2021年10月29日

「特に不自由を感じないことが悩みです」【40代お悩み相談】

「ほかの誰かが害を被っているのでは？」という相談者さんに、みうらじゅんさんと辛酸なめ子さんが独自の視点で回答！

【今月のお悩み】不自由を感じないことが悩みです

特に不自由を感じたことがないのが、悩みです。（とはいえ、年下の男性にフラれてしまったのですが……）自分にストレスがないぶん、ほかの誰かが害を被っているかもと思うと、落ち着きません。「人生、山あり谷あり」と聞きますが、今、自分がどこにいるのかわからず、困っています。年を増すごとに、助言してくださるかたが減ってきて、不安です。
（東京都・ミク・40歳・自営業　趣味／映画観賞）

☆辛酸なめ子さんの回答

悩みを相談することで好きな人と親密になれたり友情が深まったり……悩みは悪いことばかりでなく、人間関係を深めます。この連載を通しても読者の皆さまとつながれた気がしています。今までありがとうございました！

☆みうらじゅんさんの回答

不自由やストレスがないのは、いいこと。「幸せキャラ」を強化していきませんか？

　ミクさんは、とても優しいかたですね。普通、「不自由を感じたことがない」のはラッキー！と思うものですよ。でも、ミクさんはそれを、まわりには悪いことだと思っていらっしゃるんですから。

　ただ、誰かに「ストレスを感じたことがないのが悩みなの」と打ち明けたら、おそらく相手はうんざりするでしょう。「イヤミな人」と反感を買うかもしれません。まあ、ご本人もそれがわかっているから、悩んでいらっしゃるのだと思いますけど。「そんなの、私の悩みに比べたら大したことない」と説教を受けるのもイヤですものね。一般的には、悩みは深ければ深いほどいいと認識されているようですから。世の中のたいがいのことは、人との比較で判断されるので、浅めの悩みを打ち明けられると「みんな、もっと深刻な悩みを抱えているのに」とイラつかせてしまうようです。

　本当は放っておくのが一番いいと思いますが、恐らく周囲の人たちも、ミクさんには大した悩みがないと思っていることでしょう。だとしたら、その期待に応えるべきではないでしょうか？　僕も、「好きなことばかりやってて、ストレスとかないでしょ」ってよく言われるんですがね、きっと他人にはわからぬストレス要因もあるとは思うんですよね（笑）。でも、ここはあっけらかんを装っておもしろキャラに変身、反論するより期待に応えたほうがミクさんのストレスにならずいいんじゃないかと思いますよ。

　以前、出演したテレビ番組で、ストレス度チェックというのをやったんです。僕は「ストレスがない人」ということで呼ばれているのがわかったので、チェック項目を見て、自分がそうは思っていないほうに○をつけました。そうしたら案の定、「ストレスゼロ」で、その場にいた人たちが「やっぱりね」って笑ったんですよ。その様子を見てこんなふうに喜んでもらえるなら、この先もずっと期待に応えていこうと。「意外かもしれないけど、実は私にも悩みが」と言ったほうが、まわりの人たちに親近感をもってもらえるかも、と思うかもしれません。しかし案外、人は意外なことを望んでいないような気がするんですよね。たいていの人は、その場が和む「思っていたとおり」を望んでいるんじゃないでしょうか。

　ミクさんの場合は、なかなか「不自由を感じない＝ラッキー！」とすぐには思えないかもしれません。でも、まわりの人たちとうまくやっていきたいのなら、やはりここは期待に応えるのが得策だと思います。　そのためには「不自由や悩みやストレスがない私＝おもしろい」と思い込んでみてください。思い込み続けているとクセになり、やがてそれがミクさんの新しいキャラになるでしょう。そうすれば自分を肯定できるようになるでしょう。おもしろいキャラであれば今後、まわりの人も、ミクさんと親しくなりたい、一緒にいて楽しいと思うんじゃないでしょうか。

みうら・じゅん●イラストレーターなど。「マイブーム」「ゆるキャラ」ほか多くのブームを生む。近著に『みうらじゅんの松本清張ファンブック清張地獄八景』（文春ムック）、『ひみつのダイアリー』（文春文庫）など
しんさん・なめこ●漫画家、コラムニスト。巫女的な感性であらゆる事象を取材。近著は『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後』『愛すべき音大生の生態』（ともにPHP研究所）など