初回の検査費用が高額で病気の不安と金銭的負担の不安が重なりブルーになるケビ子。
契約している保険の内容を確認して捕らぬ狸の皮算用をした。
乳がん・ニューライフ (第5回はこちらから)
第6回目はいよいよ告知。検査がスムーズに進まず病院への不信感がマックスとなり、不安定な気持ちは高まる一方だったが、さてどうなることか。
前回の診察で先生から打診された日程だったのに、6月24日の夕方に病院から電話があり、日程を変更して欲しいと言われた。
「針生検の検査結果が出ない、その為次の検査が変更となる。」受付スタッフから電話でそう言われた。
これはつまり、当初の予想よりも状況が悪いことを示唆しているのではないか。だから検査結果が出るのに時間がかかっているのではないか。それともたまたま同じ時期に同じ検査が殺到して処理がおいつかないのか。いやそもそも検査が殺到するなんてことがあるのだろうか。それとも優先度の高い急患が殺到したのか。
すんなりいかないことはご縁がないと思う性格が災いし、落ち込みが激しい。
しかしまだ結果が出ていない今の時点で、夫に弱音を吐いても仕方がない。
少しつまずくとまた検索熱が高まる。
針生検の結果が出ずCTの検査が遅れた人はいるのか。
検索ワードになんて入れようかと思案するが、欲しい結果が出てこない。
大江千里の名曲に「十人十色」がある。恋愛の歌だったが病気だってそうだろう。それぞれの乳がんのタイプとその人の体で10人いたら10種類と言えるくらい異なる症状なのだろう。従い、人の経験談はあくまでもその人のもので、仮に同じ症状、レベルであってもそこにその人の性格や体調や生活習慣が加味されてその人の症状となる。自分と全く同じ人がいるわけではない。そうわかっているのに見るのをやめられない。
仮に10人いて10人とも同じですよと言われようものなら、10人一緒にソフトクリームを食べて、同じタイミングでお腹を壊すのか、と問い詰めたい気持ちでいる。例は焼肉の方が良いだろうか。
ネット検索はほどほどにせねばなるまい。
日程変更を病院から言われることで不安定になり、病院に向かう足取りが非常に重く不信感でいっぱいになっている。
針生検の結果が出ないから、というのが変更の理由だったのだがそんなことあるのだろうか。決まった日程で決まった手順で検査は進むはずだろうに。自分が後回しにされているのか、手抜きされているのか、想像以上の深刻さなのか、涙が出るほど嫌気がさしていた。
15分ほどの距離を歩きながらこの病院で良いのか、先生は信頼できるのか、セカンドオピニオンはやはり必要なのではないか、そんなことを考えていた。気持ちも足取りも鉛のような重さを感じた。
私が住むエリアは病院がとても多い。
総合病院も徒歩圏にあり、車移動なら30分圏内には相当数の乳腺外科を有する総合病院ある。癌治療と言えばここ、という専門病院も通える距離にあるし、著名人が乳がんになるとコメント出す先生がいる全国でも有名な乳腺外科を有する総合病院も遠くない。有名病院に飛行機で通う人もいることを考えると恵まれた環境である。それゆえにこの病院で良いのか気持ちが非常に揺れた。
病院の比較サイトを見つけ、口コミ評価を見てみた。
☆5つが満点の評価で、わが病院は2.2であった。口コミ内容を見てみると、受付の態度が悪い、診察が簡単に終わった、そんな内容であった。
乳がんで有名な近隣の総合病院の評価は☆4.2で口コミも美辞麗句が並ぶ。
あちゃーである。
予約時間の少し前に到着し、受付を済ませる。
今日は診察がないので、いつもの乳腺外科ではなくCT検査をする放射線科に受付表を出して待合で待っていたところ、乳腺外科の担当医師が小走りで向かってきた。
「この前はごめんね~、検査の日程を変更して不安だったでしょ? 今日しっかりとCTで見るけども、病理検査で見る感じだと先日の診察で話た状況よりもオオゴトじゃなさそうで、がんはがんだけど、治療が難しいものじゃないと思うよ。そういう話を次の予約日、5日はできると思う。あとはほかの臓器に転移がないかCTとMRIで見るからね!」
わざわざ来てくれてケアしてくれた。嬉しい気持ちがこみあげてきて、悪態をついた。
「まったく! 生きた心地がしなかったですよ! でもひとまず安心しました」ケアしてもらえたことが単純にうれしかった。
先生は私の肩をポンポンと叩いてまた小走りで検査室に消えた。
その後、私も検査室に入って点滴針をつけ、検査の説明を聞いたあとCTの台に乗り、あおむけに寝た。先生もいる。
マスクをずらして顔を出し、胸元も出して万歳の姿勢で機械の音声ガイダンスに導かれるままに検査はすすむ。
「息を吸って、止めてください」
音声ガイダンスがこう言った。ここで息を鼻から吸うのか口から吸うのか疑問に思ってしまうが、鼻から吸って息をとめた。
このやりとりを2回ほどして、造影剤を流すと言われた。
先生がおそらく造影剤だろう液体を注射で患部に入れ、胸を揉み始めた。脇の転移を見るとのことで、これがなかなかの痛みであった。
「じゃ造影剤を入れますね」と言われた。何?では今までは造影剤ではないものが入っていたのか?と思ったが、確かに事前に言われていた体が熱くなるという反応はここで初めて体感した。あっという間にかっと熱くなるのだが、恥ずかしながらパンツのあたりがものすごく熱く感じ、「やや、これは粗相をしたのではないか」と検査の集中力を欠いた。生きておもらしの凌辱を受けた、と半ば確信した。
音声ガイダンスでもう2回ほどCT造影検査を行った。
初日の検査でぶっきらぼうだった乳腺外科のベテラン看護師もいつの間にかいた。先生が「フルサポート体制だな」と笑っていたが、本当にそうだ。看護師は起き上がるのをサポートしてくれ、タオルで丸出しのおちちを隠してくれ、起き上がるのを支えてくれた。
「ゆっくりと起き上がってくださいね」と検査技師に言われたが100%お漏らしをしたと思っていたので、恥ずかしかった。「漏らしちゃいました」と素直に言うか「何やら造影剤があふれたようです」としれっと乗り切るか。
おそるおそる検査台から起きて立ってみるとお漏らしはしていなかった。
人体の不思議を感じるとんでもない検査である。
CT検査前の放射線科の技師と雑談する先生の和やかな雰囲気といい、ぶっきらぼうながらヘルプで来てくれた看護師といい、この病院を信頼しない理由がなくなった。納得して体をゆだねようと決めた。
ネットの口コミ評価は自分が上げてやろうじゃないか、そういう気持ちになっていた。
CT検査の後、MRI検査を終えて、夫と合流した。
二人で診察室に入り、乳がんの告知を受けた。
まさかとやはりの間を行ったり来たりしていたが、やはりで着地した。
がんの程度を示す言い方として「ステージ」しか知らなかったが、ここで整理する。
乳がんの分類
〈組織型〉・・・がん組織の構造やがん細胞の特徴、がんの広がり方によって分類するもの。大きく非浸潤がん、浸潤がんに分類される。
〈病期(ステージ)〉・・・しこりの大きさやリンパ節の転移を調べてどの程度進行しているかを分類。
〈サブタイプ〉・・・乳がん細胞が持つ遺伝子の特徴で分類。
先生が見せてくれた一覧表にはサブタイプ分類が記載され、上からルミナールA、ルミナールB(HER2陰性)、ルミナールB(HER2陽性)、HER2、トリプルネガティブと書かれていた。
下に行くにつれて治療が複雑になるのだな、とざっくりと理解した。
ここに各人の進行度の速さなどを加味して治療方針を決める。
ステージ0、1と聞けば「あら早期発見で良かったわね」というわけではなくてステージ0で全摘する場合もある。
それを知ってから安易にステージで意見を言うのは金輪際やめようと誓った。
つづく
*次回【Vol.7】は3/11公開予定です
治療等の条件はすべての方に当てはまるわけではありません
43歳で結婚、47歳で乳がん。
心配性の夫、奴さん(やっこさん)はなぜか嬉しそうに妻の世話を焼いている。Instagram(@kbandkbandkb)