が欲しいというならば、頑張ろうと思っていたんです。でも、彼に聞いたら、『いなくてもいい』とあっさり。家を継がねばという思考もないし『自分の子どもとはいえ、キミの関心が僕以外の人間に向くのが寂しい』って真剣に(笑)」
照れも臆面もなく、嬉しそうに話すユリさん。
結婚、同居。さて仕事との両立は……?
結婚するにあたり、ユリさんがもう一つ、真剣に考えたのは、今後のキャリアについてだ。大切に積み上げてきたキャリアをどうするのか。
「結婚しても、キャリアを捨てる気持ちはなくて。彼の賛同を得ていたこともあり、結婚後も1年間は、会社員と主婦業との両立を図っていたんです。でも、無理でしたね。私、根が古風な上に完璧主義なんですよ。『夫が帰るまでには、夕飯を用意して待つ』を日々の命題にしていたんですけど。フルタイムの管理職会社員として、それをかなえるのは至難の業で。フレックスタイムを使って、毎朝5時出社、夕方4時に退社して。駆け足でスーパーに行って、ごはん作って、家事をして、日々ヘトヘトな生活でした」
ユリさんのInstagramをのぞくと、栄養バランス完璧で見目麗しい一汁三菜のごはんが毎日のようにアップされている。確かに、これではハードワークとの両立はむずかしい!
「年もあるかも。今の業務との両立は無理だなと思った時、夫が経営する会社で人手が足りないと小耳にはさんで。こちらに拾ってもらうことになりました」
20年以上勤務した会社を辞めることは不安や寂しさもあった。けれど、夫の会社で働くことは、予想以上に楽しかったという。
「小さな会社なので、あらゆる業務をこなさなきゃならないんですけど、日々、充実感がありますね。毎回、契約が取れた時や、プロジェクトが完成するたびに、夫やスタッフと手を取り合って大喜びして。まるで高校の文化祭みたいな達成感! 私もキャリアが長いので忘れかけていましたけど、本来、仕事の喜びってこういうところにあるんだよなと。
それから、初めての転職でもうひとつうれしかったのは、私ってわりと使える人間だと気づけたこと。ひとつの会社に長くいたので、外の社会に通用するのか、いまいち分からなかったんですよ。でも夫の会社では、翻訳から経理まで、いろいろやれる私は重宝してるみたいで、うれしかったです。元いた会社が私をジェネラリストに育てるべく、いろんな部署を渡り歩かせてくれたおかげだなと改めて感謝しています」
現在、結婚生活も4年目に突入。職場も同じになって、ほぼ24 時間一緒にいるものの「もっと、ずっと一緒にいたい」とユリさん。
「何をするにも2人で一緒が楽しいから。ほかの人付き合いとか必要なくて、2人とも会食とかの予定を極力避けてます」
恋も仕事もあまたの経験をして成熟した大人同士。仕事も生活もともにするベストパートナーでありながら、まるで10代のカップルのように互いに夢中の2人。
こんな40代カップルもいるから、人間って面白いし、人生は希望が持てる。
最後に、愚問ですが、結婚してよかったですか?
「もちろん! こんなにも愛を感じて甘えられる存在は、人生で初めてですから。それはやはり、契約と保証あっての慣れ合いのおかげかなって。もし、恋人関係のままだったら『この先はどうする?』が消えず、心を許しきれない部分もあったと思う。彼のことは、異性としても大好きだけど、今や親より兄弟よりつながっている家族だなと思っています。
すべてを預けられる愛するパートナーがいて、夢中で仕事を楽しめて……。ずっと理想だった人生を、今、送れている感じです」
42歳まで、キャリア第一で生きてきた。ゆえに適齢期はなかなか訪れなかったものの、大切に築いたキャリアがあったからこそ、最高に幸せなパートナーシップを得たユリさん。
年齢を重ねて得た知恵と経験は、パートナーとの間に新たな愛情をうみ、育てる糧になる。
43歳の結婚を起点に、まったく新しい人生が始まった。
芳麗 ● よしれい
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