私の話を聞いて谷原さんがあきれた顔をする。まあ一部否めない。でもむかついたんだから仕方ないじゃない。
「須藤さんが部下の人達から聞いた話の中で一番の衝撃がデリヘルだったの? 社内とか取引先女性との不倫情報となんかは出てこなかったわけ?」
「あるわけないでしょ!」
「なーんだー、じゃあ…ねえ」
谷原さんは肩をすくめ、さして興味なし、といった顔になり、珍しく真木ちゃんも軽くうなずいていた。
「問題大いにあるでしょ? 私もうどうしていいのか」
「何が? 旦那とのレス? なら結花に聞いてみたら?結花はレスの先輩だもんね?」
「え!?結花ちゃんて…そうなの?」
私を警戒してか、私からは少し距離をとった椅子に座り、今はいつもどおりクールビューティー然としてゆったりおいしそうにシャンパンを飲んでいる結花ちゃんが、谷原さんの呼びかけに反応し、こちらを向いてニッコリ笑った。
「そだね、6年とか普通にあったし今も結構長いよ」
えーーーーーーっ!!! 何それ。平気なの? そんなので? 旦那さんも大丈夫なの? そんなにしなくて。
「だからうちのも何かしら風俗は行ってるんじゃないかな」
えーーーーーーーーっ!!いいの? それで、ほんとに一緒にいられるの? 嫌じゃないの? 悲しくないの? というのが全部もろに顔に出て伝わったのだろう、結花ちゃんは席を立つと私の隣に近づいて、ゆっくり話し始めた。
「『デリヘル』にしても風俗系全般にしても要するにプロ、つまり労働の対価としてお金をしっかり取る女性に夢中になる夫と、自分じゃない素人女性にどっぷりはまる夫、つまり世に言う不倫ね、の2択だったら、どっちがいい? どっちがイヤ?って話だとするじゃない?
元々男にはたまったから出したいという生理的欲求があるってことは言われなくても知ってるわけだから」
「え? ああ、う、うん」
保健体育か何かの授業が始まるような落ち着いた語り口調で彼女は続ける。
「うちの場合は、間違いなくプロで発散していると思うの。素人には手出ししていないはず。というのも彼も馬鹿じゃなくて、子供たちの父親として母親である私と協力しながらこの家族を続けていくことに異論はなさそうだし、それは楽しんでいそうだから」
「プロと素人…」
「須藤さん本当に離婚したい? もしね、“私はあなたとしたいのになんで私じゃない女性とやらしいことするの?!“とかっていう、実は悔しいし寂しいし納得いかない“嫉妬ライク”な気持ちがちょっとでもベースにあるなら、その間は勢い離婚しちゃうと後悔すると思うのね」
「あたしもそう思う。だって旦那とのHの相性が悪いわけじゃなくて、惜しいと思う気持ちがあるってことだもんね」と、突如カットインしてきた谷原さんも食い気味に補足する。
「でも本当に汚らわしくて気持ち悪くてむなくそ悪くて私にもう触れないで!位の勢いで生理的嫌悪感を覚える、つまり旦那さんとはもう絶対できない!と須藤さん自身が心底思うなら、次はその状態つまりこの先ずーっと『レス生活』でも『自分が』耐えられるかどうかがポイントであって、旦那がデリヘルに行くことが耐えられるかとか許せるか、とかいうのは実は論点がずれてるんじゃないかなって私は思うの。主語は『自分がどうなのか、須藤さんがどうなのか』で決めるしか納得感ないと思うのよね」
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