正直、理沙のその説明のどこかが間違っているとは思わない。けれど、私だって日々ここに至るまでに私なりの努力はかなりしてきた。そして今も。
外人ばりにコミュニケーション全般激しめの理沙や、情に厚く喜怒哀楽がきちんと伝わる真木と違って、私は思っていることがたまたま顔に出ないから、無機質だのクールな天才肌だの言われてしまうだけ。汗や涙、苦労や努力が、なぜか全く顔に出ないだけなのだ。隠しているわけじゃなくて単に出ないだけ。そういえば中高時代、ミスポーカーフェイスとか菩薩さまとか、なんだそれというあだ名をつけられることも多かった。
とにかくこの顔つきのせいか、昔から嫌われるようなことなんて全くした覚えがないのに、地味な嫌がらせや、意味不明のやっかみも受けてきたようにも思う。
中学高校でいえば、連日教科書やノートが隠されたり、捨てられることが続いた時期があった。幸か不幸か周りからは明らかに一目置かれていたはずなのに、実は教科書が連日行方不明になるんです…なんて事実を、当時誰にも言えなかった。なぜか真木や理沙にすら言えなかった。言えば理沙はなんとかして犯人を見つけボコボコにつるし上げただろうし、真木もきっと理沙以上にそんな卑怯な輩を許しはしなかっただろう。それでも私は言えなかった。なんだかんだで人気者だった二人には、言いたくなかったのかもしれない。
嫌がらせはあの頃だけでなく今だってある。先日も買ったばかりの車のドアに、いつの間にかクギか何かで彫られたような派手な傷をつけられてしまった。私、誰かに恨まれるようなことしただろうか。してるんだろうか。
「結花の暮らしぶりを見るとね、あーいいなーって思ってやっかんじゃう人がどれだけいても驚かないけど」
真木が言う。
「大体、ゆり子に似てるっていう時点でやっかまれても仕方ないよね。あたしなんてアンジェリーナ・ジョリーって言われるんだから、それどうよ?」
「うわ似てる! 無駄に濃いとことか、過度にテラテラさせてる唇とかまさにジョリー」
「殺すよ、真木」
首を絞めようとする理沙と真木の二人がケラケラと笑いながらじゃれあう姿を見て、私とこの二人の違いってなんなんだろう、と素朴に思う。
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