
「真木、あの奥の席の二人って、夫婦だと思う? それとも親子だと思う?」
「誰?」
「あのアンテプリマのワイヤーバッグの女性」
「ああ、あのイントレッチオのマダムさん?」
「女性は50代でしょ?でもどう見ても男子30代だよね、マダムと座りながら恋人繋ぎしてる男子」
「あの年の男子が母親とあの手の繋ぎ方しないよね? ってことは……ホスト君とお客様か、それとも『道ならぬ恋』系かなあ?」
「やっぱりそうか。実はさ、あたし、同じ道ならぬ系でも“おじさんと若い女子”より “おばさんと若い男子”ってペアリングには嫌悪感が湧くのよ」
「なんで? うらやましーっていう感情が入るとか?」
んなわけないでしょ、と理沙が真木の頭を即座にペシっとはたく。
「もし不倫だとしたら……の話だけど、そういうのはやるならもっと若いうちにやっときなさいよって思っちゃうの。勝手な私見だけど、女は歳とともに自分なりの品を高めていく生き物だと思いたいのよね」
「理沙って奔放な見た目の割に、変なとこコンサバ思考だよね。そのアンバランスさが面白いんだけど。……というか、見た目だけじゃなくて、実際理沙ご自身は、そこそこ奔放に生きてきたよねえ?」
と真顔で突っ込む真木に、そう見せて、これでもまあまあしっかり考えてるの!と理沙が言い返す。
面白いので、しばらく静かに二人のやりとりを見守る。
「じゃあ理沙。アラフォー女子が、さらに年上のアラフィフ、アラ還男性と『道ならぬ恋』に落ちるのはどうなの?」
「若い男子のエキスを吸い取るおばさんよりは、年上のおじさまに寄り添うおばさん、ってほうが、印象としてエゲツナサは少ないかなあ……比較論だけど。ああ、言っとくけどこれは『道ならぬ恋』の場合よ」
「じゃあ不倫じゃない、何も問題ない恋愛だったらどうなの?」
「それはもうなんでもありよ。お相手がどれだけ年配の男性だろうが若い男子だろうが。女は50になったって60になったって、いつでも絶賛恋愛中です!って、いいと思う、素敵よね」
「賛成。ちなみに理沙は今、絶賛恋愛中なんだっけ?」
「あたしのことより真木でしょ。離婚して1年以上経って、そろそろ、ひからびてきたわよねえ」
「ひからびたとか言わないでくれる?」
「誰かいないの?昔は途切れたことなかったじゃない。男」
「それは35までです。35過ぎたらいきなりもう凪みたいにピタッと……」
「凪! 笑える」
「笑えない」
「でも一回は結婚したから、籍入れたい! 結婚したい! しなくちゃ! っていうあの呪縛や強迫観念からは、解放されたわけでしょ?」
「うん。憑き物が落ちたかのように、今は全くない。ただ普通に、男友達以上の存在は欲しいかなあ。たまに切実にそう思うんだよね」
「それわかる。いつもじゃなくて、たまに無性に思うよね。ちなみに最近いつ思った? あたしこの前、宅配ボックスにダース買いしたペットボトルのボックス置いてかれて、上層階の自分の部屋まで死にそうになりながら運んだ時に、あー彼がいたら軽々と運んでくれるのに悲しい、って思ったわ」
「私は、この夏の土用の丑の日だな。たまに行く老舗のうなぎ屋さんに夕方頃、一人で入った時ね、ああ、一人でお店入って食事すること自体は勿論大丈夫なの。そのうなぎ屋さん、夕方頃ってご飯時過ぎてるからいつもはねらい目の時間でほどよく空いているのよ。でもその日はなんと近くで花火大会で、私が入ってちょっとしてから『美味しいウナギを食べてから行こう!』って感じのご夫婦や浴衣姿のカップル、ファミリーが続々と押し寄せて、店中が今から行く花火に心躍らせる人たちで溢れたわけ。みんなもうワイワイワイワイすごいのよ、盛り上がりが。そんな中、ポツーンと、ああ、この店の中で私だけが一人だ……って思ったら、山椒ふりかけながら不意に猛烈に寂しくなっちゃって」
「うなぎの味もわからなくなるわな」
「うん、あれは寂しかったなあ。あー私今、花火一緒に行く人もいないし、うなぎ一緒に食べる人もいないってことか……って」
「真木、代々の彼と必ず夏は花火大会行きまくってたもんね。そりゃずーんと来そうだね」
「うん、来た」
「仕事で忙殺されて、家と会社往復してる時は気づかないけど、そういう油断してる時にずーんと来ることあるの、わかるわー」
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【Vol.1】受験、就活、婚活、妊活。どれもゴールだと思ったものは、必ず何か次のスタート
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- 登場人物 -