妻と夫から病人と介護人に変わりつつあるムードを何とかしたいと葛藤するケビ子。乳がん・ニューライフ (第23回はこちらから)
第24回は片付けをしてすっきり暮らしたい気持ちと人生は一度きりの思いで揺れ動く話。い、今は落ち着いてるんだからね!
末永く健康でいられる保証はないのだなあ、なるべくすっきりと物を管理して暮らしていきたいなあと思う気持ちが強くなり、使っていないものは躊躇なく処分してきた。
放射線治療が終わるのが昨年の11月中旬ごろ。このあたりでおかしくなった。
これで治療はひと段落となり、あとは定期的に診察、毎日の投薬治療と体調管理だな、という安堵感のところにクリスマス商戦きらめく限定お菓子やら、百貨店の華やかなポップアップの情報やらが次から次へと目に飛び込んできた。
そこで私を襲ってきたのは「人生は一度きり」思考であった。
病気になって人生が有限であることに気づいてしまった上に、おしゃれして出かける体力があるうちに欲しいものを買うことにダメなことがあるかい、と物欲を肯定する励ましワードが脳内にこだました。
放射線治療を終えるまではそうした思考はなく、いざという時の治療費を確保せねばならないだの、健康にお金を使いたいだのと優等生な思考でいたのだが。
あれも欲しい
これも欲しい
欲しいったら欲しいのだ!
ずっと憧れていたあのバッグ、あのブランドのアイコン的シューズ、クリスマス限定コフレ、もうすぐ値上げしますよと耳打ちされたダイヤのブレスレット。
こうして昨年末は何かにとりつかれたかのようにデパートに通い、何なら初年度は年会費無料だからとデパートのクレジットカードまで作ってせっせと売り上げに貢献してしまった。
人生は一度きり えーい買っちゃえ! チャリーン
人生は一度きり これも出会いだぜ! チャリーン
人生は一度きり ご縁があったのだ! チャリーン
こうして買物をする合理的な理由があるようでない状況で、都合よく脳内変換された物欲が爆発した。
夫に買い物をしたという報告はせず、帰宅してクローゼットの奥深くにしまい込む。
気が向いて使ってみるかと取り出すと夫に「バッグ買ったの?」と聞かれ「あなたと結婚する前から持っていた。セルフヴィンテージよ」という茶番を毎度繰り広げる。
「君は結婚する前に買ったものがとても多いんだね」夫は皮肉が得意である。
買ったものを使っているかって?
デパ地下で大量に買ったお菓子は食べきれず実家や義実家に持って行ったり、知人に譲るなどして何とか無駄にはしなかったものの、トータルで考えると迷惑でしかない。
バッグや靴も数回使って再び冬眠となっている。
「あああ、新しいものを買うのはたくさん。あるものを使って!あなたは素敵なものをたくさん持っているのよ!」すっきりケビ子がささやくが、デパートに行ってしまうと物欲ケビ子がにらみを利かせる。圧倒的に強い。
解決策はデパートに行かないこと。これに尽きる。
買って満足してしまったまま時が過ぎていく。
何をしているんだ、と思いつつもそれほど後悔はなく、まあ、そういうのもありだよね、と納得している。
病気になって不安な気持ちが長らく続き、鬱憤や不安な気持ちを発散させたかったのかな、華やかな気持ちになりたかったのかなと都合よく自己分析している。
幸い私にはブレーキも搭載されていたようで、今は落ち着いて、吟味しながら買い物を楽しんでいる。(買い物をやめていはいない)
同じ病気の方から「物欲が増えて困っている」と相談が来たこともあった。
おそらく私と同じ経緯なのかもしれないので「欲しいものは我慢せず自分を癒しながら、スピードメーターとブレーキが自分にあると信じてまいりましょう」と返答した。
乳がんとなって欠けゆく自分の何かを埋めるかのように美しいものへの執着が高まっていることを感じる、自分の知らない自分に出会った買い物狂エピソードである。
ご利用は計画的に。あちゃー
つづく
※次回【Vol.25】は12/9公開予定です。
治療等の条件はすべての方に当てはまるわけではありません
43歳で結婚、47歳で乳がん。
心配性の夫、奴さん(やっこさん)はなぜか嬉しそうに妻の世話を焼いている。Instagram(@kbandkbandkb)ピンクリボンアドバイザー(初級)資格保有