権利。享受。そういう妊婦さんのごもっともながらも、無邪気な発言を、疲労困憊気味の身にじゃんじゃん浴びせられ続けると、思わず、ちょっとあたしの風邪うつしちゃおうか?なんて黒い感情が瞬間的に浮かんでしまうことすらある。
そんなひどいこと思ったらバチがあたるっしょ!と、すぐさま頭の中の黒い霧をかき消すものの、妊婦女子のたてつづけの無神経発言に「こっちはこっちでまあまあ大変なんだよ」と心はどうにもささくれだつ。
「体力もどれくらいで復活するかって話ですよね。子育てしながら出社できるようになるには、どれくらいかかるものなのかなあ。あ、さすがの理沙さんも産んでないから、さすがにそこはわからないですよね。というかその前にご結婚ですね、あはははは」
おい小娘。めでたかったら何言ってもいいってのか? そうじゃねーだろ。
「おなか大きくなってくると、駅の階段とか降りるとき、あー私って、今弱者だなあって思うんですよねー」
新たな命を抱えた人を大事にするのは当たり前だ。
出来る限り配慮してあげるのは人として当然だ。そう思う。心底思う。
けどね、されて当然とあまりに声高に主張されると、正直、「あたしの方が倒れる寸前です!」と言いたい時だってある。だってほんとに、こっちもそっちもあっちも、あなた以外もそこそこ大変なんだから。
あなたは「おなかに赤ちゃんがいます」ワッペンもっているけれど、私は「おなかに赤ちゃんが居る人の分の仕事を代わって3週間休み返上中の帰りです」とか「買い付けの出張代理で、成田にタッチアンドゴーで帰国翌日からまた飛びます」ワッペンとかないんだもん。
毎回思うんだ。会社組織ってのは、男性陣ってのは、妊娠した女へのハラスメントには恐ろしいほど敏感だが、妊娠していない女、産んでいない女、子供のいない女への配慮は皆無に等しいと。
「谷原もすることして、一日も早く作ったほうがいいぞー。年とってからは産むより育てるのがほんとに大変なんだから」
「理沙さんも早くできるといいですね。見た目まだ全然お若いですから、きっと大丈夫ですよ。欲しいですよね?お子さん。やっぱり子供はいた方が絶対人生楽しいですって」
「高齢出産になると何かと問題起きる率が高くなるっていうだろ。谷原お前幾つだっけ? 40は過ぎたか? 結構いってんなあ、もうムリか? まだギリいけるか?」
悪意があろうがなかろうが、やっぱり人の神経を不用意に逆なでするこの手の発言はなくてもよくないか。
「いえ、私作らないんじゃなくて出来ないんです!」
とでも泣いてみたら初めて黙ってくれるのだろうか。
妊娠していない女、産んでいない女、子供のいない女には何を言ってもどれだけ傷つけても、心をささくれ立たせてもかまわないってことはないでしょう?
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