そういって、さっきあたしがハグした真木が、今度はあたしを力いっぱいギューッとハグしてくれた。
「私が思うにね」真木にハグされたままのあたしの頭にポンと手を置いて結花が続ける。
「理沙はたしかに何でも自分で“決断する人”だけど、決して“決めつける人”ではない。洋服のコーディネートひとつとってもそう。もっとこういう風にできるかも、あんな着方も素敵じゃない?って、いつもいろんな物事に興味をもって、人が好きなものを理解しようとして解釈の幅を広げる努力して、いつだって“それもありだね”って、延々一緒に楽しく可能性を探してくれるじゃない? だからその…自分にもそうしてあげてよ。無理に何かを今決めつけようとしないで」
あたしは人前で泣く女が嫌いだ。真木を泣かせておいてなんだけど、嫌い。だからあたしは泣かない。でも泣きそうなくらい真木と結花の言葉とハグは暖かく、ここしばらく何とも言えずもやもやしていたあたしの心の霧をすーっと晴らしてくれるようだった。
ほんと申し訳ない。ほんとありがとう。
結婚してもない独身女が、何を一人先走って、考える資格もないようなことで勝手に悶々としてるんだって笑い飛ばされても仕方ないのに。馬鹿じゃないかって言ってもいいのに。こんなこと人にどうこう言ってもらうことではないのに。二人は笑わずあたしの話を聞いてくれた。
これまではいつだって何だって自分のセンスと経験に基づいて責任もって決断してきたのに、子供を持つということについてはどうしても決められない自分、決めない自分。あたしは将来の自分に対して、今決めないこと、決められなかったことについて、いつの日か言い訳することにならないかが、猛烈に不安だった。そんなことはしたくないし、そんなことはしない、と思いたかった。
それを言わせてごめん。でも言ってくれてありがとう。
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