「でも結花はコーヒーもそんな飲まないし、歯も黄ばんでるってほどでもないじゃない? なのに気になる?」
「コーヒーは飲まないけど、赤ワイン大量に飲むから。どうしても着色はするわよね」
「なんだろうね、真木や私がコーヒーで歯が黄ばむって話で、結花は赤ワインで黄ばむ? あなたはほんと期せずして、言葉のはしばしから、セレブ奥様感が出ちゃうよね」
「そう? 着色しちゃうっていう事象は一緒でしょ」
「歯が白いと5歳若返る!とかって人気セレブモデルが雑誌で特集してるの見て、興味持ったんじゃないの?」
あたしが茶化すと、結花はいやいやと手を振りながら真顔で言う。
「いや、理沙みたいに白い歯の人と話すと、単純に気持ちがいいなと思って。だから私も白くしたら、私と話す相手が気分いいかなと思って。同じことを話すにしても、対面している相手がちょっとでも気分よくなったり、嬉しくなってくれる方が、なにごともいい結果につながりそうな気がするのよね」
なんですと? 相手が気分がいいだろう、って……?
「例えばね、整形したって、自分がいいと思う顔カタチを、相手も同じようにイイと感じるかどうかはわからないじゃない? だけど、白いきれいな歯は自分も気持ちいいし、その歯を見る相手もおよそ間違いなく嫌な気分にはならないでしょう? 黄ばんだり黒ずんだ歯を見るより、白い歯を好む人は間違いなく多いと思うのよ」
なるほど。
「理沙のホワイトニングって、1回当たりどれくらい時間かかる?」
「あたしが行ってるクリニックは、最近薬もマシンもパワーアップしたとかで、1回あたりの照射時間がだいぶ短くなって、かつこれまで以上に1回でかなり白くなるようになったよ。すごく短い時間で済む」
「お値段的にどれくらいするものなの?」
「ピンキリだよ。クリニックやお店にもよるし、どこもコースがいろいろあるから。歯医者さんが在籍しない1回10分、1000円くらいでセルフホワイトニングできるサロンもあれば、個室でゆったりカウンセリングから始めてくれるところもあるし、結花が何を求めるかじゃない?」
「理沙は何優先で決めたの?」
「あたしはちゃんとした歯医者さんがやってるホワイトニングがよかったの。多少払ってでも、そこに行けばホワイトニングはもちろん、歯で問題があったらそこに全面的に丸投げしたいから」
「私もそっちがいいわ。自分でやるのはパス。メンテナンスは丸ごと委ねたいわ。どこで始めようかしら」
「あたしがはじめてホワイトニングしたのはもう10年くらい前かなあ、とりあえず会社帰りに寄れる駅でクリニックを探して、はじめは10万くらいの白さ保証コースで集中的に通うとこから始めたかな。10年前はまだ今ほどホワイトニングがメジャーじゃなかったから、ちょっと割高ではあったよね」
「そっかー、うわー、迷うなー」
「何が? 値段?」
「違う違う。値段はいいのよ、成果が出るなら」
そうですよね、結花がケチなことを言うのを出会ってこのかた一度も聞いたことがない。
「実はホワイトニングと同じくらい興味あるものがもう一つあって……」
「何?」
「笑わない?」
「早く言いなさいよ、何?」
「脱毛。ブラジリアンワックス。やるならどっち先トライしようかなあ……って」
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- 登場人物 -