「あー須藤さん。乱れてるとか不潔とか不謹慎とか、普通じゃないとか軽々しくいちゃもんつけてくるのもやめてね。二股だとか三股してるんじゃないんだから。真剣に一人の男を好きになって、まっすぐ思ってその人が無茶苦茶好きでどうしても欲しくて一緒にいたいっていう気持ちは普通の恋愛と変わらない。ただその相手が既婚者だっていうことが法的には不貞とされるし、普通ではないとされる点なだけで。そしてその『だけ』こそが問題だってこともよくよくわかってるから」
「そもそもさ、素敵な男性はそこまでの男にどこかの女性が時間と手間をかけて育てあげた男なわけで、今から思えば、人さまが育てたいい男を育ったところからいただくなんて虫が良すぎるんだよね」
クリーンなイメージだった真木ちゃんまでもがそんなことを穏やかに言いながら笑ってるなんて、ちょっとショックなんですけど…。今日はいろいろ衝撃が大きい。なんか、くらくらする。
「自由と責任は表裏一体。自分がとった行動の責任は必ずどのようなカタチでもとることになるし、とらねばならない。それを私たちはとってきて、今に至るって感じ。だから須藤さん、あたしとか真木とか、泥沼・羅場の場数そこそこ踏んでる素人女を相手に、あなたみたいに守られるのが当たり前でこの歳まで生きてきた女がもし戦うとなったら多分しんどいでしょ?それと比べたらプロのデリヘル嬢なんて、そもそも闘う必要からしてないんだし、ほんと何も問題ないって!」
もしかして…あれ、谷原さん、不倫をおおっぴらに正当化しだしたのかと思ったらそうではなくて、この流れは、この人なりに私を励ましてくれているつもりなんだろうか? だとしたら、わかりづらいことこの上ない…。
「長く生きてると、女もそれなりにいろいろ歴史がありますってだけの話だからあんまり気にしないで。既婚者なんて面倒な人とは面倒なことはしないで済むならしないに限るって、道徳的見地からだけじゃなく実体験としてみんなもう切実にわかってるお年頃だから」
やや酸欠気味で茫然としている私に笑いかけながら、真木ちゃんは谷原さんの奇天烈なトークをさりげなくフォローしようとする。
「あ、ちなみに須藤さんはやめた方がいいよ、どんなに寂しくても腹いせでもよその既婚者と浮気するのは。だって、相手の奥さんに訴えられた時に慰謝料払えないでしょ? あたし達は払えるけど」
「やめなさいってそういう冗談は」
せっかくのフォローを無駄にしてさらにかぶせる奇天烈女を真木ちゃんはグーでぶって黙らせようとするが止まらない。
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