夫に買ってもらうではなく、欲しいものは自分で買ってこそ【小説・じゃない側の女~Side3あきらめない側の女 Vol.6】

2017年7月19日
【連載第6回】畠山結花(はたけやま ゆか)43歳 ゼネコン勤務の一級建築士。同業のハイスペック夫と2人の子供、瀟洒な一軒家。「すべてを手に入れて」順風満帆な人生を突き進んでいるように思われるが…。(全14回)
「ねえ、なんでほんとにしちゃうことになったのって?」

理沙が楊枝に刺さったカマンベールチーズフライでつんつん突ついて来る。

「なんだろ…30代半ばでの1回目の復帰より、40過ぎた今回の復帰の方が悔しいことが破格に多くてね。時間さえあれば出来るのに、お迎えいかないといけなくてどうしても納期を守れないがためだけに、やりがいある仕事には最初から関わらせてもらえなかったりして。しかもそれが若い頃より見えちゃうんだよね。でも、旬の時に“妊娠しちゃったので休みます宣言”して上層部をがっかりさせた女、っていうレッテルはなかなか消えないし、ペースダウンしたらもっと一線から遠ざけられちゃうし、かなり無理してアピールしないと、もと居たバリバリのラインには戻してもらえないしってもう頭の中が一杯で。だけど家に帰れば赤ん坊と小学生が待っていて、寝てくれるまで分刻みでご飯食べさせてお風呂入れて。子育てしてる人はみんなそうやってて、何も私だけが特別じゃないってわかってるんだけど、疲れてくるとあーもーなんで私ばっかり、みたいな気分についなっちゃって。そこに、こんな無理続けてまでも私ほんとにバリバリのラインに戻りたいんだろうかっていう自問自答も混ざってきちゃうと、精神的にマックス疲れちゃってね。いろいろ溜まってたんだよね、きっと。そーゆー一切合切の憂さ晴らしで、あーっもうただただ私今、猛烈にセックスしたい!って思ったっていうか」

たまっていた鬱憤をぶわーっと私が吐き出し切るのを待ってから、ずっとニコニコと眺めていた真木が言う。

「あーっもう今猛烈にセックスしたい!ってなんかそれ、ギラギラしたエリートの男が言いそうなセリフだね」

エリートの男みたい? エリートなんてそんな高尚なものじゃないことくらい、自分が一番わかってる。だって今はそんな活躍すらできてないもの。ただのエロイおっさん発言でしょ。そうよ、私はレスが長すぎて、とにかく無性にしたくなっちゃっただけなの。

「素朴に聞くけど、体力的にも精神的にも今のポジション的にも立ち居振る舞い的にもかなり混沌としちゃってるのに、それでもなお結花は仕事辞めたくないわけ?」

再び理沙が聞いてくる。それぞれに多忙な私たちは、そんな頻繁には会えないから、たまに会うと、会わなかった間のそれぞれの思いを丁寧に聞きまくる時間がとても必要になる。

「うん。辞めないね」

「辞められないんじゃなくて、結花自身が辞めたくないんだよね?」

「そう。辞めたくない」

「旦那さんの給料も相当高いだろうに?」

「それは関係ない。この前ね、憂さ晴らしに会社帰り一人でセリーヌの店舗をブラブラしてたの。そしたら長女の友達家族がどどっと入店してきたのね。面倒くさいけど、目があっちゃったからやむなく挨拶したわけ」

「うん。で?」

「『セリーヌかシャネルかどちらか、今日は主人にお財布買ってもらうの~♪』って奥さんが嬉しそうに私に言うの。その嬉しそうな奥さんを見て隣の旦那もまんざらでもなさそうな顔をして。でも私、その『買ってもらう』という感覚はどうしてもなじめなくて、やっぱり『欲しいものは自分で買ってこそだ』って思うわけ。だからその奥さん見ながら、私は一生働くんだとその時も強く思ったんだよね」
  • 植田真木(うえだ まき)43歳 金融会社勤続20年の管理職。「アラフォー独身女」でいることに疲れ、39歳で「可もなく不可もない男」と駆け込み結婚をしてみたものの…。

    ■Side1結婚してない側の女(全14回)を読む >
  • 谷原理沙(たにはら りさ)43歳 某有名ブランドのバイヤーとして、月の半分近くを海外で過ごす。後輩が次々と妊娠して産休に入るたび、「快く」送り出しているつもり、だけれど。

    ■Side2産んでない側の女(全15回)を読む >

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