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目をかけた後輩がやっと成長したと思った矢先「妊娠しました」【小説・じゃない側の女~Side2産んでない側の女 Vol.9】

【連載第9回】谷原理沙(たにはら りさ)43歳 某有名ブランドのバイヤーとして、月の半分近くを海外で過ごす。後輩が次々と妊娠して産休に入るたび、「快く」送り出しているつもり、だけれど。(全15回)
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彼女は元々店舗勤務のスタッフだった。センスある女子がバイヤーになりたいと熱心にアピールしてくれば、ぶっちゃけ人にかまっている余裕なんてないほど本業で体力的にすでに限界ながらも、コーディネートや商品提案の企画書を1から教えて関連部署とのミーティングで彼女がプレゼンする機会を作ってみたり、自腹での買い付け同行をアレンジしてみたり、待っているだけではなかなかなれないバイヤーへの道を、おこがましいかなあたしに出来る限りのサポートをした結果、めでたくその枠をつかみとったのが彼女だった。

その後も若葉マークの彼女がミスをおかせば一緒に謝り、なんとか自力で動けるようになるまで褒めてなだめて背中を見せて、やっと育ってくれたかなーと思った矢先に、出た、妊娠しました。

もうこれまでに何人の後輩女子たちを産休育休に見送ってきたことだろう。そしてそのたび、ちょっぴり微妙な気持ちになる。

少子化の昨今、子供が出来るのは本当におめでたいことだと思う。命の誕生はすばらしいことだと、素直にそう思う。

でも、なんだろう。表立っては絶対口には出来ないが、小さな「だけどさ…」さざ波が発生することも否めない。

妊娠がわかると周りの女は手放しの「おめでとうモード」で大事に扱い全力で気遣ってあげないと、冷酷非道な邪悪女か何かに見られかねない雰囲気が濃厚に漂う。だから誰にもわからないようトイレの個室で小さく「なんだかな」と一人つぶやく。

あたしは産んだことないからわからないし、そりゃ出産は一大事だろう。命をかけた大仕事なんだから、ほんとにオオゴトだと思う。産んだことがないお前にわかるか!と言われるだろうが想像はできる。命をかけて出産に臨むあなたはほんとに大変だろう。けどね。と。残るこっちもそこそこ大変なんだよ。とも思うのだ。

あなたが戻ります宣言してくれている以上、産休育休は欠員とみなされない=その間増員も認められず、置いていかれた仕事は残る人間に当然「寄せられる」。妊娠もせず、入院するほどの病気にもならず、かろうじて半端に健康な「寄せられる側」のアラフォー子無し女(独身/バツイチ問わず)が、一番過労死する確率高いんじゃない? なんならいっそあたしも倒れて入院してみたいよ、なんて思ったりもするけれど、素晴らしいことに人間そんな簡単には倒れないようにできている。

「赤ちゃん産んだ後は結構忙しいと思うんですけど、産む前は自分の時間ですもんね。何しようかなー、ちょっといろいろ考えちゃいますねー。フラワーアレンジメントとか習ってみようかな。それとも今のうちだからセルフジェルネイルとかやっちゃおうかな。あー、なんか楽しいような不安なような、やだーこれからあたしどうなるんですかねー」と弾む声を聞くと、いやこっちが「どうなるんですかねー」だってばと思わず言いそうになる。 

「ここだけの話、私、出来るだけお休みは長めにとろうと思うんですよね。子供出来たってわかってすぐから、保育園調べ始めたんですけど、うちの地域、結構入るの大変みたいなんですよぉ。でも、もし保育園に入れなかったら、それはやむをえないですよね。今、長いこと休める制度になってるの知ってます?いい会社ですよねーうちの会社。この業界の割に福利厚生がいいからうちの会社にしたってのもあるんですよ、ほんと大正解です」

大正解、か。転職のたび、あたしだって福利厚生はちゃんとチェックしてる。確かに大事だよね。でもさ…。
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    植田真木(うえだ まき)43歳 金融会社勤続20年の管理職。「アラフォー独身女」でいることに疲れ、39歳で「可もなく不可もない男」と駆け込み結婚をしてみたものの…。

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    谷原理沙(たにはら りさ)43歳 某有名ブランドのバイヤーとして、月の半分近くを海外で過ごす。後輩が次々と妊娠して産休に入るたび、「快く」送り出しているつもり、だけれど。

    ■Side2産んでない側の女(全15回)を読む >

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