人として、社会人として、会社の上司として。どこまでが仕事の範疇だろう…【小説・じゃない側の女 番外編~酸化に負けない側の女 Vol.8】

【連載第8回】好む好まざるにかかわらず「じゃない側」からはそう簡単に抜け出せない。すべてのアラフォー女性に送るWEB連載小説の番外編『酸化に負けない側の女(Side理沙)』
人として、社会人として、会社の上司として。どこまでが仕事の範疇だろう…【小説・じゃない側の女 番外編~酸化に負けない側の女 Vol.8】_1_1
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突然の退職届と、その手前の一括有休消化に突如として突入した彼女に、「さすがにこの突然さは、身勝手過ぎる。社会人として非常識」とか、「引き継ぎもしない気か」など、中には批判的なメンバーもいたけれど、おめでたに伴うことだったし、あたしは「最後に挨拶に来てくれるということなので、出社最終日には、元気に送り出そうよ」と声をかけた。

業績不振で、全員担当業務が溢れ気味。物理的にも精神的にも逼迫している中、何の引き継ぎもなく長期有休消化に入ってしまった彼女の仕事を急きょ残るメンバーに割り振るのは、このタイミングではどうしてもはばかられ、当面はあたしがやるべきだな……と、独り黙って担う日々。

何か思ったって思わなくたって、やらねばならない仕事はなくならないなら、何も考えずやった方がいい。約1か月、淡々と取り組んだ。これも給料のうち(のはず……)、そう思って。

そんな彼女の有給休暇があと少しで終わり、あとは最後の挨拶に来社予定……というある日、彼女からLINEが入った。

それはとても残念なお知らせだった。

彼女自身はとっても元気だが、病院に行ったら、赤ちゃんの心拍が確認できなくなっていた、という内容だった。妊娠・出産どころかいまだ結婚すらしたことのないあたしには、どうコメントするのが適切かまったくわからない内容で、不用意に傷つけてしまうようなことだけは言いたくなかったし、言ってはならないと思った。

だから、『会社のことは何も気にしなくていいから、今は体を大事にしてほしい』という旨を、言葉少なく丁寧に伝えるにとどめた。

私には全く知識がなかったが、彼女曰く次の妊娠に差支えがないよう適切な処置をする手術の必要があるとのことで、もう少し休みを延長してほしい。でも、退社前、最後の挨拶にだけは行きます、と連絡が来た。

彼女におきたことも、彼女の辞める意志が変わっていないことも、もうしばらくお休みを要することも、伝えられた内容の諸々を了解し、あたしは引き続き、黙々と彼女が置いていった仕事に対応し続けた。

そしてその、彼女の手術の日。驚くことに彼女から、手術室に入る直前の様子や、手術中どうだったか、途中何が聞こえて、処置がどうで、終わってから何をしたか何を思ったかなど、事細かにリアルに描写された詳細のレポートが、あたしのLINEに計30回近く送られ続けた。

シビアな売上会議の中、バイブがなり続ける携帯。見れば彼女からのライブレポート。困惑した。

出産どころか結婚も妊娠もしたことのないあたしに、一体何をどう言えるだろう。できるのだろう。こう何度もリアルタイムでレポートを送ってもらっても、身内でも友達でも親戚でもないこのあたしに一体何が……。

人として、社会人として、会社の上司として、一体、何をすべきなのか、出来るのか、求められているのか……。そもそもどこまでの対応があたしの、マネジメントとしての仕事の範疇なのだろうか。

なんともいえない気持ちは、もちろん誰にも言うことなどできず、あたしは、重苦しい会議の中、ただただ静かにそっと息を吐き、静かにそっとうつむくことしかできなかった。

そして。
それからさらに1か月程経ったある日、彼女がついにオフィスにやってきた。

専業主婦になると決意し、スパッと退職することを決めた彼女は、有休消化に突入する前に、デスクもロッカーも、ペン一本残さずきれいに片づけを終え、会社貸与のパソコンもスマホも、名刺も名札も社員証も、必要な返却はすべて完了させ、見事に撤収を終えていた。

だからもはや、このオフィスで彼女が働いていた痕跡は何ひとつないかのような状態の中、最後の挨拶にだけ、彼女はやって来ることになっていた。

せっかく挨拶に来てくれるというのだから、あらかじめ皆で相談し、少しでも彼女がニッコリしてくれるような可愛らしい花を選び用意して、新しい生活に歩み出す彼女を全員であたたかく送り出そう、という話になっていた。

ところが。

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