乳がん手術は体感時間約5秒。あっという間に終わって病室に戻ったケビ子。
乳がん・ニューライフ (第11回はこちらから)
第12回は術後のリハビリとシャンプー。当たり前にできたことがなかなか難しいのだよ!
これから病理検査で病期(ステージ)を見極めるとのこと。
術前の説明で主治医から「CTの造影剤が脇の一部でむむむという動きをしている。もしかしたら脇に転移しているかもしれない」と言われたが、陰性でほっとした。
コロナ禍となり、陽性陰性という言葉が日常に入り込んできたが、自分事となるとやはりおおよそのことは陰性がありがたい。
術後3時間が経った。看護師がやってきて「少し動いてみましょうか」と言う。
「え!もう!」と驚きながらも動ける気がする。トイレにも行きたい。
トイレは管を入れないことを事前に先生と相談した。個室にはトイレもあるし、自力で行けるだろうとのことで。起き上がる時に支えてもらえば問題なく、トイレも時間がかかりつつも自力でできた。
術後最初のトイレで青いものが出ると言われたが、用足しした後はブルーレットが流れたような状態となった。脇のセンチネル生検の際に薬液を入れるのだが、それが流れるのだそうだ。2回ほど青く色づいたトイレだが、その後は普通に戻り、胸元の青みもいつの間にか消えていた。
トイレの後、病棟を一周してみましょうと言われ歩いた。歩けた。すごい。頭がくらくらしたが、歩けた。くらくらするクララ。そういうイメージである。
逆説的に考えてみると、私のダメージレベルがそれほどのものだ、ということだろう。
部分切除されたおちちは高級メロンのようにネットで覆われ、大きめの絆創膏然のものが貼られた程度。包帯でぐるぐる巻きというイメージは払しょくされた。なんだこんなもんか。
母が60歳の時に乳がんを罹患した。ステージ3で右胸を全摘出した。
その時のイメージが強く残っており、手術後3時間で病棟を歩いたと母に電話で報告したらたいそう驚いていた。しかし私自身問題なく、リハビリ担当者も看護師もどんどん歩いてと言う。
意味もなく病棟をぐるぐると数周するという日課を朝昼晩とこなすことを決めた。歩いていると食事の献立表を発見したり、爪切りや散髪サービスがあることを知ったり、大部屋も満床ではないことがわかるなど、病院に詳しくなった。
献立表を読み、絶食した私の手術日のランチがすき焼きだったこともわかって、悔しさを夫に電話で報告した。
頭がとてもかゆくなってきた。
入院日の朝にこれでもかとukaのケンザンブラシで頭皮マッサージはしたものの、真夏である。さすがに生きている限り代謝がないわけではなく頭がかゆい。
スーパーモデルブームだった二十数年前に欧州の国に住んでいた期間がある。
英語圏ではなかったので、たまにイギリスに行くことがあると雑誌を買うのが何よりも楽しみであった。
Vogueだったかなと記憶しているのだが、当時人気絶頂のスーパーモデル、シンディ・クロフォードに100の質問的な特集が数ページにわたって掲載されていた。100の質問のうちの一つが今も強烈に印象に残っている。
「ところでシンディ、シャンプーは週に何回?」こうした質問であった。
スーパーモデル相手に週に何回シャンプーするのかを聞くってどういうことだ、洗髪は基本的にお風呂に入る回数とイコールではないのかと思う日本人である。
シンディはこともなげにこう答える。「そうね週に3回か4回ね」と。
オウ!シンディ!
乾燥した国で暮らしているならそれもありだろうが、当時の私にはたいそう驚いたインタビュー記事であった。
今回の入院手術で髪を数日洗えない環境が再びシンディのインタビューを思い出させた。
そうだ。私は今シンディなのだと。
手術をするのだから手術日から髪を洗えるわけではないと分かったうえでのukaのケンザンブラシシャンプーなわけだが、やはりくじけそうになる。
異臭を放つ有機体に磨きをかけていないか、看護師に迷惑をかけていないか。
手術の影響を受けていない右腕を駆使して耳の後ろや首、頭皮をお湯で濡らしたタオルでマッサージしながら拭き上げる。仕上げにドライシャンプーの登場である。家族の入院の経験からドライシャンプーがあると良いことはわかっていたのだ。
さて、調べてみると結構なラインナップがあるドライシャンプー。
ある程度濡らすタイプからかゆみと匂いをある程度軽減させるパウダータイプまで選べるラインナップである。
震災で避難経験者の女性の多くが口コミで勧めていた「スティーブンノル」のドライシャンプーが良さそうだと買ってみた。サイズは2種類あり、小さい方を購入。ドライシャンプーの前にアヴェダのパドルブラシで何度もブラッシングをし、思ったよりも多い抜け毛にひるみながらパウダーをスプレーし、またブラッシングした。おや、これは応急処置的には全然ありだね、という爽快感である。
主治医が昼過ぎに病室に来て(毎日朝昼夕と必ず来てくれたが)脇から胸の幹部を覆っていた透明な養生テープのようなものと、おちち包んでいたを高級メロンのカバーのようなあみあみカップを外してその場にいた看護師に「今日か明日シャワー浴びさせてあげて」と指示。
「え!もうシャワーオッケーなの?」と驚く私。
これはありがたいと先生が去った後で看護師に今日入りたい旨伝達してドレーン一式の防水カバー(ビニールでくるむ)をしてもらいいざシャワーへ飛び込んだ。
しかし、このドレーンをなるべく濡らしてはならないと思いながらのシャンプーは体を曲げながらの姿勢が長引き、さらに久しぶりのシャンプーは全く泡立たない上にかゆみもなかなかひかず、結果としてシャワーの後でぐったりしてしまった。
同行してくれた看護師に「仮にこのドレーンが濡れたとしたら婦長から往復ビンタされたりするんですか?」と聞いてみたら爆笑された上に「そんなわけないですよ。いつの時代ですか」と返された。
逆にいつの時代にその程度の粗相で往復ビンタなんてあったのだろうかとこれ以上のブラックジョークは控えようと心に決めた。
シャンプーはそういうわけで、中腰のため両手を何とか使え、ドライヤーもいつもよりも時間がかかりながらも無事乾かして完了。頭もすっきりしてやはり気分が良かった。
シンディとスティーブンにひとまず感謝。
シャンプーはこの際、試してみたかったシャンプーのサンプルを持ち込んだが、袋状のシャンプー・コンディショナーは袋を切るのも難儀だし、シャワー室内にゴミ箱もなく不便であった。ミニボトルを持ち込むか、割り切ってリンスインシャンプーが正解だろう。ドライヤーは自宅から旅行用を持ち込んでいたが、病院がイオニティのドライヤーを貸してくれ、それを使った。
蛇足だが、湯沸かしポットも持参し、看護師に「この部屋、なんでもありますね」と驚かれた。
シャワー室は掃除の時間が決まっており、神経質な私は掃除後すぐの利用ができほっとした。
つづく
*次回【Vol.13】は6/10公開予定です
治療等の条件はすべての方に当てはまるわけではありません
43歳で結婚、47歳で乳がん。
心配性の夫、奴さん(やっこさん)はなぜか嬉しそうに妻の世話を焼いている。Instagram(@kbandkbandkb)ピンクリボンアドバイザー(初級)資格保有
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