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43歳の卵巣、予備能力的にはまだ30代前半【小説・じゃない側の女~Side2産んでない側の女 Vol.12】

【連載第12回】谷原理沙(たにはら りさ)43歳 某有名ブランドのバイヤーとして、月の半分近くを海外で過ごす。後輩が次々と妊娠して産休に入るたび、「快く」送り出しているつもり、だけれど。(全15回)
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「理沙は今、私や真木の前だから、自分の中の黒い感情にとまどいながらも日ごろの思いを口にしてみたんだと思うけど、産休育休に入る部下や女子スタッフに何一つ嫌味を言うでも、意地悪をするでもなく、またかと思いながらも表立っては気持ちよく送り出すわけでしょう?」結花の問診は続く。

気持ちよく? 送り出せているだろうか?

確かにあたしは、元気に妊娠して元気に休みに入っていく後輩妊婦に対して、出来ることはやっているつもりだ。

休みに入る妊婦女子を見送る送別会の幹事をして、彼女のリクエスト聞きながら、妊娠中の彼女がおいしく食べられる料理を決めて、お店を選んで予約して出欠とって、会計とりまとめて、出社最終日の花束手配して、そのまま最寄り駅まで付き添って見送りして帰ったりしている。

でもそれはお給料もらっている以上、これも役目の内数なのかなと思うからだ。正直、それ以上でもそれ以下でもない。よかったねー!と祝福の気持ち溢れて動いているかといえば…そうじゃない。それでも、気持ちよく送り出しているってことになるんだろうか。

「理沙って昔からなんだかんだ自分に一番厳しいのよね。振る舞いはいたってそつなく、むしろ配慮ある社会人としてやることやってるんだから、手放しで妊娠おめでとー!って盛り上がる気持ちにならないくらい、全然いいじゃない」と、結花が笑う。

「あたし、根性悪ってことではない?」
「人は誰でも必ず微量の悪や毒を持つって読んだことない? 水清くして魚棲まずとも言うし、私や理沙みたいな産んでない側の女が、仮に産む側の女子に対して、無意識にも羨ましいとか妬みってのがちょっとくらい心の中に湧いたってそんなの自然の感情だよ。それでもそんなささくれや、良からぬ心のさざ波を周囲に気づかせないように生きているのが、大人って生き物なんじゃないの? 理沙が特別、冷酷非道な人間ってことでは全然ないと思う」

と、これまでしばらく静かにあたしと結花のやりとりを聞いていた真木も、笑って言った。

そしてマスターイチオシのもずくのゼッポリーネにぱくつきながら、結花の質問が再開する。

「で、理沙、15000円の結果は出たの?」
「うん。超そっけないA4の用紙に1行数字のペラ紙が渡された」
「どうだったの?」
「なんていうか…困惑する結果」
「ってことは、持ち球はそこそこ残ってたってことね」

するどい。まだ何も言ってないのに、結花って本当に賢い女だ。

どうやらそうらしい。女医先生曰く、実年齢43歳に対し卵巣の予備能力的にはまだ30代前半の値だそうな。だからといって欲しいならのんきに構えてはいられないが、この数字を見る限りでは、「まだ全くあきらめる必要はありませんよ、頑張って」と言われてしまった。

頑張って…。かあ。
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