最近、頭もワキも汗ダクダク。色の薄いグレースーツの日なんてもう!【小説・じゃない側の女 番外編~汗が止まらない側の女 Vol.1】

2018年9月29日
【連載第1回】好む好まざるにかかわらず「じゃない側」からはそう簡単に抜け出せない。すべてのアラフォー女性に送るWEB連載小説の番外編『汗が止まらない側の女(Side真木)』
グラスの水
版権:Naviya /Shutterstock.com
「あーもう、9月も終わりだっていうのに、なんでこんな暑いのよっ! 見て、この滝のような汗!」

柔らかそうなブラウンの髪をかき上げ、うなじから首筋に流れる汗をぬぐう理沙。いまにも鎖骨にまで流れようかという汗が、妙になまめかしい。

「理沙、まさか走ってきたの?」

到着するや否や、カウンターに無造作に放り投げられたボッテガのチェーンバッグを、私は思わず反射的に拾いあげる。

「そうよ。結花は遅れるっていうし、真木は先に飲んでてって言っても、誰かが来るまで絶対待つからさー。時間どおり行かないと!って、なんか焦るわけ」

私の手からグラスを奪い取るようにして、キンキンに冷えた氷水をごくんごくんと一気に飲みほす理沙の耳元には、バッグと同じ鮮やかなターコイズブルーのピアスが揺れている。

この、ふっくら唇がセクシーな、アンジー似の濃い目美女、見た目の圧とはウラハラに、中身はなんだかんだで義理堅く、心遣いの女だったりする。

「あたし今までそんなに汗かく方じゃなかったのに、最近じゃ、ちょっと走ったり、急いで階段駆け上ったりするだけで、頭皮の毛穴という毛穴からもう滝のように吹き出して止まらないのよ。ねえ、これってまさか更年期? まさか、あたし変なにおい発してないよね? 大丈夫?」

「大丈夫。理沙からオバ臭がしてきたらすぐ教える」

「お願い。じゃ、真木から妙なニオイがしてきたら、あたしが教える。お互い助け合って、くさオバ化は避けようね」

……なんて言う理沙は、クサイどころかいつも“いい女の匂い”がする。彼女はいつも、その時々の気温や湿度、その日の体温や気持ちにあわせて、いくつもの香りをレイヤードし、“自分オリジナル”に仕上げてコーディネートする。それは、これみよがしに香りを「つけている」というより、ごく自然に「まとっている」という方がしっくりくるような、なんとも色っぽい香り方で、動くたびにふわっと漂うその香りは、間違いなく彼女の魅力を格上げしている。

「理沙、今日は何?」

「時間なかったから、適当に。ジョー マローンのブラックベリーとライム……だったかな? 覚えてない」

いまだにオードトワレ、オードパルファム、オーデコロン……それらの違いすら正しく覚えられない私は、香りの重ね方に自信がない。だからバームやオイル、ボディクリームを一人でひっそり、自分のためだけに楽しんでいるけれど、本当は理沙のように、すれ違う人が思わず振り返ってしまうような“匂いたついい女”に憧れる。

「ねえ、これで冷房入ってる? ああっ、シーリングファン止まってるし! ちょっとマスター、猛烈暑いんだけどーっ!」

遠くで接客中のマスターに向かって、容赦なくぶんぶんと手を振り天井を指さしてみせると、「あーもう暑いっ!」と文句をたれながら、理沙は、長い髪を手際よく持ち上げ、メタルのクリップひとつで、あっという間にいい感じのアップスタイルにしてみせた。

「ふわっとトップでゆる~くまとめた」この感じは、どこから見てもイケてるオサレなお姉さん。この人みたいに、わずか30秒で“こなれ感”と“抜け感”を醸し出す女と、同じゆるおだんごにしても、なぜかちょっと疲れた“ひっつめおばさん”風になっちゃう残念な女との違いは、何だろうな。

「ねえ、涼し気な真木と並んでると、汗だくのあたしがちょっとおかしいみたいじゃない? 真木ってなんか昭和の映画女優みたい。わたくし顔に汗は絶対かきませんの、みたいな」

「そう? でもココだけの話、私も顔以外はダクダクだよ」

「何、ダクダクって」

「ワキ汗。ワキはもうすごいの。取引先にプレゼンしたりすると、無意識のうちに相当緊張しているのかな、びっちょりになる。色の薄いグレーのスーツ着て行った日なんて、最悪だったよ。プレゼン終わってトイレ行って鏡見たら、両ワキにまん丸のおーっきな濃いシミがくっきり出来てて、うわ!って、思わず声出しちゃった」

「クールビューティーの真木がワキ汗って、おじさん達むしろ萌えたんじゃない? プレゼンの中身なんて聞いてなかったかもね」

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