人生は、選択の嵐だ。
自分が何をどう選びどう決めたか。決めるか。そしてその選び取ってきた道が、自分にとって幸せな選択と結末なのかどうかは、最後の最後の瞬間まできっとわからない。
もしマスターが言うように、無様でもがむしゃらな迷走こそが後から振り返った時に人生の面白味ってものを与えてくれる時間になるのだとしたら、あたし達は今、いつか来るその時まで、余計なことを考えず、存分に面白がって、往生際悪く自分なりに精一杯生きれば、それでいいのかもしれない。
だって正解のないことに不安になって、いいことなんてきっとない。子供作っておけばよかった、作りたかったと後ですごく思う時が来るかもしれないし、来ないかもしれない。でも今を生きるあたしが、将来のあたしにとっての正解を選ぶことは難しく、将来のあたしのためにと、そもそも正解のないことで不安になって今のあたしも不安を抱え穏やかな気持ちでいられないとしたら、それはいつのあたしにとっても幸せなことではない。
あがけばいいか。その時々に。
誰のせいにも出来ないことだけは肝に銘じて、ひとつずつ今出来ること、わかることを責任をもって選び進む。だって今までだって、ずっとそうやって来たのだから。
「ちなみに確認だけど理沙って彼氏いるの?」
何かの撮影ですか?と思うくらいシャンパングラスを持つ姿が美しい結花が、そういえば、と質問してくる。
「彼氏の定義って何よ?」
「定義とか面倒くさいのやめてー」真木が苦笑する。
「冗談だって。つかず離れずの人は何人かいるけど、彼氏っていうのかどうかは微妙だな」
「微妙じゃないでしょ。何人かいる時点で彼氏っていわない、その人達」冷静な結花の返し。
「えー、でも彼らセフレとかじゃないよ」
「でも、するでしょ?」
「まあ、するね」
「理沙、子作り悩む前にちゃんと“いい恋”して。楽しておいしいとこどりだけする癖つくと、やっかいだよ」
…結花さん、深いです。おっしゃるとおり。
仕事の充実、仕事の多忙を理由に、正直恋愛戦線からはしばらく足が遠のいている自覚あり。知恵がつくとろくなことがないね。結花のいうとおりだ。
仕事も恋愛もきっと同じ。酸いも甘いもかみ分けてこそ、その先にはじめて真の幸せやかけがえのなさが味わえるはず。
久々に戦線復帰して、そっちでも無様な迷走を楽しんでみますか、ね。
(小説・じゃない側の女~Side2産んでない側の女 完)
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