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生きる為のお金は夫が稼ぎ、自分のお金で好きなものを買う?【小説・じゃない側の女~Side3あきらめない側の女 Vol.12】

【連載第12回】畠山結花(はたけやま ゆか)43歳 ゼネコン勤務の一級建築士。同業のハイスペック夫と2人の子供、瀟洒な一軒家。「すべてを手に入れて」順風満帆な人生を突き進んでいるように思われるが…。(全14回)
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あなたに噛みついてたの理沙だけど、あなたが噛みつくのは私なの? なぜに?
 
「結花ちゃんて何でも持ってるよね。甲斐性のある配偶者を大学のうちに見つけてリリースせずにちゃんと結婚して、とっくに家も建ててお子さんもいて、一級建築士の旦那様のお給料で十分楽しく暮らしていけるだろうに、それでもあえて自分も一線のキャリアを維持して、おそらくゼネコンカップルだもん、相当なダブルインカムっぷりでしょ? さっきの『すごいね』は谷原さんや真木ちゃんに言ったんじゃなくて、私むしろ結花ちゃんに言ったの。生きる為のお金はご主人が稼いでくれて、それこそ結花ちゃんは自分のお金で好きな物を好きに買えるんでしょ? すごいよね、同じ既婚者でも私とは全然違う。挫折のない人生を歩いて欲しい物なんでも手に入れて、多分結花ちゃんは母校の誇りで在校生たちの素晴らしいお手本となる先輩なんでしょうね」

なんなのこの人。中学高校時代6年通してまともに会話した記憶すらない人に、何十年ぶりにたまたま遭遇したらこの言われようって、これ一体何なの? 私が挫折のない人生? あなた、私の何を知ってるの? あなたに言う必要なんてないけれど、人間誰でも40年以上生きてたら挫折や心折れる出来事のひとつや二つや三つや四つ位あるに決まってんでしょ。

誰にも話していないけれど、私は大学時代、一度子供が出来たことがある。今の旦那の子だった。彼も私もまだ二十歳の時だった。両家の親を交えて相談した結果、建築の道を進むと決めて学んでいる二人にはまだこれから先の将来がある、その道を最優先させるならばと、その時はその子を産まないことになった。した、というより、そう決まった。

まだあの時の私は若くて幼くて、自分の意志でどうするとも、どうしたいとも、どうしようとも決めることが出来なかったから、大人たちが決めたことに従う以外に道はなかった。もちろん子供なりに真剣に悩み考えた。考えたけれど、あの時点の私に選択肢はまだそう多くなかった。

その時、彼は就職したら絶対結婚しよう、一生幸せにすると約束してくれた。そしてその言葉どおり、私たちは結婚した。でも須藤さん、あなたにはわからないでしょう。あの時自分の未熟さゆえに私の心臓の奥底深く刺さった棘の痛みは、可愛い子供が二人できた今だって一人ジンジン痛むことがあるってことを。

私はあの時「将来」を選んだ。そしてついた仕事がこの今の仕事なの。そんな簡単にやめるならあの時とっくにやめていたはず。若かったあの時の思いも、大人になり母となった今抱える思いも、その覚悟の度合いも、他人のあなたが知るわけないでしょう? あーもう面倒くさい。こんな人、席に呼ばなきゃよかった。早く帰ってくれないかな。これ以上意味不明ないちゃもんつけられるのはごめんだわ。
 
「さっき3人が話してるの聞こえちゃったの。結花ちゃん『この前ひとりでちょっとセリーヌぶらついてたら』ってサラリと言わなかった?『ちょっとセリーヌ』ってぶらつくとこなの? ちょっと本屋とか、ちょっとスーパーとかじゃなくて、ちょっとセリーヌ? うわ、お金ある人のセリフだなー感じ悪っ!て思ったの」

何がこの人の地雷なんだか私にはさっぱりわからないし踏んだ覚えなど全くないのに、どんどん勝手に爆発していく。そしてこの地雷女はとどめの一言を発した。
 
「ほんと何でも欲しがる女だな、腹立つって思って」
 
するとしばらく吠える理沙を押さえつけながら、須藤女史と私のやりとりを黙って聞いていた真木が、須藤慶子ではなく私の方を向いて言った。
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    植田真木(うえだ まき)43歳 金融会社勤続20年の管理職。「アラフォー独身女」でいることに疲れ、39歳で「可もなく不可もない男」と駆け込み結婚をしてみたものの…。

    ■Side1結婚してない側の女(全14回)を読む >

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    谷原理沙(たにはら りさ)43歳 某有名ブランドのバイヤーとして、月の半分近くを海外で過ごす。後輩が次々と妊娠して産休に入るたび、「快く」送り出しているつもり、だけれど。

    ■Side2産んでない側の女(全15回)を読む >

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