![受験、就活、婚活、妊活。どれもゴールだと思ったものは、必ず何か次のスタート【小説・じゃない側の女 番外編~ご機嫌悪くない側の女 Vol.1】_1_1](https://image-hp.hpplus.jp/q=85,f=webp:auto/org/3a/3a64426a3d4d552c7474eca4080e2303_700x467_w.jpg)
送りがてら挨拶しにいった真木と3人で談笑するその姿を、フロアを挟んだ遠くから、私と理沙はじっと見つめる。
理沙が言う。
「初恋の相手が初Hの相手で、結婚相手で子供が出来るってすごくない?」
「ほんとね」
「生涯、Hする男性が1人っていうのは、惜しい気がしないでもないけれど」
「その1人が抜群にあう人だったら文句なしよ」
「1人しか知らなかったら、比較のしようがなくない?」
「比較なんてしなくて済むならそっちの方がいいの」
「結花の旦那さまは?」
「結婚相手は、そちらの相性だけで決めるわけじゃありません。私のことはいいのよ」
「44で自然妊娠。やるね、須藤女史」
「そうね」
「高齢出産」
「うん」
「産む前からちょっと大変そうだけど、無事に産んだら産んだで、その先も“子育て楽ありゃ苦もあるさー”が続くわけでしょ」
その通り。言うまでもなく、産んでからの方が比較にならないほど大変だ。
壮絶な痛みに耐えて、出産という大仕事を無事に終えたというのに、その成し遂げた達成感や余韻、感慨にゆったり浸る余裕もないまま、産後すぐに始まる授乳やおむつ替え、沐浴に寝かしつけに夜泣き対応……。一生続くわけなどなくても、その時は、この過酷なしんどい時間が一生続くような気がして、発狂しそうだった新生児育児の日々。
自分で言うのはおこがましいけれど、幼い頃から成績優秀、何ごとも段取りよく計画的に確実にクリアしてきた私が、こと子供に関してだけは、破格に次元が違うダントツの「思い通りに行かなさ度」を、生まれて初めて経験することになった。どうやってもまだ意思疎通の出来ない命ある生き物と向き合うことなんて、なかったから。
2人、産んで育てて、しばらくたった今ならば、当時の自分に向けて、子供と向き合う実は貴重なその濃密な時間をこそ「ぜひ肩の力を抜いて楽しんで」なんて言えるけれど、あの時はそんなこと、もし誰かが言ってくれたって、私の耳には届かなかったはずだ。そしてある時、じたばたしながら、はたと気づくのだ。そうか。出産は「ゴール」じゃなく、長く続く「子育て」というものの「スタート」に立った、ってことだったんだなと。
ともすると人は、受験勉強中は合格がゴール。就活中は就職がゴール。婚活中は結婚がゴールで、妊活中は妊娠がゴール。そしていざ妊娠すると出産がゴール。そう思ってしまう。
でもどれもこれも、そのゴールだと思ったものは、必ず何か次のスタートで、長い人生においては、ひとつのマイルポストでしかない。
そしてどのマイルポストも、だいぶ通過してからはじめて、そこに到達するまでの努力や経験、喜びや悲しみといったその時に味わったさまざまな感情を、懐かしく大切な記憶としてまるごと慈しむことができるようになるのだと、私は思う。
だから今は、須藤さんの「出産」というひとつのマイルポストが、いつの日かこの上なく愛おしく大切な時間として素敵に輝くように一同級生として願うばかり……。
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- 登場人物 -