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思わずこらえていたものがこみあげて、無意識に両目からツーっと涙が…【小説・じゃない側の女 番外編~恥じらいを忘れない側の女 Vol.1】

【連載第1回】好む好まざるにかかわらず「じゃない側」からはそう簡単に抜け出せない。すべてのアラフォー女性に送るWEB連載小説の番外編『恥じらいを忘れない側の女(Side慶子)』
思わずこらえていたものがこみあげて、無意識に両目からツーっと涙が…【小説・じゃない側の女 番外編~恥じらいを忘れない側の女 Vol.1】_1_1
版権:Baimieng/Shutterstock.com
「ねえ須藤さん、旦那、いいの? だいぶ一人で待たせてる気がするけど。大丈夫?」

谷原さんが、心配してくれる。

彼女は見た目も発言も、どちらも迫力ある美人だけど、中身はとても優しい人だということが、今はわかる。

セーラー服時代は、彼女の発する「美しい圧」と「大きな声」は、恐怖だった。

中高在学中の6年間、挨拶以外ほとんど話したことがない谷原理沙さん、畠山結花ちゃん、植田真木ちゃんの3人組。 

もう1年半くらい前だろうか、卒業以来はじめて、このお店で偶然会って、40過ぎてもなお、それぞれに輝くばかりの3人の仲間にいれてもらえた時間が、自分でも予想外に嬉しくて、楽しくて。

なのにあの日、誰にも連絡先を聞く勇気がもてないまま帰ってしまったことを、あのあと何度後悔しただろう。

また会えたらいいなあ、会えたら聞いて欲しいことがあるんだよなあ……と思っていたら、なんと今日!

カウンターに彼女たち3人の後ろ姿が見えた時は、自分でも予想外に、嬉しくて猛烈にテンションがあがった。

この前は、あちらから話しかけてもらったから、今日は絶対に私から話しかけよう。あまり、“また会えて嬉しいです感”を出し過ぎず、どこまでもナチュラルに、自然に声をかけるんだ。
 
彼女たちに話しかけるシーンを想像しただけで、いつものピザがいつもの数倍、美味しく感じた。
 
もし会えたら、話したいと思うことが、いろいろあった。真木ちゃんなら、結花ちゃんなら、谷原さんなら何て言うだろう、言ってくれるだろう……と思うことが、あの後、こんな平凡で地味な私の日常にもおきていた。

「須藤さん、どうかした?」

谷原さんに続き、今度は結花ちゃんが気にしてくれる。

「そうだ、旦那さんも、こっちに呼ぼうか」

と言うや立ち上がり、旦那を呼びに行こうとしてくれる真木ちゃんの腕を思わずぐいっとつかみ、

「だ、大丈夫っ!」

思わず、自分でもびっくりするような大声を出してしまった。いつもとは明らかに違うその声のボリュームに、3人そろってギョッとした顔で私を見た。

「どうした?」

「か、彼は待たせても、大丈夫。ちょっと……あって、今は彼、私が何しても、何も文句言わないと思うから」

「えーっと、それは……なんかあったのかな?」

いつもながら思いやりある接し方で、優しく問いかける真木ちゃんと、隣でニッコリ微笑んでくれる結花ちゃんを見て、思わずこらえていたものがこみ上げて、無意識に両目からツーっと涙がこぼれた。

「やーだー、今日はあたし泣かせてないわよーっ」

谷原さんが叫び、結花ちゃんと真木ちゃんがクスクスと笑う。

あー、この感じ。そうだ。この人たちのこの感じ。

「喧嘩でもした? さっきあたしらが見た時は、正直ひくくらいラブラブな感じで二人見つめ合って、そんな美味しいか?っていうくらい幸せそーにピザ食べてるように見えたけど?」
 
谷原さん、それは違います。もし私が嬉しそうに見えたならそれは、ラッキーなことにあなた方3人を見つけて、話しかけるタイミングを妄想し、興奮して舞い上がっていたからで、決して、旦那にうっとりしながらピザを食べていたわけではありません。

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