「さりげに自慢を織り込むことを忘れない男って、結構いるんだよね」
「悩んでる人に無神経なこと口走っちゃうのはよくないから、基本男性のお悩みは聞くに徹するんだけど……」
「なんで仕事でもないのに、男と飲みに行って、女のこっちが気を遣わないといけないんだ? あたしはやだなー」
「だけどある時、これから子供たちがどうなるのか不安だってひたすら1時間くらい彼のお悩みトークが続いた時にね」
「1時間!? うざいわー、その男。いくら昔からの知り合いとはいえ、よく相手してられるわね、真木」
「いや、さすがに黙って聞いてはいられなくて、『私たちが子供の頃と比べたら、今の方が選択肢は増えているように思うから、お子さんたちが自分なりの幸せな道を、たくさんある選択肢の中から選べたらいいよね』ってつい言っちゃったの。本当にそう思ったからなんだけど」
「それ、何か問題ある? 特に悪意は感じないけど」
「悪意はなかったけど、イラッとさせたみたい。急に、お前に親の気持ちの何がわかるんだ、俺と嫁がどれだけ悩んでると思ってるんだー!ってキレられちゃって。お前や俺が歩んできた、いわゆる普通の、みんなと同じようようにガッコいって名のある会社入って仕事して稼いで……っていう普通の道から自分の子供は外れるかもしれないってことが、外れたらどうなるのかわからない親の不安がどれくらいのものか、この歳で独り身のお前なんかにわかるかよ!って」
「うわ、その男、まじ最低。じゃ嫁以外に話すなよって言ってやれ。黙って話聞いてうなずいてくれて、お気に召す相槌だけ返してほしいなんて、勝手過ぎでしょ。あたしなら、そんなサービス望むなら、それに見合う金払えって思っちゃう。いや、言っちゃうな」
「まあ女はね、こうやって仲良しと会って、仕事からプライベートまで、割となんでも話せたりもするじゃない? だけど男の人は親しい仲間で集まって飲んでも、そこまで個人的な話や事情や思いをさらさないのかもなって思うと、ちょうどいい吐き出し口が無いんだろうなーって、理解はできるから」
「甘いなー、どこまでも男に甘いわ、真木は」
「だけど私、カウンセラーじゃないからね」
「そりゃそうよ。で、どうしたの? まさか謝ったの? ごめんなさいとか、謝って無いでしょうね」
「『お子さんの写真見せてくれる?』って話を変えた」
「なんで? その話の流れで、見たくなる?」
「いや、どんなタイミングでもね、お子さんの写真見せてっていって、見せない男の人っていないんだよね。で、『うわ、かっわいいねー!似てるねー!』って、大きめにリアクションすると、大体機嫌よくなるから」
「真木はほんとに元トップ営業だな。面倒くさい輩のあしらい方がそつなさすぎる……でも、だから出来るキャバ嬢のようなおもてなしを期待されちゃうんじゃないの?」
「いや、嘘言うわけじゃなくて、子供って大体可愛いから話盛り上がるんだよ。褒められて嫌な気分になる親っていないし」
「でも、たまにどう見ても可愛いとは言いづらい子供だって、正直いるでしょ。そういう時はどうするの? さすがの真木も嘘ついて無理やり褒めるの?」
「思ってないこと言ってもそれはばれるよ。そういう時は、子供はどこかしら親に似てるから、似てるとこ見つけて、眉毛が似てるねーとか、鼻の感じがそっくりだねーってそのまま言うと、嫌な顔はされないね」
「覚えておきます」
「でね、そのキレた彼っていうのがね、機嫌が直ると今度は隙あらば手を握ってこようとしたり、膝に手を置いてこようとしたり、キスしようとしてくるんだけど、そういうとこがせこいなあというか、即座にずるさを感じちゃうわけ。わかりやすく、やらしい男のずるさをね。だからこそ、この歳では、そういう既婚男性と絶対におかしなことにはなりません、って話でした」
「わかるわー。あなたつい数分前まで、子供と嫁の話をその口で得意げになさってましたよね?それはどこいった?みたいなね。そういう奴は、愚痴もHも、なんでも嫁とだけしろ嫁と、って話だよね。ねえ? 須藤さん」
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