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別れた旦那からの連絡に、思わず“チッ”と毒づきました…【小説・じゃない側の女 番外編~現役をおりない側の女 Vol.4】

【連載第4回】好む好まざるにかかわらず「じゃない側」からはそう簡単に抜け出せない。すべてのアラフォー女性に送るWEB連載小説の番外編『現役をおりない側の女(Side結花)』
別れた旦那からの連絡に、思わず“チッ”と毒づきました…【小説・じゃない側の女 番外編~現役をおりない側の女 Vol.4】_1_1
版権:Dasha Petrenko/Shutterstock.com
そして須藤さんは、席に座ることなくそのまま私たちの背後にすっくと立ったまま、大好きな真木についてさらに熱く語り出す。

「真木ちゃんはね、いわゆるセコイこととか、ガラ悪いことはしないイメージなの」

「セコイって? 例えばどういうこと?」

「例えば、デパートの閉店間際に、地下の食品売り場に行くとします。そこに、定価300円とか400円のおにぎりを閉店近くなると一律100円で売ってくれるおにぎり屋さんがあるんだけど」

須藤さんは、両手でおにぎりを握るポーズをしながら続ける。

「私は鮭とたらこが食べたいのね。なのに、つい食べたくもない米沢牛入りおにぎりとか、大海老天ぷら入りおにぎりください!って言っちゃうの。なぜってそれが一番元値が高くて、一番得した感があるおにぎりだから。食べたいのは鮭とたらこなら、それ買えばいいのに、セコッ!て自分でも思うんだけど、いつもそうしちゃうの」

「それはあたしもやるわ」

「だから、谷原さんはそういうセコさあっても不思議はないの」

「ちょっと! 真木だってあるわよ。ねえ?」

「うん。わかる。お得感が一番あるものを、食べたくなくても、つい買っちゃうってことはあるよ。ある」

「え! 真木ちゃんもあるの? そういうこと真木ちゃんはしないと思ってた……」

「真木をなんだと思ってるんだ?」

「あと“チッ”とかガラ悪く毒づいたりもしないイメージ」

「いやいや、真木だって同じ人間だから、毒づくことはあると思うよ。口には出さなくても心の中では。ね?真木」

「普通にあるね」

「ほんとに? 真木ちゃんある? 例えば? どんな時?」

「例えば、既婚の男友達が深夜2時とか3時近くにメールとかLINEを平気で送って来ると、ちょっとイラってするかな」

「どうして? 寝てたのに、起こされるから?」

「こら専業主婦。違うよ。真木、あたし、それわかるわ。チッなめやがって、ってことでしょう?」

「理沙のその表現はちょっとガラ悪過ぎだけど、解釈はあってる」

「だって、既婚の女性相手だったら、そんな深夜の時間帯に送ってこないもんね。こいつなら、この時間に送っても大丈夫。返事もできるだろ、大丈夫だろ、独身だし、的な読みが透けて見えるってことだよね。あと出張の時だけ、宿泊先のホテルから連絡してくる男にも、あたしはチッて思う。普段は連絡してこないくせに『急な出張になって、今回はドコドコの何々ホテルに泊まるんだ』とかって自然を装って連絡してくる男にも、軽くイラッとする。あたしはデリヘルじゃないっての」

「理沙」

「あ。そっか」

一瞬ヒヤッとしたが、真木のさりげない静止の意味に理沙が気づき、それ以上デリヘルトークを盛らなかったおかげか、須藤さんを下手に刺激することなく、ここは通り過ぎられる模様。

「だからね、そうやって谷原さんが男性に“チッ”ていうのは全然びっくりしないんだけど、真木ちゃんが“チッ”ていうのはイメージがないんだよね……」

「せっかく私を好感度高めに見積もってくれる須藤さんの前で言うのもなんだけど、普通に“チッ”って思うことあるよ。この前なんて、別れた旦那から連絡が来てね」

「へー、何? もう再婚しましたって?」

さっそく理沙が真木に、軽く無神経な突込みを入れる。

「いや、それならまだいいんだけど、私にお金を急ぎ振り込めっていう連絡だったの」

「やだ、何のお金よ」

「二人で借りていた家に、離婚が成立する前の数か月、私一人で住んでたでしょ」

「そうだったね。現実逃避したまま、あなたの旦那さん、しばらく帰ってこなかったもんね」

「そうそう。その数か月の間、私が家賃を全額払っていたわけなんだけど、一回だけ引き落とし日を間違えて入金が遅れちゃったのね。だけど、引き落とし日に残高不足だと自動的に融資される口座だったから、支払自体は問題なかったし、融資されちゃった額は気づいて割とすぐに、私返済したのね」

「じゃあ、問題ないじゃん」

「ただ自動融資された時に、ほんの少しの期間とはいえ利息が発生してたらしくて」

「やだ、いくら?」

「108円」

「は?」

「そうなの、私も金額見て『は?』って思ったわけ」

「何? 元ダン、その108円を真木に払えって?」

「うん」

「その人、大丈夫?」

「請求明細の写メとって、明日すぐ銀行行って振り込んでってメール書いて連絡する手間を考えたら、108円、自分で払っちゃわない?」

「あたしなら1080円でも払っちゃうわよ」

「でも彼曰く、真木が一人で住んでいた時の自動融資の利息だから真木が払って、って」

「言葉が無いわ」

「『だからあなたは大成しないんだよ!』って、さすがに思いっきり毒づいちゃった」

「心の中で?」

「いや、口に出した。家でスマホ見ながら思わず『はあ? 108円振り込めだぁ? なんだ? それ』っておっきな声、出しちゃった」

「須藤さん、お聞きの通り、あなたが大好きな真木さんも、ガラ悪く毒づくことはあるようですよ」

「うーん、でもそれは……仕方ないよね。今の具体例だと、その気持ちわかっちゃうからなんとも……」
 
困ったように苦笑する須藤さんに、なぜか勝ち誇った顔の理沙がガッツポーズを見せつける。

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