自分ひとり好き勝手に生きてりゃ、誰からも感謝なんてされるわけない虚しい人生?【小説・じゃない側の女 番外編~ご機嫌悪くない側の女 Vol.2】

2018年12月16日
【連載第2回】好む好まざるにかかわらず「じゃない側」からはそう簡単に抜け出せない。すべてのアラフォー女性に送るWEB連載小説の番外編『ご機嫌悪くない側の女(Side結花)』
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「それにくらべて、わたくし谷原理沙、44歳独身。夫なし子供なしバツなし」

「都内にマンションあり、仕事ありキャリアあり収入あり多くの部下持ち。表現の仕方はいろいろあるでしょう?」

「それはそう。何も持ってないわけじゃないけど、でもだからって何かを持ってる気もしないのよね。どちらかといえば、家と仕事が無くたって、夫や子供、家族を持っている人の方が、生き方として豊かに思われがちじゃない?」

「誰に?」

「世の中の皆さま的に」

「そう? それに気になる? 理沙、世の中の皆さまがどう思うかなんて、今更気にすることあるわけ?」

と、私が理沙に問いかけたその瞬間、シルバーグレーのおじさんが、まさに私たちの席のすぐ真後ろで、ガタガタガターン!と凄まじい音をたて前のめりに転んでいた。

酔って激しくつまずいたと思われるその男性は、床でスネをさすりながら、低い声で「うううっ」と痛そうにうめきながら、うずくまっている。

「大丈夫ですか?」

とっさに駆け寄った理沙の声に、あぁん?と、ややガラ悪い感じで反応したその男性は、明らかに良くない酔い方をしているのがわかるとろーんとニヤついた顔つきで理沙を見上げて言った。

「あんたらさあ、こんな時間まで飲んでてお気楽だねえ。独身? ああ、待ってる人が誰もいない寂しいお姉ちゃんたちか?」

勢いよく転んだ割にはっきり話す様子を見て、頭は打っていなさそうだとわかると、
「立てます? そこ、後ろも段差あるんで、気を付けてください」と声をかけ、理沙はそっとその場を離れようとした。が、その男はいきなりぐいっと彼女の腕をつかみ、大声で続けた。

「お姉ちゃんさあ、こんなとこでちゃらちゃらちゃらちゃら飲んでていいのかあ?」

その出だしの一声から、ああ、一番近づいちゃいけない酔っぱらいの類だと、理沙も私も即座に察したけれど、もうその時には、がっちり腕をつかまれた理沙は身動きをとることが出来なかった。

「女はさあ、女はね、ちゃんと結婚して子育てをするべきなんだよ。だって、お母さんにならなかったら、みんなが子育てしている間、あんた代わりに何するの?若いうちはいいよ。なんだっけ? あのインスタ?とかいうやつに、あっちこっち面白おかしく旅行した写真とか載せちゃって、華やかぶってさあ。でもそれ、ほんとに満たされてる? 虚しくない? だってそんな体験も、経験も、子供産まなかったら引き継ぐ相手いないんでしょ。あははー、そりゃ寂しい話だなあ」

理沙はつかまれたままの腕をふりほどくことなく、じっと黙って、酒臭い息を振りまき絡むシルバーグレーの酔っぱらい男のいちゃもんを聞いている。

「あんただって、お母さんに産んで育ててもらったんでしょ? だったらそれ、今度はあんたの番でしょ? 産んで育てなくていいわけ? 何年も何年も長い時間、自分よりも大事に慈しんで育てて育って、その結果ずいーぶん経ってから、はじめて子供に心から『ありがとう』って言われるわけよ、世のお母さんたちは。命のバトンを命がけで渡してくれたことへの感謝をしてもらって、それではじめてじーんと喜んで、しみじみと自分の生きてる人生に満足感を覚えるわけでしょ。それをあんた、自分ひとり好き勝手に生きてりゃ、誰からも感謝なんてされるわけねーんだから。そんなの虚しい人生じゃんねえ、そう思わない? お姉さんよお。こんな時間までお友達と楽しく食って飲んで、だけど最後には誰からも感謝してもらえねえ、虚しくて寂しい人生なわけよ、あんたたちはさあ!」

徐々に大声になっていく男の怒声に気付いたマスターが遠くからあわてて駆けつけると、私たちに「悪いな」と小さく手を合せ、ひとり耐えていた理沙の頭をポンポンと優しくたたき、酔っぱらい男をずりずりと回収していった。

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