妊活中の後輩に言われて気付いたこと【小説・じゃない側の女~Side2産んでない側の女 Vol.4】

2017年6月12日
【連載第4回】谷原理沙(たにはら りさ)43歳 某有名ブランドのバイヤーとして、月の半分近くを海外で過ごす。後輩が次々と妊娠して産休に入るたび、「快く」送り出しているつもり、だけれど。(全15回)
確かに、結花のいうとおり、あたしはいちいち人の目を気にしたり人に何か言われて動じる女ではない。ずっと自分がこれだと思う道をいつだって歩いてきた。

例えばあたしが大学を出てから20年、この業界に居続けるのはやっぱり服が好きだからだ。若い頃は尋常じゃない量の服を毎月買っていた。最初に入ったインポートブランドのアパレルでは30%オフの社販よりさらに安く買えるサンプルセール時などに出来るだけ大量買いして、そんなにいつ着るの?と言われるくらいの服に埋もれて生活するのがとにかく楽しかった。結果、全く着ないで終わるものもたくさんあったし、高すぎて36回払いにして延々払い続けたり、基本給以上の支払いが続く月もたびたびあったけれど、この業界ではそんなことも珍しくなかったし、親や友達が何と言おうとあたしはそれでよかった。

多分給与面でいえば、外資のブランドに行ってからようやく世間様でいう人並みな給料をもらえるようになった感じなんだと思う。聞いたことがないからわからないが、おそらくいまだ真木や結花の足元にも及ばない額なのではないだろうか。都内の一等地に新築マンション買えるなんて!と真木にも結花にも相当びっくりされたが、実際のところあたしの手持ちなんて逆の意味でびっくりする位ほんの少しで、「親からの支援があれば、住宅ローンの返済負担がだいぶ減らせるらしいわよ!」と何も知らないあたしに代わり、あれこれ勉強してきたママが、「生きてる間に出来る限りのことはしておきたい」と、先行き不透明な我が子にそれはそれは相当な額をご支援くださってのこと。

ブランドで働くと仕事柄そのブランドの服しか着なくなるのでやみくもには服を買わなくなるが、また転職して違うブランドに行くとそれまでの服は、ほぼすべて着なくなってしまう。

40代になり、若い頃からの溢れんばかりの服たちの断捨離をはじめて思い立つも、絶対に着ることはないのに思い入れがある服が多すぎて、結局大半捨てられず、また倍の時間をかけて一人せっせとしまいこむ。そんな洋服とのわちゃわちゃした日々の中、バイヤーになると定期的にパリ、ミラノ、ロンドン、ニューヨークと、担当先にそこそこの頻度で出張に飛ぶことになる。滞在中は食事の時間も惜しんでデザイナーと商談をし、帰りの飛行機くらいゆっくりしたいと思っても、ほぼ皆が同じスケジュールで動くだけに同じ便に取引先の皆さんが大量に乗っていて、下手すると隣に座られて12時間一度も心休まることないまま帰国する…など体力には相当自信があるあたしでもやっぱりぐったりする位、アラフォーの体にはそれなりに多忙で過酷で、充実するも疲労激しい毎日の中、心静かに自分の体の物理的なタイムリミットとじっくり向き合って、子供を作るとか作らないとかできるとかできないとか、そんなこと考える余裕は全くなかった。…という自分にこれまで気づくことすらなかったという事実に、後輩からの喝をきっかけにようやく気が付いたというのが正しい。

「ねえ、何回も聞いちゃうけど、だから理沙は子供が欲しいの?」

疑問が解消するまで淡々と質問を続ける結花の声に、はたと我に返る。
  • 植田真木(うえだ まき)43歳 金融会社勤続20年の管理職。「アラフォー独身女」でいることに疲れ、39歳で「可もなく不可もない男」と駆け込み結婚をしてみたものの…。

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  • 谷原理沙(たにはら りさ)43歳 某有名ブランドのバイヤーとして、月の半分近くを海外で過ごす。後輩が次々と妊娠して産休に入るたび、「快く」送り出しているつもり、だけれど。

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